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民主主義を破壊する独裁者のない世界の実現に成功した星の話

物語の設定

宇宙人が未開の星に移住するという設定で、架空の星に経済と環境の両立を実現する理想社会をつくってみました。

その星に住む移住者たちは、環境問題だけでなく、いま我々が有効な解決策が見つからず困っている様々な課題の克服も試みています。

ここでは、移住者たちがどのようにして難題を解決したのかを続き物で紹介していきます。
ガイド役は、理想社会の創造に携わった移住者が務めます。
では、お楽しみ下さい。

前回の話

前回は、宇宙移民の考えた政策立案を成功させるイノベーションを紹介しました。
その記事はこちらです。

最初の記事はこちら
次の記事はこちら
目次はこちら
持続可能な社会のつくり方について書いた記事はこちら
理想社会の設計方法について書いた記事はこちら

今回の話

今回のテーマは内閣です。

いま世界は、プーチン大統領が起こしたウクライナへの軍事侵攻で大変な目に遭っています。
この暴走を止めるべく、NATO加盟国や日本など多くの民主主義国家が団結をして様々な手段を講じましたが、ロシア軍の攻撃は弱まるどころかエスカレートし、ウクライナの都市は次々と破壊され、多くの市民の命が奪われてしまいました。

このような狂ったことを平気で行う人物がトップにいられることを不思議に思いますが、それはロシアが完全な民主主義国家でないことに原因があるのでしょうか?
確かにロシアのような権威主義の国では、プーチン氏に似たトップが独裁的な政治を行っています。
しかし民主主義国家の手本にされるアメリカでもトランプ氏のような人物がトップに選ばれたことを考えると、民主主義だから大丈夫だとは言えません。

NATOの脱退も考えていたトランプ氏が今も大統領だったらもっと大変な事態になっていたと思います。それを回避できたことだけは救いでした。
しかしトランプ氏が再出馬を考えていると伝えるニュースがありますし、同じようなタイプの人物が出てくることもありえます。
それはどの国においても他人事ではありません。

世界平和が崩れかけている現在、トップの人選を間違えると人類の未来は悲惨なものになるでしょう。
核戦争を使用する第三次世界大戦が始まるだけでなく、脱炭素社会の実現やSDGsの達成どころではなくなり、地球が人類の生存に適さない星になって、戦勝国も敗戦国も同じ自滅の道に進むことになりかねません。

こうした運命を迎えないようにするには、内閣の人選方法や内閣が暴走を起こさない仕組みを新たに考える必要があります。
そこで宇宙移民の発明した内閣イノベーションを紹介しながら、解決策を提案したいと思います。
未開の星にゼロイチで新しい理想社会を築けた宇宙移民とそれが不可能な私たちでは同じことができるとは言えませんが、現実的に使える数々のアイデアを盛り込んでいます。

では、宇宙移民の秘策を明かしていきましょう。

内閣イノベーションが必要だと考えた理由

私たちが内閣イノベーションの必要性を感じた理由は、故郷の星の失敗を見たからです。

故郷の星は民主主義である国とそうでない国があり、民主主義国家でも国によって内閣のかたちは違いました。

しかし内閣には共通して次の3つの問題がありました。

  • 政策が安定的に発展していかない

  • 民衆が考える理想と一致しない

  • 世界の信頼を失いやすい

では、この3つの問題の原因を順番に見ていきましょう。

政策が安定的に発展していかない問題

■ 何が問題か?
「継続は力なり」と言います。何をしても長続きしない三日坊主では成功するはずはありません。
政策も同じで成功には継続が必要ですし、地道に改良を続けていくことでより良いものに発展していきます。

またコロコロと方針を変えられては、作りかけのビーフシチューを肉じゃがに変えられて、わけのわからない料理を食べさせられるような目に遭います。

政策の変更が不必要に多くなると、それに費やしたお金も時間も労力もムダになります。つまり税金が無駄遣いされることになり、国民の負担がムダに増えてしまうのです。

■ 何が原因でその問題が起こるのか?
総理大臣や大統領などトップが交代することで、政策が転換されることが多くあります。
とくに政権交代でトップが変わると、前のトップが行った政策が廃止されたり、まったく別なものに変えられたりします。

