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政策立案イノベーションに成功して持続可能な社会を実現できた星の話

物語の設定

宇宙人が未開の星に移住するという設定で、架空の星に経済と環境の両立を実現する理想社会をつくってみました。

その星に住む移住者たちは、環境問題だけでなく、いま我々が有効な解決策が見つからず困っている様々な課題の克服も試みています。

ここでは、移住者たちがどのようにして難題を解決したのかを続き物で紹介していきます。
ガイド役は、理想社会の創造に携わった移住者が務めます。
では、お楽しみ下さい。

前回の話

前回は、宇宙移民の考えた小さな政府を成功させるイノベーションを紹介しました。
その記事はこちらです。

最初の記事はこちら
次の記事はこちら
目次はこちら
持続可能な社会のつくり方について書いた記事はこちら
理想社会の設計方法について書いた記事はこちら

今回の話

今回のテーマは政策立案です。
政策立案のイノベーションは、前回紹介した小さな政府のイノベーション以上に、私たちの運命に大きな影響を及ぼします。
政府を医療に置き換えると、小さな政府の成功術は病院経営に関する成功術(政府を持続可能にするイノベーション)になり、政策立案の成功術は診療に関する成功術(社会を持続可能にするイノベーション)になるからです。

しかし我が国を始めとする世界の国々の政府は、環境問題や世界平和など人類存亡の危機になる問題にうまく対応できているとはいえません。
むしろ問題解決の足を引っ張る国に振り回される事態になっており、ただでさえ難しい脱炭素社会の実現をさらに困難にしてしまいました。
2030年までの行動で人類の運命が決まると言われるほど切迫したこの状況下で、改善を後退させる失政が連鎖したことにより、人類は史上最大のピンチに追い込まれたと言っても過言ではないでしょう。

この難局を乗り切るには、相当レベルの高い政策を考えなければならないはずです。
また従来のままでは同じ失敗を繰り返すだけなので、政治そのものを根本的に変えるくらいの改革も必要になるでしょう。

今回紹介する宇宙移民の考えた政策立案のイノベーションでは、政治のあり方を変えることで最善策をスピーディに導き出す方法を紹介しています。

いま私たちにとって必要なのは、ピンチを克服する新しいアイデアを出し合うことだと思います。
宇宙移民のアイデアが、その一つとして役立つことができれば幸いです。

政策立案のイノベーションが必要だと考えた理由

政策立案のイノベーションの必要性を正確に捉えるために、まず法律が必要になった原点までさかのぼってみたいと思います。

故郷の星では、万人の生命と財産を守るために法律という方法が発明されたと言われています。
つまり無法状態になると殺人や強盗が横行する世の中になってしまうので、法律が必要になったのでした。

しかし万人に通用する法律をつくるには、政治権力が必要になります。
この権力を独裁者に握られると、政策や法律は独裁者の利益を増やすのに都合のいい内容に変えられてしまいます。

そこでそれを防ぐ方法として、故郷の星は人民が選んだ代表者たちによって政策や法律が決められる議会制民主主義を考えたのでした。

ところが、その方法では持続可能な社会をつくることはできませんでした。
故郷の星の考えた政策立案システムには、次の3つの欠点があったからです。

  • 政策の質が低い

  •  方向性を間違える

  •  修正が遅い

民主的に政策や法律が決められても、こうした問題を抱えたシステムでは手遅れになってしまいます。

事実、故郷の星は環境問題の解決を間に合わせられなかった結果、あらゆるものが不足する事態になり、それをめぐる紛争が激化する(万人の生命と財産を守ることのできない)世界になってしまいました。

私たちが政策立案のイノベーションが必要だと強く思うようになったのは、その悲惨な結末を見たからです。

政策立案を狂わせる原因

私たちは故郷の星と同じ失敗をしないために、政策立案を狂わせる原因になるものを踏襲しないことにしました。
政策立案を狂わせる原因になると判断したものをあげると、次の3つになります。

  • 政党政治

  •  選挙

  •  資本主義

政策立案において必要な視点

政策立案において必ず配慮をしなければならないものがあります。
それは次の2つを維持することです。

  • 世界平和

  •  豊かな自然

この2つを維持することが重要な理由は、これらがなくては持続可能な社会を実現できないからです。

また他の生物のためにも自然環境を守らなければなりません。
生きる権利は人間だけに与えられているものではありませんし、多くの動植物が住みにくくなる環境にしてしまうことは食糧危機など様々なかたちで因果応報の報いを受けることになってしまうからです。

