見出し画像

ベーシックインカムの成功術は宇宙移民に学べ

物語の設定

宇宙人が未開の星に移住するという設定で、架空の星に経済と環境の両立を実現する理想社会をつくってみました。
その星に住む移住者たちは、環境問題だけでなく、いま我々が有効な解決策が見つからず困っている様々な課題の克服も試みています。
ここでは、移住者たちがどのようにして難題を解決したのかを続き物で紹介していきます。
ガイド役は、理想社会の創造に携わった移住者が務めます。
では、お楽しみ下さい。

前回の話

前回は、経済と環境を両立するために移住者たちが考えたアプローチを紹介しました。
その内容はこちらです。
最初の記事はこちら
目次はこちら
次の記事はこちら
理想社会の設計方法について

今回の話

今回のテーマは、ベーシックインカムです。
ベーシックインカムの価値って何?
ベーシックインカムの財源はどうやってつくるの?
ベーシックインカムで労働意欲を減退させない方法は?
これらの質問に答えながら、宇宙移民のベーシックインカム成功術を紹介します。

質問ベーシックインカム

ベーシックインカムの導入目的は持続可能な社会の実現

私たちの住む星では、すべての地域でベーシックインカムを導入しています。
ベーシックインカムはすべての人に最低限の生活を送るのに必要なお金を給付する制度ですが、私たちの星では全員の生活レベルの向上をめざして給付額を増やし続けているので、今ではスタンダードインカムに近くなっています。

さて、私たちがベーシックインカムを導入した目的は、2つあります。
ひとつはみなさんが考えているのと同じで、貧困対策のため。
もうひとつは、持続可能な社会を実現するためです。

持続可能な社会を実現するには、環境と資源の利用許容量を超えない規模に経済をスリム化しなければなりません。
ベーシックインカムがその難題の克服に役立つとわかったので、私たちはベーシックインカムの導入に積極的になったのです。

ベーシックインカムが持続可能な社会を実現する理由

ベーシックインカムが経済のスリム化に役立つ理由は、労働生産性を最大化できるからです。

労働生産性は、投入した労働量に対する労働による成果の程度のことです。
式にすれば、「労働による成果/労働投入量」になります。

労働生産性

このことからわかるのは、労働による成果が同じだとすると、投入した労働量(労働者数)が少ないほど労働生産性が高くなるということです。
言い換えれば、労働生産性が高い状態は労働量が少ない状態ということになります。

労働生産性を高めると経済のスリム化が図れるのは、エンジンが効率化でダウンサイジングできるのと同じです。
高効率化によるダウンサイジングは、パワーダウンの防止に効果があるだけでなく、エネルギー消費量を減らせるメリットもあります。
環境性能を高めるには、とても有効な手段になるのです。

背比べ

しかし労働生産性の向上により労働量が減ることは、労働者には死活問題になります。
労働量が減ってしまうと、収入が減ったり失業が増えたりすることになるからです。

生活が苦しい人の比率が高まることは、経済にとっても良くありません。
消費が落ち込めば、労働生産性を高めた効果が薄れてしまうからです。

このジレンマを解決するのが、ベーシックインカムです。
ベーシックインカムがあれば、失業しても生活に困らない収入が得られるからです。

前回紹介した経済社会のムダ削減・高効率化の徹底とあわせて、ベーシックインカムの導入で生産性を極めることができれば、利益率は飛躍的に高まり、ベーシックインカムの財源も確保しやすくなります。
これはつまり、利益率が最大化する仕組みにしなければ、ベーシックインカムは実現できないということでもあります。

ベーシックインカムの財源

労働収入だけだと悲惨な未来になる

労働収入だけだと、環境問題も貧困問題も解決できず、社会を持続できなくなります。
労働収入のみで貧困のない世界をつくろうとすると、完全雇用を目指すことになるからです。

完全雇用が達成された状態は、労働生産性が高い状態ではありません。
労働生産性を向上させれば、必ず労働量(労働者数)は減少してしまうからです。
なので、完全雇用を目指すということは、労働生産性の向上よりも失業問題の解決を優先することになります。

完全雇用改善

また完全雇用は、企業の過剰化も引き起こします。
完全雇用を達成するには、勤め口を増やさなければならなくなるからです。

これにより次の2つの問題が起きます。
・経済が肥大化する
・過当競争が激しくなる

経済の肥大化は経済のスリム化と逆になるので、経済と環境の両立から遠ざかり、環境問題を悪化させてしまいます。

過当競争の激化も、環境問題の悪化を招きます。
価格競争が過熱すれば、薄利多売になるからです。薄利多売は、環境問題の原因になる大量生産・大量廃棄を増長する行為です。

また過当競争になると、労働生産性は低下します。
シェア争いが激しくなるほど、成果をあげるのに使う時間が長くなるからです。
製造で労働生産性を高めることができても、過当競争のせいで大量の売れ残りが発生すれば、労働生産性を向上したことにはならないのです。

労働生産性競合

完全雇用が達成した状態で労働生産性を向上するには、需給バランスのとれた状態、つまり需要側を過剰につくったモノが売れる大きさにしなければなりません。
それはこういう状態になるということです。
労働者の数<消費者の数