政策が変更される理由は、前のトップの政治を批判して政権交代をしたので、新しいトップはその公約を果たさなければならなくなるからです。

より良い政策にするための廃止や変更ならばいいのですが、逆に悪い政策に変えられてしまうこともあります。
故郷の星のある国では、貧富の拡大に不満をもった貧困層の支持を受けて政権交代に成功したトップがいましたが、彼は他国を仕事と国益を奪う敵と見なし、前のトップの政治を全否定して自国第一主義の政治に変えてしまいました。

このような政治の暴走が起きた背景には、民主主義の担い手として社会を安定させる役割を果たしてきた中間層の没落がありました。
つまり中間層が没落して貧困層に吸収されたことで貧困層の人口が富裕層の人口を圧倒的に上回り、数の力がものをいう選挙において貧困層が強い影響力をもつようになったのでした。その結果、ポピュリズムの手法を使う独裁者に有利な選挙になってしまったのです。

中間層が消失して二極化が進むと、政治が不安定になります。
それは、富裕層と貧困層のそれぞれが理想とする政府が正反対になるからです。

富裕層が理想とする政府は、規制緩和と自己責任を進める小さな政府です。
規制が撤廃されれば安い労働力を求めて世界中を自由に移動できるようになれますし、自己責任の社会になれば社会福祉のために払う税金を少なくできるからです。

一方、貧困層が理想とする政府はそれと真逆で、国外に移った職場を国内に取り戻してくれたり、社会福祉を充実してくれたりする政府です。
しかしそれを実現させるために自国第一主義に走れば、国際協調を乱して敵を増やし、逆に経済を悪化させてしまうことになるでしょう。
それでは、社会福祉の費用もつくれなくなってしまいます。

貧富の差が拡大すると、全体最適の政策がつくりにくくなります

また中間層の仕事が激減した原因にはグローバル資本主義が進んだことの他に、国を支える産業が労働集約型の製造業から知識集約型の情報産業にかわったこともあります。
つまりグローバル資本主義で産業空洞化が進み、製造業ほど多くの人手を必要としない情報産業を中心にする産業構造に変わったことで、中間層を育む職場が減ってしまったのです。

しかし二極化を改善するために、グローバリゼーションやデジタル化に逆らうわけにはいきません。
それは時代を後戻りさせることになるからです。
故郷の星の先進民主主義国の政治が不安定から抜け出せなかった理由は、この難題にうまく対応できる手段が見つからなかったことにあります。

民衆が考える理想と一致しない問題

■ 何が問題か?
トップが自分の思うような国にしたいと考えるからです。

しかし民主主義国家の主人公は、主権者である国民です。
言い換えれば、民主主義国家では国を支配しているのは民衆であり、政治家ではありません。
民意をうまく反映できない政治では、民主主義国家にした意味がなくなります。

なので、政治家は自分の理想を叶えるためでなく、民衆の理想を叶えるために仕事をしなければならないのです。
それを履き違えると、民主主義は歪み、権威主義に傾いてしまいます。

■ 何が原因でその問題が起こるのか?
自分の理想を実現することに執着する政治家がトップになると、民意と乖離した政治になってしまいます。
トップの権限が強い国ほど、そのリスクが高くなります

故郷の星の民主主義国家の政治制度には大統領制と議院内閣制がありましたが、大統領制と議院内閣制ではトップの権限に差がありました。
大統領制と議院内閣制の違いを見ていきましょう。

★ 大統領制
大統領制にも様々な種類や形態がありましたが、ここでは故郷の星で最も経済力のあった国が採用していた大統領制を見ていくことにします。

その国のトップは大統領でした。

大統領は国家元首でした。国家元首とは、君主にかわる国の首長・統治者です。国を代表する人なので、対外的代表権ももっていました。
その点において大統領は、国家元首ではない議院内閣制のトップよりも力がありました。

さらに大統領は国民の直接選挙で選ばれているので、強力な権限をもつことができました。

また大統領制には内閣不信任制度がないので、自由な行動をとっても任期途中で辞任に追い込まれる心配もありませんでした(罪を犯した場合は、解任される可能性があります)。