以上のものを守るためにもたなければならない視点次の3つになります。

  • 自国中心にならない視点

  •  経済優先にならない視点

  •  人間中心にならない視点

この視点をもつことが重要な理由を因果関係で説明すれば以下の通りです。

  • 自国中心になる→世界平和が脅かされる

  •  経済優先になる→環境破壊や環境汚染が進む

  •  人間中心になる→絶滅危惧種が増加する

政策立案の難しさ

とは言うものの、こうした視点をもつのは簡単ではありません。

まず人間は、生きていくために環境にダメージを与えることが避けられない宿命にあるということです。
つまり他の動物のように、家をもたず裸で暮らすわけにはいかないということです。食事においても野生動物のように成り行き任せでは餓死してしまいますので、森林を伐採して田畑をつくったり、食品保存のために環境に負荷をかける冷蔵庫が必要になったりします。

また経済を優先してはいけないと言われても不景気や過当競争などで苦境に追い込まれれば、そういう選択をする余裕はなくなってしまいます。

自国中心の発想を捨てにくいのも同じです。生き馬の目を抜くような激しい国際競争が繰り広がられている世界で、お人好しな行動をとっていたら利益を奪われてしまいます。

動植物でも利益を奪うものに対しては、優しく接することができる人は少ないでしょう。
たとえば、丹精込めてつくった農作物が野生動物や害虫に荒らされたり、畑に雑草が生い茂ったりすれば、人間中心でない発想でいられなくなります。

しかし難しいことを理由にやらないわけにはいきません。
自然には言い訳が効かないからです。

また先送りをして悪化するほど、問題解決の難易度が増してしまいます。
さらに悪化するほどその速度も増すことになるので、迅速に対応できないと手遅れになってしまいます。

故郷の星の政策立案の方法とは

前述した政策立案を狂わせる原因(政党政治・選挙・資本主義)の問題点ついて語る前に、故郷の星の中央政府における政策立案のやり方を簡単に説明しておきたいと思います。

と言っても、故郷の星にはたくさん国があり、それぞれ政策立案の方法が違います。
その中からどれを代表例に選べばいいか迷いましたが、私の故郷の国の方法を紹介することにしました。
自分の故郷を選んだ理由は次の2つです。

  •  自分の故郷なので最もよく説明できる

  •  特徴が少ないので代表例にあげておかしくない

私の故郷の国は小さな島国ですが、世界第2位の経済大国になったこともある先進国であり、他の主要先進国と同様に議会制民主主義を導入していました。
経済体系も他の主要先進国と同じく資本主義でした。
つまり先進国のなかで特殊な国ではないという点においても、代表例として使用することに大きな問題はないということです。

私たちの故郷の国では、法律や予算の形式を取る政策は国会の議決を必要としていました。
国会で法律が議決するまでの流れを見ていきましょう。

国会で審議する法律案には、内閣が提出するもの国会議員自らが提出するものがありました。

ただし国会議員自らが提出する法律案は一人ではできず、必要署名数を集めなければなりませんでした。
たとえば、法制化することで国費の追加支出が発生する法案は、最低でも議員20人の署名が必要になりました。

また法案作成には、高い能力が必要になるというハードルもあります。
専門的な知識をもっていない国会議員でも法案作成をやりやすくするために、政策秘書を国費で雇えるようにしたり、法案作成の相談に乗る組織を国会事務局に設けたり、情報収集や調査の協力を国会図書館にさせたりしていました。

内閣が提出する法律案には、関係省庁の官僚自らが提案したものも多くありました。
官僚は法案作成能力や問題調査能力に優れていましたし、行政について政治家よりも深い知識があったからです。

そういうことから故郷の国では官僚が大きな力をもち、内閣が提案する法律案は国会に提出する前に、各省の官僚のトップが集まる会議で全員一致の承認をもらう必要がありました。その後でないと、内閣が行う会議での決定ができなかったのです。

どちらの法律案も国会に提出すれば国会の本会議で審議してもらえるわけではありませんでした。
そのまえに関係する委員会での審査に通る必要があったのです。
しかも、私の故郷の国では二院制になっていたので、それぞれの委員会で審査を受けなければなりませんでした。