しかしこれでは、完全雇用が達成されていない状態に戻ってしまいます。
要するに完全雇用を追い求めることは、際限のない追いかけっこをすることになるのです。
そしてそれが行き着く先は、人口爆発です。

労働収入だけで貧困のない持続可能な社会を実現するのは、物理的に不可能なのです。

ベーシックインカムを嫌う故郷の星を揺るがせた問題

故郷の星は社会保障の世話にならず労働収入で生活するのが美徳の社会でしたので、ベーシックインカムを肯定的に見ていませんでした。

しかしそんな故郷の星でも、ベーシックインカムの導入を検討したことがあります。

故郷の星を揺るがせたのは、AI(人工知能)社会の進展です。
AIへの仕事の代替が拡大することで、収入の減少や失業の増加が急速に進み、深刻な貧困問題が発生したからです。

消費が縮小すると、経済を大きくすることができなくなり、資本主義も死んでしまいます。
こういう危機に見舞われたことから、ベーシックインカムの導入を検討することになったのでした。

生活保護はベーシックインカムの代わりにならない

理由は後にまわしますが、故郷の星は結局、ベーシックインカムを導入せず、従来どおりに生活保護で対応する結論になりました。

しかし生活保護は、やはりベーシックインカムの代わりになりませんでした。
生活保護で救える人は、受給資格条件にクリアした生活困窮者に限られるからです。
しかも、その条件は次のようにとても厳しいものです。

・すべての財産を処分しても生活できない状態
・ケガや病気などで働けないなど、最低生活費を稼ぐ能力がない状態
・親族の支援をえられない状態

つまり「生活も体も親族関係も壊れた状態でなければ、受給する資格はありません」ということなのです。

そしてようやく受給できても、いつまでも生活保護に頼らず、早く社会復帰することを促されます。
生活保護は、完全雇用に近づけることを目指した社会保障であるからです。

省人化に対応できない点でも、生活保護はベーシックインカムの代わりになりません。
生活保護の財源は、労働者から徴収する税金に依存するからです。
だから、失業率が低い状態でないと成立しない社会保障制度では、AIやロボットに仕事を奪われる人が激増すると、すぐに立ち行かなくなります。

働く能力があっても働く場所がないのは、社会の責任です。
しかし生活保護は、働く能力のある人を対象にした制度ではありません。
技術的失業が激増するAI社会には、生活保護はミスマッチなのです。

労働収入オンリーでは対応できない環境の変化

故郷の星では、労働収入だけでは対応できなくなる環境の変化が他にも発生しました。

最も深刻だったのは、少子高齢化社会の進行です。
出生率が低下する一方なのに、人生100年時代と言われるほど長寿社会になったせいで、無職の人口が急増してしまったのです。

当然、社会保障では対応できないので、政府は定年の延長を企業に求めました。
しかし、それに素直に従う企業はわずかでした。
企業の多くは、グローバルで展開する激しい価格競争に体力を奪われ、いくら人件費を削減しても追いつかない状態であったからです。

人件費を削るために、企業に広まった対策は次の3つです。
・生産性が低いシニアのリストラを進める
・非正規雇用の比率を高める
・生産拠点を人件費の安い国に移し、下請けも生産コストの低い国の企業を選ぶ

いずれも失業者の増加と労働収入の減少を進めるもので、富の分配を企業に依存する国家では、国民を貧困から救えない事態になってしまいました。

労働収入オンリーでは省人化が進めにくくなる

AIとロボットを使う省人化は、生産性を極めるのに大変有効な手段になるので、積極的に導入を進めるべきです。
ところが、労働収入オンリーの世界では、省人化は進めにくくなります。
AIやロボットは、労働者にとって仕事を奪う敵になるからです。

しかし機械は、人間にとって敵ではありません。
仕事の苦労や仕事の難易度を低めてくれるありがたい存在
なのです。

機械が敵でない証拠に、家庭では誰もが機械を積極的に取り入れています。
そのせいで生産性が低くなったという文句は聞いたことがありません。
むしろ、いろんなことができるようになり、生産性が高まったはずです。

仕事が奪われたくないからAI社会の進展に賛成できないというのは、家事を奪われるのが嫌だから家電製品のない時代に戻せと言っているのと同じです。
ベーシックインカムのない世界では、こういうおかしな展開になってしまうのです。

ロボット

故郷の星も労働者から激しい抵抗を受け、思うように省人化を進めることができませんでした。

AIとロボットを導入するメリット

ここで、AIとロボットを導入するメリットをいくつか挙げてみます。

生産性を高めてくれる

パワー
人力では太刀打ちできないパワーがある。

知能
記憶力・知識量・処理能力など人の頭脳を超越する能力がある。
高い学習能力で生産性や成果を向上できる。

スタミナ
長時間、高い生産性を維持できる。

正確性
ヒューマンエラーがない。
損失を低減できる。
事故も起きにくい。

安定性
人間のように急な欠勤や退職がない。
人のように当たり外れが激しくない。

低コスト
給与や各種手当、福利厚生費、法定福利費などが不要。

省力
労務管理や人事評価の手間とコストを減らしてくれる。

即戦力
スキルを高めるのに時間がかからない。
教育コストも削減できる。

信頼性
機械に悪意はないので、不正や人間関係のトラブルを犯さない。

少子高齢化社会の救世主になる

人の倍の生産能力をもつAIやロボットを積極的に活用すれば、少子高齢化による労働力不足を補える。
そのおかげで、生産年齢人口を無理に増やして起こる人口政策の失敗もなくなる。