そして議会が解散になっても、大統領は辞職する必要がありませんでした。
その理由は、大統領を長とする内閣(行政権)と国会(立法権)が完全に独立していたので、議会に対して責任を負わなくてもよかったからです。

しかし国会議員と別の選挙で大統領が選ばれると、議会に反対されて何もできなくなる可能性もあります。
大統領の所属政党と違う政党が多数派を占めることもありうるからです。
大統領には議会の解散権がなく、予算も法律もつくる権限もないので、議会が支持してくれないとお手上げになってしまいます。
実際に敵対する政党の嫌がらせで大統領の方針に議会の賛成が得られず、政府が機能不全に陥ったこともありました。

なので、大統領の暴走は、大統領の所属政党が多数派のときに起こる可能性があると言えます。
特にポピュリズムに成功して当選した大統領は危険です。
大統領のメリットは強力な権限をもっていることで迅速な行政運営ができることですが、それが悪用されると独裁的になるリスクを抱えていたのでした。

★ 議院内閣制
議院内閣制も国によって違います。その中から私の故郷の国の議院内閣制を選んで説明していきましょう。

私の故郷の国は小さな島国ですが、全盛期の頃は世界第2位の経済大国になったこともある民主主義国家です。

議院内閣制のトップは内閣総理大臣です。また首相と表現することもあります。大臣たちを総理する(大臣たちをまとめて従える)のが役目であり、相(大臣)のトップであることから、そういう表現になりました。
この意味から考えると総理大臣の地位は、行政権を担当する内閣の最高責任者、つまり国の行政組織のトップということになります。
なので、内閣の役割は、国会が決めた法律・予算に従い、それを執行することになります。

総理大臣が行政の長であることは大統領と同じですが、大統領が国家元首であるのに対し、総理大臣は国家元首ではありません。
それは議院内閣制を採用する国には、国家元首である国王や女王がいるからです(しかし私の故郷の国は戦争に負けて、国家元首は国の象徴になってしまいました)。
その点において総理大臣は、大統領よりも力が弱いといえます。

では、なぜ行政の長にすぎない総理大臣が暴走を起こす可能性があるのでしょう?
それは内閣(行政権)と国会(立法権)が完全に独立していないからでした。

内閣と国会が完全に独立していると、前述した国の大統領のように、大統領の選挙と国会議員の選挙は別々に行われます。

それに対して私の故郷の国の総理大臣は、選挙で当選した国会議員の中から国会の議決で選ばれます。
これにより総理大臣は、国家の指導者であっても、一議員のままであるということになります。

なので、国会議員でない大統領と違い、内閣は法律案を国会に提出することができます。
また国会議員であるので、内閣は国会に対して責任を負わなければならなくなります。
ここが大統領制と議院内閣制の大きな相違点でした。

総理大臣を国会の議決で決めることのメリットは、政権運営が安定することです。
総理大臣を国会議員の投票で選ぶとなると、最も有利になるのは国会の中で一番議員数が多い政党になります。
つまり大概は与党の党首が総理大臣に選ばれるのです。
そうなれば総理大臣と与党の政治方針は一致するので、総理大臣と国会の関係は良好になり、法律案も予算もスムーズに決まりやすくなるというわけです。

私の故郷の国の国会は二院制でしたから、野党会派が優越権もたない議院の過半数の議席を占めるという「ねじれ国会」になることがありましたが、大統領制に比べると圧倒的に頻度が少なく、「決められない政治」になることはめったにありませんでした。

しかしこの議院内閣制のメリットが暴走をしやすくする環境を作ってしまうのです。
とくに優越している議院で与党が議席の3分の2を獲得すると法案採決で絶対的な力を得られるので、与党は総理大臣と結託して思うままの政治をすることが可能になります。
こうなると国会は形骸化し、総理大臣の暴走を止める役目を果たすことができなくなってしまいます。