二院制にした目的は、慎重に審議を行うためでした。
しかし両院の議決が一致しないと、政策決定が進まなくなる問題もありました。
そういう場合は両院の話し合いで決める協議会を行うことになっていました。
それでも決まらない場合は、優越するほうの議院で再び多数決をとって決定していました。

政党政治の問題

では、政策立案を狂わせる原因(政党政治・選挙・資本主義)の問題点を語っていきましょう。

まずは「政党政治の問題」から始めます。

■ 政党政治とは
まず政党とは、同じ目標をもって政治活動をしている人たちが集まってつくった団体のことです。
そしてふたつ以上の政党(大きく分けて二大政党制と多党制がありました。私の故郷の国は多党制でしたが、次第に一強多弱になっていきました)が、それぞれの目標に基づいた主張を闘わせながら国の進む方向を決めていくのが政党政治になります。

■ 政党政治のメリット
政党政治のメリットをあげると、次の3つです。

  • 審議の効率化が図られる

  •  投票がしやすくなる

  •  民意を反映しやすくなる

審議の効率化が図られる理由は、政党ごとに考えをまとめることで効率的な話し合いができるようになるからです。
国会には会期があり、限られた時間内に多くのことを決めなければなりません。政党がなければ、意見がバラバラで話が進まなくなり、いくら時間があっても足らなくなってしまいます。

投票がしやすくなる理由も、政党ごとに候補者をまとめることで選択技をうまく減らせるからです。
つまり政党で選ぶようになることで、選択肢が多すぎて選べなくなるような問題が起こらなくなるということです。

民意を反映しやすくなる理由は、国民から最も多くの支持を得た政党が与党になれるからです。
もちろん選択を誤ることもありますが、選び直すことで政権交代ができるのも政党政治の長所です。
また政権交代の危機感があるから、与党も民意に沿った政治を行わなければならなくなります。

しかし故郷の星では、民衆の期待に応える政治が行われず、政治に対する不信感が増すばかりでした。
どこに問題があったのでしょう?

■ 政党政治の問題点
「政策立案のイノベーションが必要だと考えた理由」で、故郷の星の考えた政策立案システムの問題点として次の3つを挙げました。

  1. 政策の質が低い

  2.  方向性を間違える

  3.  修正が遅い

では、政党政治がその3つの問題点にどう影響するのか見ていきましょう。

① 政策の質が低くなる理由
政策の質に大きな影響を与えるのは、政治家の質です。
もちろんその理由は、政策を考えるのが政治家だからです。

故郷の国では25歳以上の国民であれば誰でも選挙に立候補できましたが、現実的には一般庶民が立候補するのは大変でした。
それは当選に必要とされる次の3つの力が弱いからです。

  • 後援会

  •  知名度

  •  政治資金

また選挙に立候補しようとすると、会社を辞めなければならなるのが普通です。
当選の確率が極めて低いのに、これまでのキャリアを捨てるのは相当勇気がいりますし、家族の理解を得るのも大変です。
こういうことから候補者の大半は、3つの力をもっている二世議員や有名人、会社の経営者などで占められていました。

しかしこれでは本当に優れた人物を政治家にできません。
政治家にふさわしい能力と人格をもった人が知名度に勝っているだけの人に負ける人選システムでは、質の高い政治家を集めることはできないのです。

また政策を考える能力に優れていても、与党でなければ政策を実現することは難しくなります。
まず発議要件を満たせない少数野党は法案提出に必要な署名数を集めることに苦労しますし、なんとか法律案を提出できても、委員会に付託する法律案を決める議会運営委員会が与党多数であると、野党が提出した法律案は放置されてしまい、法律案が成立しないどころか、審議すら行われないのが普通でした。
そもそも政策を実行に移せる法律案をつくれるのは政権与党の内閣だけなので、与党に属していないと政策立案能力を活かすことはできなかったのです。

だからといって自分の考える政策の実現を目的に与党議員になっても、それが与党の考えに合わないとうまくいくことはありません。
政党の承認がない法律案は、必要署名数に達していても受理できないしきたりになっていたからです。
政党の承認を得るとは、つまり政党で大きな権力をもっている議員の承認を得るということです。