機械が仕事の難易度を下げてくれれば、高齢者や女性も働きやすくなる。

ベーシックインカムを導入して省人化を進めるメリット

次にベーシックインカムを導入して省人化を進めると、どのようなメリットが生じるか、まとめてみました。

人生を豊かにしてくれる

AIやロボットで省人化を極め、その成果をベーシックインカムで受け取れるようになれば、人生が豊かになります。
労働時間が短縮される上に、不労収入を得られるようになるからです。

不労収入

景気がよくなる

AIロボットは消費をしませんが、彼らが稼いだ利益をベーシックインカムの財源として使えば、AIロボットに代わって受給者が消費をすることになります。

ベーシックインカムで生活の不安がなくなれば、安心してお金を使えます。
ワークライフバランスもとれるので、ショッピングを楽しむ時間も増えます。
子育ての余裕も生まれるので、出生率も自然に改善するでしょう。そうなれば、消費人口の減少も抑制でき、景気の維持も可能になります。

社会を持続可能にしてくれる

生産性の高いAIとロボットは、労働生産性の向上にとても有効です。
ベーシックインカムがあれば、省人化を積極的に進められるようになります。
それにより飛躍的に労働生産性を向上できれば、経済のスリム化も容易になり、持続可能な社会を実現できます。

故郷の星がベーシックインカムの導入を断念した理由

これほどベーシックインカムにはメリットがあるのに、故郷の星がその導入を断念した理由は、資本主義を捨てられなかったからです。

資本主義でベーシックインカムを導入すると、どのような無理が生じるか考えてみましょう。

ベーシックインカムでいちばん問題になるのは、財源です。
すべての人に最低生活費を給付するとなると、年間の国家予算を超えるほどの莫大な金額になってしまいます。

その莫大な費用をつくるのは、国ではなく、国民です。
ベーシックインカムも他の社会保障と同様に、企業や個人が払う税金や保険料を主な財源にすることになるからです。

となると、ベーシックインカムを実現するには、税金を多く納める能力のある労働者を増やさなければならなくなります。
これでは前と変わらず完全雇用を目指すことになり、ベーシックインカムの導入目的である経済をスリム化するために、労働生産性を極めることができなくなってしまいます。

また、社会保障費の膨張で就労者の負担が激増すれば、就労者はベーシックインカムをもらえる喜びが薄らいでしまいます。ましてや生産年齢人口が少ない少子高齢化社会では、損をしている気持ちが余計に強まってしまうでしょう。

負担だ

しかし、就労意欲を減退させないために負担を軽くすれば、ベーシックインカムの財源が足りなくなり、給付額が最低生活費に届かなくなってしまいます。
加えて、膨大な予算を使うベーシックインカムのせいで他の社会保障が廃止されてしまえば、失業者は最低限の生活も送れなくなり、ベーシックインカムより前の社会保障のほうがマシであったという話になってしまうでしょう。

以上のような予測から、故郷の星はベーシックインカムの導入を見送ったのでした。

資本主義の限界

AI社会の進展や少子高齢化で労働収入を得られない人が激増すると、資本主義システムでは対応できなくなります。
国と企業の方向性が分裂してしまうからです。

国と違い企業は、環境の変化に合わせて体質をかえることができます。
少子高齢化で市場が縮小しても、それ見合った規模に組織を適正化すれば経営を改善できますし、AIやロボットが人から仕事を奪う脅威になっても、機械への代替を積極的に進めれば、むしろ利益率を高めることができるチャンスになります。

しかし企業の経営努力は、国の負担を増やします。
生活困窮者が増えると、社会保障費が膨らんでしまうからです。
企業がリストラを進めれば、税収や保険料収入は減ってしまうので、余計に財政が苦しくなります。

財政を健全化するには、増税と社会保障費を抑制する改革の他に、押しつけられた負担を企業に返す政策を進めるしかありません。

こうなると、ただの負担の押しつけ合いになるだけで、貧困問題を解決できなくなります。
これが企業に依存した資本主義型社会保障システムの弱点です。

故郷の星も時代に合わない資本主義に乗り続けていたため、環境の変化に対応できず、破滅の道に転落していきました。

故郷の星から学んだベーシックインカムの失敗の原因

私たちはベーシックインカムを実現するために、故郷の星を反面教師にしました。
その結果、障害の原因を突きとめることができました。

究明
成功の秘策を見つけたぞ

ここから先は

10,985字 / 6画像

¥ 220

よろしければサポートお願いします。いただいたサポートは明るい未来を創造する活動費として大切に使用致します。