また私の故郷の国では国家元首が国の象徴になっていたことも、総理大臣に国家元首の代わりになる強力な権限を与えてしまったのでした。

世界の信頼を失いやすい問題

■ 何が問題か?
大統領も総理大臣も国の代表として、各国の首脳と会談を行い、協同目標を実現するために様々な事を約束したり、条約の締結などをしたりします。

しかし彼らに任せると次の2つの問題を起こして、世界の信頼を失う可能性があります。

  • 約束を反故にする

  • 他国に嫌われる行動をする

■ 何が原因でその問題が起こるのか
まず「約束を反故にする」問題が起こる原因は、トップの交代で正反対の考えをもつ人物がトップになることがあるからです。

こういう問題は、二大政党制で激しく対立している国で起こりやすくなります。
前述した大統領制の国がそうでした。
貧困に苦しむ労働者層の支持を集めて大統領になった過激な発言をする人物がいましたが、その時はとくにひどかったです。
前大統領の外交をことごとく否定する、支持者の利益だけを考えた内向きの外交を行ったことで、同盟国との信頼関係を壊し、国際社会も混乱に陥れたのです。

幸い、その大統領は次の選挙でライバル政党に所属する候補者に負け、再び前の外交に戻されました。
しかし大統領が交代するたびに対外政策が大きくぶれるので、他国から不信感をもたれてしまいました。

次に「他国から嫌われる行動をする」問題が起こるのは、トップが国の代表である自覚を忘れた行動をとるからです。

たとえば自国の起こした過去の侵略戦争を肯定するような発言や行動をして、他国からいらぬ反感を買うようなことです。

トップの思想や歴史観は国民を代表するものではありません。
自分を抑えられない意固地な人がトップになると、つまらないことで国際関係が悪化してしまいます。

故郷の星の政治の暴走を防ぐ方法

故郷の星の民主主義国家では、トップの暴走を防ぐために次の2つの方法を使っていました。

  • 三権分立

  • 憲法

この2つの方法の効果と問題点を見ていくことにしましょう。

三権分立

三権分立とは、立法権をもつ国会、行政権をもつ内閣、司法権をもつ裁判所がそれぞれ独立していることです。

この3つの権力が独立していることのメリットは、権力が過度に集中するのを防げる点にあります。
つまり一つの機関に権力が集中しないことで、権力が濫用されて国民の権利と自由が侵されないようにできるということです。

さらに三権分立の効果を高めるために、3つの権力がそれぞれを監視し、暴走が認められたら止められる仕組みになっていました。

私の故郷の国が考えた内閣と国会の暴走を抑止する仕組みは、次のようなものでした。

■ 内閣の暴走を抑止する方法
国会には次の2つの権限をもたせることで、内閣の暴走を抑止できるようにしていました。

  • 内閣総理大臣を指名する

  • 内閣不信任案を決議する

つまり、国会が信頼できる総理大臣を選べる権利をもち、信任ができなくなったら内閣不信任案を提出して、その決議が可決されれば内閣を総辞職させることが可能になるということです。

裁判所には行政府の行為が憲法や法律に違反していないか監視させることで、内閣が暴走できないようにしていました。

■ 国会の暴走を抑止する方法
総理大臣には優越する議院の解散を決める権限をもたせることで、国会の暴走を抑止できるようにしました。

ちなみに前述した大統領制の国では、大統領にはその権限がありませんでした。
そのかわり国会のつくった法案を拒否する権限をもっていました。しかし議会で再可決されると無効になりました。
国会も内閣不信任案を決議できないので、議院内閣制と比較して内閣と国会の抑制関係は薄かったと言えます。

私の故郷の国ではこの他、国会で決まった法律が憲法に違反していないか審査する権限を裁判所に与えていました。

以上が私の故郷の国が考えた暴走抑制対策ですが、実際は総理大臣の不正を正しく裁けなかったり、そういう行為をする総理大臣を国会が解任したりすることもなく、三権分立がうまく機能しているように見えませんでした。

暴走を止められなくなる理由を考えてみましょう。

■ 総理大臣指名の効果が薄れる理由
与党が独断で総理大臣を決められることが一番の問題になっています。
総理大臣は国会で決めることになっていますが、優越する議院で過半数の賛成が得られれば総理大臣を決めることができるので、実際は優越する議院で過半数を握っている与党の思い通りの人選ができることになります。

総理大臣に選ばれるのは、前にも述べましたがその政党の党首です。
そして党首はその政党の国会議員と党員などの投票で決まりますが、党首になれるのは、その党で圧倒的な力をもつ親分的な存在の人物か、その人物の言うことを聞く実力者になります。
親分的な存在の権力者がいつまでも党首でいられない理由は、党首には任期があるからです。
しかし党首を退いても政党で絶大な権力を握る座を降りるわけではないので、総理大臣が変わっても親分の暴走は継承されてしまうのです。