故郷の国の与党で大きな権力をもっていたのは、親などから地位を引き継いだベテランの二世議員たちでした。
そういう議員は老害になっている場合が多く、これが政策に良くない影響を与える原因になっていました。

しかし実力者に逆らうことはできません。
気に入られないと法律案が承認されないだけでなく、選挙で党の公認をもらえなくなるリスクも高くなるからです。
こういう仕打ちを恐れて優れた議員も長いものに巻かれる選択をせざるをえなくなり、権力者の考えた政策の間違いを指摘できない組織になってしまうのです。

② 方向性を間違える理由
政策の方向性を間違える理由はいくつかあります。
主なものをあげると以下の通りです。

  • 与党の歪んだ理想を叶えるための政策になる

  •  支持してくれる企業や団体、業界の利益を考えた政策になる

  •  官僚の利益を考えた政策になる

  •  国民に嫌われるのを恐れて必要な改革を行えない

  •  選挙対策のバラマキをする

  •  失敗の責任をとるのを恐れて問題を先送りにする

  •  政権維持のために連立政権にしたが、政策の違いで問題が起きる

③ 修正が遅くなる理由
選挙以外で与党の政治の間違いを修正できる機会は、与野党の議員が参加する国会しかありません。

国会において野党が必要な理由は、与党が犯している間違いを指摘することや、与党の見落としている問題を気づかせることにあります。
政党ごとに考えが違うことは、いろいろな角度から物事を見られる鏡をもっているのと同じです。車を安全に運転するのにバックミラーや左右のサイドミラーが必要なように、野党は与党の誤った政権運営を正すために必要なのです。

また与党の間違いを指摘できるのは、忖度なく意見を言える野党しかいません。そこに野党の存在価値があるといえるでしょう。

しかしここで重要なのは、それぞれ違った考えをもっていても、国を良くするために協力していこうとする一致した姿勢です。
そのためには、与党は素直に野党の意見を聞いて問題点を修正する気持ちをもつ必要がありますし、野党も与党の政策を純粋に良くしようという気持ちをもつ必要があります。

ところが故郷の国では、与党は聞く耳を持たず、野党は反対のための反対をし、非難の報酬に明け暮れ、相手の失敗を喜ぶような国会になっていました。

どうしてそのようなことになってしまうのか?
それは相手が議席を奪う「政敵」になるからです。
つまり議席を奪われれば野望を達成できなくなるので、政敵をつぶしたいと考えるようになるわけです。

敵対関係になると、多数決で正しく物事を決めることはできなくなります。
政敵を勝たせなくないと思うと、敵か味方かで判断することになってしまい、政策案や法律案を客観的に正しく評価できなくなってしまうからです。

また数の力が悪用される国会では、間違いを修正できるはずもありません。
数の力を求めると、議員の質も低下します。
数の力を増強できさえすればいいという価値観になると、当選しやすいタレントや引退したメダリストなどを擁立するようになってしまうからです。

挙手要員で議席を増やした政党は、いくら議員数が多くても多様性に富んでいるとはいえなくなります。
数の力を最大限に発揮するには全員を挙手要員にする必要があるので、多様性を抑圧して一枚岩にする運営が行われるようになるからです。

与党一強になれば、国会審議も形骸化してしまいます。
そうなると与党のやりたい放題になり、何もかも与党に都合のいいルールに変えられてしまいます。さらに、誰も独裁政治を批判できないように言論の自由が制限される法律までつくられてしまうと、修正が遅れるどころか、修正ができなくなってしまいます。

かといって、与野党の議席が拮抗すれば、政治が良くなるとは限りません。
互角の力になることで熟議が行われるのではなく、互いに譲らなくなって決着に時間がかかるようになってしまうからです。
それで国会が紛糾する頻度が増えては、政治が停滞してしまいます。

選挙の問題

次は政策立案を狂わせる原因の2番目にあげた「選挙の問題点」を見ていきましょう。

■ 故郷の国の選挙について
ここで扱う選挙は、国会議員を選出する国政選挙です。
故郷の国では、18歳以上のすべての国民に投票権が与えられていました。

前に故郷の国は二院制をとっていると述べましたが、被選挙権の要件や任期、選挙制度は議院ごとに違っていました。
これは、異なる選挙方式を使えば異なるタイプの政治家が選ばれやすくなることで、二院制の目的であるダブルチェックが機能するようになると考えられたからでした。

