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なぜNPO法人という道を選んだのか。

今日のタイトル、私たちにとても良く聞かれる質問なのです。
ショップも運営していて、「暮らしを楽しむ朝市」のようなイベントもやっていて、デザインの仕事もしている、それの主体がNPO法人だと分かると、びっくりされることも多々あります。
なので、今回のコラムでその経緯を書いてみたいと思います。


私たちくらしアトリエは、2005年3月にスタートし、さまざまな活動を経たのち、2007年11月に「地域づくり」の特定非営利活動法人(NPO法人)として新たなスタートを切りました。

※法人の概要については下記のプロフィール記事をご覧ください。


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先日オンラインサークル「くらしの学校」でもNPO法人について記事を書いたのですが、ざっくり言うと「私だけでもない、あなただけでもない、不特定多数の人びとにとって社会的意義のある活動をする」法人、というのがNPO法人の肝。

みんなにとって幸せな活動をする、ということで、「ソーシャルグッド」なんて言葉でも表現されます。

専門的に言うと、内閣府が示す20の「特定非営利活動」に取り組む、法人格を持った団体、ということになります。

内閣府のHPには次のように書かれています。

特定非営利活動促進法は、特定非営利活動を行う団体に法人格を付与すること等により、 ボランティア活動をはじめとする市民の自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進することを目的として、平成10年12月に施行されました。
法人格を持つことによって、法人の名の下に取引等を行うことができるようになり、団体に対する信頼性が高まるというメリットが生じます。 「特定非営利活動法人(NPO法人)」は、法人数も増加し社会に定着してきているところですが、平成23年6月には、こうしたNPO法人のプレゼンスの高まりを背景としながら、法人の財政基盤強化につながる措置等を 中心とした大幅な法改正が行われました(平成24年4月1日施行)。NPO法人が市民の身近な存在として、 多様化する社会のニーズに応えていくことがますます期待されています。

1.くらしアトリエの始まり

そもそも、私たちは2005年3月に、ホームページ「SLOW+SLOW」をオープンして「くらしアトリエ」という名前で活動を始めました。「シマシマしまね」オープン以降に私たちの存在を知ったという方にはびっくりされるのですが、そうなんです、けっこうベテラン?なのです。

この「SLOW+SLOW」を立ち上げた時には、自分たちが法人化をするとは想定していませんでした。いわゆる「任意団体(仲間等が集まってつくる団体で法人格がないもの)」でのスタートです。

山陰地方の魅力を写真と文章で発信し、暮らしが楽しくなる雑貨やお花の提案をする…立ち上げメンバーは3名で、それぞれが1万円ずつを出し合って、ドメインを取得し、お花の資材を買って…という感じで、主にネットを中心に活動していました。自分たちが「素敵だな」と思う作家さんに声をかけてコラボレーションしたり、憧れの雑貨店に作品を納品したり。風景の美しい場所を紹介するコーナーをWEB上に作ったりもしました。

そこから半年後、直接販売のイベントを行ったことがきっかけで、「自分たちが本当にやりたいこと」に少しずつ目覚めていくのですが、イベントの規模が大きくなるにつれて立ちはだかってきたのが、女性3名で運営しているくらしアトリエの「任意団体の壁」でした。


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2.背負うものが欲しくなった

15年前、社会は「看板を背負っていない人たち」に対して今よりもハードルが高いものでした。会場を借りたい、と自治体へ出かけた時、駐車場をお借りしたい、と会場付近の一般の方のおうちを訪問した時、必ず聞かれる、「くらしアトリエさんって、何をしてる人たちなんですか」という言葉。

当時私は「山陰の魅力を広く女性の視点で全国に発信している団体です」と答えていたのですが、まあ伝わりませんわな。
そもそも「山陰の魅力って何?」っていうところから説明しないといけません(当時、山陰の魅力って本当に理解してもらえなかったんです)。

やっていたことをそのまま説明すると、「ホームページを運営し、ハンドメイドの雑貨とフラワーアレンジを組み合わせた花雑貨という商品を全国発送し、山陰各地の素敵な風景やお店を紹介し、暮らしのひとコマを紹介する記事を毎日更新している団体」みたいになるのですが、ホームページの概念もなかなか理解していただけない時代でしたし、要するにとにかく、自分たちを説明する言葉を持っていなかったんです。