いくら総理大臣を入れ替えても、人事権をもつ与党の野望に問題があれば、政治の暴走を止めることはできません。

■ 内閣不信任制度の効果が薄れる理由
これも与党がその効果を奪う原因になっています。
総理大臣と与党は一味同心なので、与党から内閣不信任案を提出することはありませんし、野党が内閣不信任案を提出しても多数決で否決する力を与党がもっているからです。
これでは、総理大臣の政権運営が民意に反したものであっても、暴走を止めることはできなくなってしまいます。

与党から内閣不信任案が提出されることがあるとしたら、むしろ総理大臣が与党の暴走を止めようと反旗を翻したときでしょう。
暴走をする側に決定権を握られていたら、内閣不信任制度は暴走をとめるブレーキにはならないのです。

■ 優越する議院の解散権の効果が薄れる理由
優越する議院の解散は内閣の権限なので内閣の話し合いで決めるはずでしたが、実際は与党の国会議員との話し合いで決められていました。
そうなると、与党が議席を増やせるタイミングでそれを使われてしまうので、逆に与党政治の暴走を助けることになってしまいました

また解散は、議席を減らしている野党には恐怖になります。
解散を脅しに使えるようになることで、与党の方針や法案に反対しにくくなってしまいます。

内閣のみが使える権限の意思決定に、監視される側の与党の国会議員が簡単に加わることができてしまう脇の甘い仕組みでは、三権分立が正しく機能するわけがないのです。

■ 裁判所が正しく監視できなくなる理由
内閣に対する司法府の監視が正しく働かなくなる理由は、内閣に裁判所の人事権を握られていたからです。
つまり総理大臣に最高裁判所の長官を指名できる権限と、その他の裁判官を任命できる権限を与えていたので、裁判官は内閣に逆らうことができなくなってしまったのです。

またこの権限があれば、自分や与党に都合の良い裁判をしてくれる人物を選べるようになります。
そして総理大臣に気に入られないと出世できないとなれば、裁判官は総理大臣に忖度そんたくをするようになります。

これにより総理大臣の不正疑惑に対して真相追求の世論が高まっても、総理大臣が正しく裁かれることはなくなってしまったのでした。

目隠しをしても脅しが聞こえるので総理に忖度をする正義の女神

話が少し脱線しますが、これと同じ手法を使って官僚や中央銀行も忖度させるようにしていました。

その結果、政府の借金がとてつもない金額になっても、中央銀行は政府の子会社でいくらでも紙幣を発行できるのだから財政破綻の心配はないと、構わずに暴走に使う予算を増やし続ける放漫経営になってしまったのです。

また裁判官が正しく政治家を裁けなくなる原因には、法律をつくるのは政治家であるという問題もあります。
つまり政治家に甘い法律がつくられてしまうと、政治家を厳しく裁けなくなってしまうということです。

政治家に都合のいい法律に変えられた例として、故郷の国であった文章通信交通滞在費(文通費)の改悪があります。

文通費については、ひと月に大卒の初任給の5倍に近い額が支給され、その使途の公表も義務づけられていないことから、国会議員の第二の給料であると批判がありました。

その文通費の一ヶ月分が、月末に行われた総選挙で当選した新人議員に支給されたことに対して、「在職1日で一ヶ月分の支給はおかしい」と国民から激しい批判を受けたのです。
それで文通費の法改正をせざるを得なくなったのでした。

正しく法改正をする気持ちがあるのなら、使途を公表するようにし、使い残したお金を国庫返納するようにするはずです。
ところが、成立した改正案は当選した月の支払額を日割り計算に変えただけでした。
それどころか、自分たちがより自由に使えるお金になることを可能にする名称に変えてしまったのです。
これはすべての政治家にとってメリットがあることなので、与党議員はもちろん、野党議員も賛成しました。

また優越している議院で与党が議席の3分の2を獲得すると法案採決で絶対的な力を得られると前に書きましたが、こうなると裁判所だけでなく、国会も与党の暴走を止められなくなってしまいます。