しかしどちらも「候補者に投票するもの」と「政党に投票するもの」がありました。
ふたつの投票方法を採用した理由は、死票の比率を下げるためです。
特に小選挙区制では、一つの選挙区から一人の議員しか当選しないため、中小政党に投じられた票は死票になってしまいがちです。
小選挙区のこの欠点を補うために、政党に投票する比例代表制が組み合わされたのでした。つまり各党の得票に応じて議席を配分することで、すべての党に民意を反映した議席が確保できるようにしたのです。

選挙運動を公平にする方法としては、選挙期間以外に選挙運動をするのを禁止したり、選挙運動の費用に上限を設定したり、選挙運動に関わる有償の運動員の人数や報酬を決めたりしていました。
このほか買収も禁止され、選挙運動でこれらの違反行為が認められた場合、逮捕されたのが選挙運動の責任者であっても、候補者の当選は無効になりました。

■ 選挙のメリット
選挙の目的は、国民の中から信頼できる代表者を選ぶことで、国民の意思を政治に反映できるようにすることにあります。
この他に選挙のメリットをあげると、次の2つです。

ひとつは、共感できる政策を掲げる候補者や政党を誰でも自由に選べることです。
これを可能にするには、有権者が誰に入れたかバレないようにしなければなりません。故郷の国では投票用紙に自分の氏名を書かないようにすることで、秘密選挙の原則が守られるようにしていました。

もうひとつは、政治を任せてみたが期待はずれだった場合、次の選挙で別の候補者や政党を選べることです。そしてそれと同じ行動をとる人が多くいれば、その政治家を辞めさせることができたり、政権交代を実現できたりします。

民主主義国家の良さは、選挙でこうした試行錯誤を繰り返せることです。
政治家も選挙で審判が下されるとなれば、緊張感をもって政治を行うようになります。そういう点で選挙は、政治腐敗を防ぐにはとても効果的だと言えるでしょう。

■ 選挙の問題点
選挙の一番の問題は、正しい人選が本当にできるのかという問題です。

正しい人選を行うには、候補者のことを正確によく知っていることが重要になります。
自分の住んでいる選挙区から出ている候補者に投票するのも、地元の人のほうが候補者のことをよく知っているからでしょう。
また候補者も自分をよく知る地元のほうが支援者を集めやすくなります。

しかし候補者がよほどの有名人でないと深く知るのは難しく、無名の新人においては選挙で初めて顔を知ったという人がほぼ全員になってしまいます。

何度も当選している政治家でも、テレビなどで活躍が伝えられるのは要職につく一部の政治家だけなので、大半の政治家は何をしているのかわかりません。

また職場では、会社が推している候補者だけに選挙演説が認められるという不公平が行われていました。

さらに選挙演説で政策論争を戦わすといっても、野党は与党のように政策の成果を示すことができないハンデを負っています。

こうした格差があると、公正公平な比較検討をできるわけがありません。

また選挙運動で候補者が見せるのは、よそ行きの顔です。
つまり有権者に好感をもたれるようにいい人を演じていますし、有権者に嫌われるような公約は隠して大衆受けをする公約だけを並べるのです。

中には、できもしない公約を掲げる候補者もいました。
与党になる可能性のない政党ならば、どんな公約を掲げても当選後にそれを実現させなくてもよいので、無責任なことを言えるのです。

与党も選挙が終われば反故にする公約が多くありました。
公約の実現度を検証する機関がありませんし、公約を守らなくても罰せられることもないので、いい加減な口約束ができたのです。

それどころか、マニフェストに掲げていなかったおかしな政策の実行を不意に宣言し、与党一強なのをいいことにやりたい放題のことをしていました。
「自分たちの政党に政治を任せたいというのが民意なのだから、自分たちのやりたい政策を実行しても民意に反していない」というのが、彼らの言い分でした。

これが詭弁きべんなのは明らかですが、かといってそれは間違っていると、誰もが納得する民意を取り出して見せることができないのも事実です。
世の中が複雑になれば民意も多種多様になり、ある人にとっては良い政策も、別な人には良くない政策になる場合も多くあります。
多数決で民意を示す方法があっても、少数意見のほうが正解というケースもありえます。
そもそも民意を完璧に反映させるのは不可能なのです。激辛のカレーが好きな人がいれば甘口のカレーが好きな人がいるように、民意は人それぞれだからです。
以上のように民意とは漠然としたものであり、空気をつかむようなものなのです。

