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そこに境界があるか、繋がっているか よなよなふうふ話03

くらしてん」をやっている私たち夫婦は、よなよなよく長話をする。
今回は、yomeの出身地でもあり、今住んでいる千葉という土地について思うことから。千葉って街並みは普通なんだけど、よく考えたら特殊なエリアな気がする。

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境界があるか、繋がっているか

yome:「くらしてん」を通して、遠野とか岩手の土地のことを知ったりすると、今住んでいる千葉に比べてこれまでのストーリーが生きているなって感じるよね。千葉って、奈良時代からの名称が残るくらい古い土地なのに、そのストーリーを全然感じないんだよね、なんか。
遠野とか、ottoの出身地の函館は、場所のアイデンティティが歴史とかルーツから繋がっているけど、千葉の場合はルーツがぶった切られていて、いつのときからか東京にルーツが置き換えられている、みたいな感じがするのよね。

otto:「場所の現象学」っていう本を今読んでいるんだけど、まさにその話を書いてるんだよね。場所のアイデンティティが何で形成されているかというと、内側性と外側性なんだって。

yome:うーん、どういうこと?

otto:要は”境界”が感じられるかどうかなんだよ。千葉はその境界がないでしょ、東京と物理的にも繋がってしまっている。函館は物理的に山と海に囲まれていて陸の孤島のような場所だから境界が明確にある。それが場所のアイデンティティが強くなるか弱くなるかの違いらしい。確かに函館のことを思い出すとかなり思い当たる節があるんだよね。

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yome:今は日本の中心が東京で、その東京に必要なものを周辺地域が担っているから、物理的にも、存在意義としても千葉は東京に繋がっている。それでアイデンティティが薄くなった…って考えると、東京が中心地じゃなかったら、千葉のアイデンティティは濃く残ったかもしれないね。江戸幕府ができずに、日本が関西中心でずっと行っていたら、今のような東京の吹き溜まりみたいな場所じゃなかったかもしれないな。はー、深いな、この話は。

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生まれた場所の重荷

yome:最近、印西の千葉ニュータウンに結構行くけど、ある意味あそこは千葉っぽい感じもするんだよね。田んぼや林を抜けていくと、いきなり団地とショッピングモール群が現れて、その周りは物流倉庫群と大きな幹線道路が張り巡らされている。スケールが大きくて人がいない街の印象があるんだけど、若干ディストピア感があって、それが千葉っぽいといえばそんな気がする。村田沙耶香の「消滅世界」って小説を読んだんだけど、まさに千葉の描かれ方がそれだった。

otto:千葉のニュータウンは働く人も買い物に来る人も道路によって運ばれて、用が終わったら元来た道路で帰っていく、みたいな印象もあるよね。

yome:それは東京でも一緒な気がするけども。

otto:東京はまだ人のスケールが残されていて、仕事の後に職場の近くで飲んで帰ったり、気軽に寄り道するくらいのスケール感があるし、都市開発自体も昔の地割を生かしてるけど、千葉って田んぼや畑だった場所をがーっと整地して街を作ってしまうでしょ。だから人のスケール感がない。そうすると、より根付かない人の街感が出てくる気はしちゃう。

yome:そうすると、千葉という場所がネガティブにしか映らなくなってしまう…。でも、自然も近いし、ゴミゴミしてないし、自由な感じがあっていいところもあるよ。ってなんだこれ、薄っぺらい擁護だな。

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otto:その特徴がネガティブなのかどうかは、その人の志向性によるよね。さっき話した「場所の現象学」に、”場所にはまったく重荷でしかない一面がある”っていう文章があるんだけど、その場所の慣例や関係性が”この場所に縛られているという感覚”になって重荷に感じることがある。地方と都市に住むの違いってそういうことな気がしていて、周りの人と知る・知られるような関係が優しくて楽しいからいいのか、それが重荷だから無い自由さがいいのかだと思う。どちらがいいというのは無くて、その人の好みなんだよね。

yome:あと、自分の生まれた環境によるものもあるかも。こういうアイデンティティがない場所に生まれたから関係性を渇望する、ということもあるだろうし、故郷の関係性が密すぎて都市の自由を渇望するというのもある気がする。そう考えると、生まれた場所って自分の志向性に影響するよね。
そういや、村田沙耶香って印西出身なんだけど、何個か読んでても彼女の作品って人も場所もアイデンティティにとらわれてない気がしていて。登場人物に個性がないとかじゃなく、なんかこう”どこでもいる人”感がある。それが印西の街と重なる気がするんだよね。どこで生まれて育つかっていうのが、作家性に与えるものも少なからずあるのかもしれないな。

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<出てきた本>

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場所の現象学(エドワード・レルフ/ちくま学芸文庫)
1977年に出された現象学的地理学の名著。otto曰く、相当面白かったみたいなので、今度読もうと思う(ものすごい付箋と線引きされてるけど…)。

消滅世界(村田沙耶香/河出文庫)
”成田を経由して千葉に入る”という場面があるが、あの夢の国=千葉という印象付けっぽくも感じられて面白い。ディストピアな千葉ではなく、実は家族がメインテーマのストーリーです。

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