国民が国を訴えて政治を正すという方法もありますが、マンパワーや情報力、資金力において圧倒的に有利な政府に勝訴するのは、かなり困難です。
裁判官が政府に忖度をしていれば尚更難しくなります。

■ 国民による抑止力はどうか
私の故郷の国では、国民にも三権に対して暴走を止める手段を与えていました。

まず内閣に対しては、世論です。
内閣に対する世論で代表的なのが、内閣の支持率です。
内閣の支持率が低くなると、与党は次の選挙で勝てる見込みが低くなるので、民衆に受ける政治をしなければならなくなります。

しかし世論は圧力になっても、直接的に内閣の暴走を止める力をもっているわけではありません。

また私の故郷の国では総理大臣を支持する理由を「他に適当な人がいない」と答える人が圧倒的に多く、根深い問題は総理大臣の支持率以前に、選べる逸材がいないという政治不信にありました。
ろくな政治家がいなければ世論で内閣を変えても同じ結果になります。

次に裁判所に対しては、国民審査という制度をつくり、国民が最高裁判所の裁判官で不適切な人を投票で罷免できるようにしていました。

しかし私の故郷の国では国民審査で罷免された裁判官は一人もいませんでした。
最高裁判所の裁判官はほとんどの国民にとって遠い存在で、よく知らない人物を裁判官として適切かどうか判断できるはずがありませんし、しかも有効投票の過半数に達しないと裁判官を罷免できないという設定は現実的ではないと言えるでしょう。

残るは国会ですが、これに対しては選挙で問題のある国会議員を辞めさせることができる力を国民に与えました(選挙の問題について詳しく書いた記事はこちら)。
しかし小選挙区で落選したのに比例代表制で復活当選をすることがあり、悪い政治家を辞めさせるのが難しくなっていました。
こういう問題が起こるのも、政治家に選挙制度を変える権限を与えてしまったからでした。

総理大臣も国民が選べないのをいいことに、派閥の論理で総理大臣を決め、国民が望まない人が総理大臣になっていました。

最大派閥の意向が大きく影響する

さらに総理大臣の任期も、与党の内部事情で決められていました。
私の故郷の国では前述した大統領制の国と違って、総理大臣の任期が決まっていなかったからです。
なので、長期政権が可能になるように与党の総裁の任期を変えられ、独裁的な政治ができるようになってしまいました。

また議席数を増やすためなら、知名度が低いが優秀な人よりも当選しやすい人、たとえばタレントや引退したメダリストなど知名度が高くて人気のある人を擁立するという、質よりも量を重視する人選をしていました。
優秀であることにこだわらなかった理由は、挙手要員になってくれれば充分だと考えていたからでしょう。

国会は数の力がものを言う世界なので、与党の思い通りの政治ができる圧倒的な議席数を確保することが何よりも重要だったのです。

しかしそれで国会議員の質が低下すると、政治家にかかるコストはムダに大きくなります。
政治家より官僚のほうが優秀になると、政策立案や政治的意志決定の主導権を官僚に奪われてしまうので、国費で政策秘書を雇えるようにしたり、大臣の下に副大臣などを置いたり、内閣の指導力を強化する組織を増やしたりして、国会議員の能力不足を補わなければならなくなるからです。

しかしそれで損をするのは国民です。
余計な人件費に税金が浪費されるだけでなく、政治主導を実現できた与党の暴走でさらに税金が無駄遣いされてしまうからです。

憲法

憲法は国の形を決める最も重要な法律です。
国の形とは、国家機関である行政機関、立法機関、司法機関の役割や権限、構造のことです。
なので、憲法なしには国家をつくることはできません。

憲法が内閣の暴走を防ぐのに効果的な理由は、その国の権力者が守らなければならないことを決めたものだからです。
何を守るかと言うと、「国民の権利と自由」です。
つまり、国民が主人公である民主主義国家では、権力者に勝手なことをされて民主主義が破壊されないよう、国家権力を制限する法律や権力濫用を防ぐ仕組みを憲法にしていたのです。
前述した三権分立も権力濫用を防ぐ仕組みになるので、私の故郷の国の憲法にはその内容について明記されていました。