また民意だから全面的に良いというものでもありません。
民意が目先の利益しか見ていなかったり、自分中心の考えであったり、感情的な判断をしていたりすることもありえます。
それに迎合した政策をたてる政治は、視聴者が望むからとか、消費者が望むからとか、ニーズを理由に社会的に悪影響を及ぼす番組や製品をつくることを正当化する企業と変わらなくなってしまいます。

本当に国民の事を考えたら、民意とズレたことをしても正義になりうるのです。
それは家族が味の濃い脂っこい料理が好きでも、家族の健康を考えて塩分も油も控えめの料理をつくるのと同じです。

民意が多様ならば、選挙で政権交代させることも容易ではなくなります。
さらには小選挙区で落選したのに比例代表で復活当選することもあるので、簡単に辞めさせたい政治家を落とすこともできません。

また故郷の国では与党が権利を悪用し、自分たちに有利なタイミングで解散して政権交代をさせない卑怯なことをしていました。

政権交代を実現できたとしても、与党になった経験がなく、前与党が引き継ぎに非協力的であれば、政権運営に失敗する可能性が高まります。
しかも野党の無責任さから現実性がないマニフェストを掲げていれば、すぐに化けの皮がはがれてしまいます。

故郷の国では同じ政党がずっと与党の座を守っていたので、政権交代がまれにあっても新与党が力不足ですぐに挫折し、また元の与党に戻るパターンの繰り返しでした。
その結果、有権者は野党に失望し、仕方がなく同じ与党を選ぶような投票のしがいのない選挙になってしまったのでした。

失敗を取り戻すにも、選ぶ党がなければ失敗を取り戻すことはできません。
選挙でも国会でも間違った政治を修正するのが難しくなれば、環境問題など切迫した問題の対応が遅れ、取り返しのつかない事態を招いてしまいます。
事実故郷の星は、修正に恐ろしく手間取る政治システムを捨てられなかった結果、ついにタイムオーバーになり、悲惨な結末を迎えることになってしまったのでした。

資本主義の問題

残るは「資本主義の問題」です。
私たちは、資本主義には次の3つの問題があることで政策立案を狂わせると考えました。

  1. 問題を大きくする原因になる

  2.  政策を歪ませる圧力になる

  3.  全体最適の政策をつくれなくする

どうしてそうなるのか、それぞれ理由を説明してみましょう。

① 問題を大きくする原因になる理由
資本主義が引き起こす最も深刻な問題は、環境問題です。

環境破壊や環境汚染、資源の枯渇などの環境問題は、人間が行う過度な経済活動によって発生するものです。

しかし誰もが快適で安心して暮らせる貧困のない社会をつくるには、経済活動を行わないわけにはいきません。
そこで重要になるのは、環境と共生できる規模に経済をスリム化しても、人々がそういう社会で暮らすことを可能にする政策になります。

ところが資本主義は、経済のスリム化に不得意な性質をもっています。

経済のスリム化を成功させるには、経済システムのムダ削減と効率性を極める必要があります。つまりその理論は、クルマが軽量化とエンジンの高効率化で、排気量をダウンサイジングしても優れた燃費性能と運動性能を得られるのと同じです。

スリムになると、楽に長距離を走れるようになります

この点において資本主義には致命的な欠点があります。
資本主義経済には過剰に企業が存在し、それが原因で過当競争が必然的に発生することになるので、ムダと非効率が大きくなってしまうことです。

それに加えて企業は利益を増やすために、いかに消費者に無駄な買い物をさせるか知恵を絞ります。
そのためにモデルチェンジや新商品の開発を競い合い、消費者の買い替えを活発にしようとします。こうした商品の寿命を不必要に短くさせる商売も、環境負荷をムダに高める原因になっていました。

② 政策を歪ませる圧力になる理由
資本主義が政府に求めることは、自由な経済活動ができるようにするために、政府は余計な介入をするなということです。
そうすることで経済が活性化し、誰もが豊かに暮らせる社会をつくることができるのだし、競争があることで経営努力が行われ、安くていいものを買えるようにもなるのだから、誰もが世界で自由に生産や商売ができるよう規制を撤廃すべきだと主張したのでした。