「手作りの雑貨などを企画して…」と説明すると「ああ、バザーやってる人ね」と返されて「…いや、バザーではなく…バザーが悪いわけじゃないけど、なんというかそれとはスタート地点が違うというか…」みたいになるし、「撮影をしています」と言えば「ああ、カメラマンさんね、はいはい、カメラ屋さん」と言われて「いや、カメラマンって言うわけでもないというか、そもそもカメラマンとカメラ屋さんは違う職種で…」みたいになるしで、もやもやしている間に相手は自分の知っているカテゴリに私たちを適当に当てはめて話が進んでしまう…という具合。

最終的に話がうまく進んだとしても、最初の一歩、最初のハードルを超えるという作業に、すごく時間と労力がかかる。「お前たちいったい何者なんだ」という問いに対して、自分たちのやりたいことが壮大過ぎて言語が追い付いていなかったんです。

また、イベントをした際にトラブルがあり、私が話をしてもまったくと言っていいほど耳を傾けてくれなかった地域の方が、男性スタッフが前に出てきた途端にちゃんと話を聞くようになった、というのを目の当たりにして、「弱い…自分は弱い存在だ…」と落ち込んだこともありました。

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こういう小さなもやもやを繰り返すにつれて、「もっと自分たちを表現する看板があったほうがいいのではないか」と考えるようになりました。それは冒頭で引用した内閣府のHPにある「団体に対する信頼性」、つまり社会的信用です。

法人格があれば、最初のハードルを超えるのがちょっと楽になるんじゃないだろうか。

そして同時に、自分たちの当時の体制を少し変えたいという思いもありました。

当時のくらしアトリエはあくまでも「ボランティア活動」。
ネットでの発送作業に使用する資材は各自の持ち出しが多かったし、作品に対して自信がなかったので値段も高くつけられず、「これも付けたほうがいいんじゃない?」と言って最終的に利益がほとんどないようなものづくりをしていました。
当然、毎日記事を書いても写真をたくさん撮っても、報酬はありません。

楽しいから、好きだからずっと続けたいけれど、このままじゃいけないんじゃないか。きちんと看板を背負い、その分の責任も背負って、自分たちの活動を「働く」という形にしたい。そしていつか、ちゃんと対価として報酬がもらえるような、社会的に自立した団体になりたい。そんな気持ちが日に日に増していったのです。

※よく「NPO(非営利活動)=ボランティア団体=無償」というイメージでとらえられがちですが、「営利を目的としない」というのは「利益を出してはいけない」ということではなく、「利益を関係者に分配しない」ということを意味します。
なので、スタッフが労働の対価として給与や報酬を支払うこと、定義されている「特定非営利活動」のもとで利益を生む活動をすることは、当然の権利として認められています。次のNPO活動へとつながり、ひいては社会貢献をしっかりすることにつながるので、むしろ利益を生む活動はどんどんやるべきだと考えています。


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3.なぜNPO法人なのか

「法人化」ということを考え始めた時、目の前にはNPO法人のほかにも、株式会社、合同会社などの選択肢がありました。

その中から、「お金がなくてもできそうで」「自分たちの活動に一番近い」というふんわりした理由で、最初は安易にNPO法人を選んだのですが、相談をしたNPOサポート職員の方に「甘い!」と一喝されます。

「本当にやりたいことがあるなら、信念があるなら、任意団体でも十分に活動できるはずです。責任はどんな団体でも負っているもので法人格は関係ありません。なぜNPOなんですか?ちゃんと考えてるんですか?」と言われ(相当けちょんけちょんに言われた…)、私は「ええ…そんなに否定するの?」と落ち込むわけですが、でも言われてみれば安直に道を考えすぎたかもしれないと思い直し、一度白紙に戻して考えることになりました。そこから、2回目の相談をするまで半年以上かかったと思いますが、その時には自信を持って「今度は大丈夫です!NPO法人になりたいです!」と言えるようになりました。

それはなぜか。

自分たちの活動の芯には「地域と暮らし」というコンセプトがある。すなわち、「山陰の、島根の魅力を他ではない視点で多くの方に伝える」「楽しい暮らしをするためには、地域の魅力を知る必要がある。地域に誇りを持って暮らすと、毎日はもっと楽しい」というコンセプトですが、これは社会的にとても意義があることではあるものの、利益を追求することを要求される株式会社などでは実現することが難しい。