憲法は権力者を縛るものなので、法律を改正するように与党が数の力を悪用して自由に変えられるものではありません。
私の故郷の国では、憲法を改正するには国民投票で過半数の賛成が必要になるというハードルがありました。

また憲法は国民の権利と自由を守ることを目的につくられたものなので、多数決で決めてもそれを侵害する憲法改正は無効になります。

さらに裁判所によって内閣や国会が憲法に反する事をしていないか監視されているので、簡単に憲法を変えられるものではありませんでした。

ところが、私の故郷の国では憲法改正を経ずに、国民の権利と自由が侵害される法律がつくられていました。

たとえば、組織ぐるみの犯罪を処罰する法律の改正を行い、テロ事件などが未遂に終わるように計画や準備行為をした段階で逮捕・処罰できる(つまり、思っただけでも逮捕・処罰ができる)ようにしたものです。

政府はこの法改正の目的をテロ対策だと主張しましたが、条文にはテロに照準を合わせたものが見当たらず、一般市民が団体をつくって行う「抗議活動」が処罰の対象になる恐れのある内容になっていました。

そこから推測すると、政府がこの法改正を行った真の狙いは、テロ集団でなくても政府に批判的な組織に対して圧力をかけることだったと考えられます。
だからテロ集団でなくでも逮捕できるよう、銀行でお金をおろしただけで組織的犯罪の準備をしたと言いがかりをつけることが可能になる法律にしたのでしょう。

政府にマークされたら警察の恣意的しいてきな判断で摘発できるようになり、プライバシーが侵害される捜査が行われるようになります。

しかもその法改正は自分たちには甘く、公権力の私物化や警官などによる職権乱用・暴行陵虐りょうぎゃく罪は組織的な犯罪に当たらないと除外していたので、権力者をしばる法律になっていませんでした。

しかし憲法では、思想、集会、結社、表現の自由が基本的人権として保障されていました。その権利が政治権力によって侵害されるとなると、憲法に違反しているのはむしろ政府のほうであったといえるでしょう。

侮辱罪を厳罰化した法改正も、政治家への批判を萎縮させる効果のあるものでした。
科料からいきなり法定刑の上限が懲役に引き上げられるという法改正だったので、街頭演説で野次を飛ばした人を現行犯逮捕することも可能になってしまいました。

侮辱罪の厳罰化の目的は自殺者がでるほどひどくなっていたインターネット上の誹謗中傷を抑止することにありましたが、これもそれを名目に使ってうまく自分たちの有利になる法律に変えてしまおうと考えたことが推測できます。
なぜなら名誉毀損罪では公務員や政治家に対する真実に基づく批判は処罰されないと規定されているのに、改正された侮辱罪ではその規定がなかったからです。

政府や国会に対して批判ができなくなることは、国民は与党のやる政治に一切口出しをするなということです。
世論の圧力を使えなくすることは、三権分立を骨抜きにし、独裁化を進める暴政になります。
そしてこれも表現の自由を奪う憲法違反になるのです。

永久の権利として絶対に保障されなければならない基本的人権が侵害される法改正であり、世界の人々の人権を守るために設立された国際機関からも人権侵害になると注意を受けたにも関わらず、憲法の番人であるはずの最高裁判所はこれを黙認しました。
なぜでしょう?

それは、政府に逆らえないからでした。
逆らえない理由は、前にも述べたように人事権を内閣に握られ、政府に楯突くと左遷されてしまうからです。その恐怖から、裁判官は政府寄りになっていたのでした。

故郷の星のこうした問題を見て、政治権力の暴走から民主主義を守るには内閣イノベーションを行わなければならないと考えたのです。

故郷の星の問題を克服した内閣イノベーション

ここからは、私たちの発明した内閣イノベーションを紹介していきます。

内閣イノベーションでは、私たちは次の5つの秘策を考えました。

  1. 暴走を起こさせない権力の分離術

  2. 暴走を起こさせない内閣の選出術

  3. 暴走を起こさせない権力の分散術

  4. 政治家に甘い法律にされない秘策

  5. 中央政府から地域を守る秘策

この5つの秘策を明かす前に、私たちの星について簡単に説明します。

成功の秘策を見つけたぞ!

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