しかしその理論には、自由な経済活動によって起こる損失は含まれていませんでした。
どんなに経済を大きくできても、結果的に損失がそれに勝って社会が持続不可能になってしまえば、その理論は間違っていたことになります。

しかし資本主義は利己心の追求こそが国を豊かにする最善策になると信じているので、規制に縛られず利益を増やすことに専念できる世界になるよう政府に圧力をかけます。
政権を担う与党議員も資本家の支援のおかげで当選できているので、彼らの要求に従わないわけにはいきません。

また厄介なことに、資本主義を採用する国家では、有権者の大半は資本主義経済を動かす一員になっています。そうなると資本主義の要求することが民意になってしまいます。
民主主義国家では民意に逆らうことはできません。この様に民衆をも味方につけて資本主義に有利な環境をつくれる点においても、資本主義は政策を歪ませる強力な圧力になるのです。

③ 全体最適の政策をつくれなくする理由
全体最適の政策がつくりにくくなる社会とは、二極分化が進んだ格差社会です。

貧困層の救済を重視した政策が行われると富裕層ほど税金や保険料が高くなるので富裕層から反感を買いますし、逆に社会福祉に頼らず自己責任で解決を求める政策が行われると貧困層から反感を買うことになります。
このように皆が納得する共通尺度を見つけにくくなるので二極分化が進むと全体最適の政策が作りにくくなってしまうのです。

そうなると、どっちつかずの中途半端な政策になったり、どちらかに偏った政策になったりして、政治の失敗が繰り返されることになります。

グローバル資本主義になると、二極分化が加速するようになります。
グローバル企業が安い労働力を求めて自由に世界を移動できるようになるので国内は産業空洞化が進んでしまいますし、激しいコスト競争で人件費が削減されることにより、収入が減少したり、非正規雇用が拡大したり、機械に仕事を奪われる人が増えたりするようにもなるからです。

その結果、人件費削減を極められるようになった経営者は巨万の富を築くことができるようになる一方、その犠牲になる労働者は低賃金で生活を切り詰めなければならなくなったり、いつ職を失うかわからない不安にいつも怯えて暮らさなければならなくなったりします。

貧困問題の解決には社会福祉を充実する方法が最も有効なのですが、資本主義は次の2つの理由でその解決策を嫌います。

ひとつは前述したように、せっかく手にした富を社会福祉に取られたくないないからです。

資本主義の目的は利潤追求にあります。
となると、所得再分配を増やすことはそれを阻害する政策になるので、社会福祉の充実に反対するのです。

ちなみに故郷の国では高額所得者に対する所得税の大幅な減免を正当化するために、「頑張った人が報われる社会」という聞こえがいいキャッチフレーズを使っていました。

資本主義が社会福祉の充実を嫌うもう一つの理由は、資本主義への依存度が低くなるのを恐れるからです。

資本主義社会では、ほとんどの人は給与所得で暮らしています。
労働者が低賃金でこき使われても経営者の言うことを聞くのは、彼らのもとで働くしか収入を得る手段がないからなのです。

ところが社会福祉の充実であくせく働かなくても暮らせるようになると、ワークライフバランスがとれる仕事を選ぶ人が増えることが予想されます。
これでは資本家は思うように富を増やせなくなってしまいます。

資本主義経済の発展には、低賃金で長時間働いてくれる労働者が豊富にいることが欠かせないのです。
だからそれを阻害する原因になる社会福祉の充実を資本主義は嫌うのです。

格差社会は政治も不安定にします。
二大政党制になって、政権交代が頻繁に繰り返されるようになるからです。

二極分化が進むと二大政党制になりやすくなるのは、富裕層の支援を受ける小さな政府を推進する政党貧困層の支援を受ける大きな政府を推進する政党が強くなるからです。
分断した社会になれば対立が激化し、目まぐるしく政権交代が行われるようになったり、ポピュリズムが台頭して社会を混乱に陥れるようになったりします。

こうした問題の種をまくグローバル資本主義では、全体最適の政策をつくるのが非常に困難になってしまいます。

政策立案イノベーションを成功に導く2つのアプローチ

私たちは政策立案のイノベーションを成功するために、次の2つのアプローチを考えました。

成功の秘策を見つけたぞ!

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