自分たちが追求するのは株主の利益ではなく、「自分たちのやりたいことにまっすぐに取り組めるか」ということで、それを実現するには他の法人格ではゆがみやひずみが生じる可能性が大きい。金銭的余裕がないのも大きな理由ではあるが、自分たちのミッションに向かってまっすぐに、時にしなやかに、少人数でフレキシブルに動けるのは、比較的自由度の高いNPO法人だと思う。

…と、そんなことをお伝えしたように記憶しています。前回泣きそうになるくらい否定されたNPOサポート職員の方も、その話を聞いて「分かりました」と言ってくださいました。

4.法人化して良かったこと

法人化して良かったな、と思うのは、やはりその看板のおかげで最初のハードルがとても低くなったことです。今はさほど、法人格の有無を問うような機会はないかもしれませんが、当時は助成金なども法人格を持っていることが条件、ということも多かったように思います。公開審査で「法人格を持っていないのに、事業がうまくいかなかったら誰がどう責任をとるんですか」というような質問をされているグループもありました。

NPO法人について完全に理解はしていただけなくても、「何やらいいことをしている人たち」というのは伝わって、商談がうまくいくこともありました。

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また、イベント「暮らしを楽しむ朝市」などの企画をする際に、自治体の方に相談がしやすくなったこと(地域づくりのNPOだ、ということで話が早く進む)、さらに、イベントの様子を見てくださったり、活動を知ってくださる機会が増えて、企業や自治体の方からのお仕事の依頼が増えたこともとてもありがたかったです。

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スタートは朝市というイベントでしたが、そこからご縁がつながって、私たちもたくさんの学びをいただいて、NPOという道につながり、今のくらしアトリエのスタイルがあると思っています。

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それから、自分の中ですごく大きかったのが「個」で見られなくなったということです。

任意団体で活動していた時、言い方は悪いのですが、自分の暮らしを切り売りしているような感覚がありました。
私は「くらしアトリエ」として発言をしているつもりでも、見ている人はそうは思わない。ホームページを見てくれた知人に「〇〇さんはマーサ・スチュワート(アメリカのカリスマ主婦のような‥)みたいになりたいわけ?」と言われて、「え?」と固まってしまったこともありました。

どうしても「個人」がしゃべっているような印象を受けるようで、もちろんそれで良いこともたくさんあるのですが、前に出ることが苦手な私にとってはけっこうな苦痛でした。個人として見られるがゆえに、変な因縁をつけられることも多々ありましたし…。「なんでこんなこと言われるんだろう…」と落ち込んだ私に、スタッフが「個人だと思ってるからじゃない?ソニーの社長にこんなこと言わんでしょ」と言ってくれて、なるほど~と思った記憶があります。思えばそれも、法人化を急いだ理由のひとつでした。

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5.これからも、NPO法人として

いま、「くらしアトリエ」として自信を持って発信ができて、法人として活動ができて、すごく幸せでありがたいなあ、と実感しています。

もちろん、ほかの道を選んでいたらそれはそれで楽しかったと思うけど、「やりたいことにまっすぐに」「しなやかに」「少人数でも芯を持って」活動ができているのは、「NPO法人である」という誇りがあるから。

利益追求型ではないとはいえ、活動するためには経費などが当然発生します。なので、「やりたいことにまっすぐ」という綺麗ごとのようなことを言いつつも、(活動を回していけるだけの)利益を出さないといけないというちょっとした矛盾?との戦いもあります。そこがまた「やりがい」とのせめぎ合いというか、楽しいところでもあります。

すべての方におすすめできる形ではありませんが、少しでも共感したという方がおられたら、ぜひ選択肢の一つに入れてもらえたら、と思います。

法人化してからもその都度自分たちの歩んだ道を振り返り、芯はそのままにしなやかに方向性を変えながら、ブレずに活動をしてきているつもりです。

活動当初からのテレワーク、昨年度導入した週休3日制なども、自分たちならではの働き方を、と考えた結果として生まれたもの。思い立ってすぐに実行できるのも、規模の小さな法人ならではの良さですね。

これからも、私たちならではの仕事のやり方を模索しながら、実践していきたいな、と思っています。


サポートありがとうございます。とてもとても励みになります。 島根を中心としたNPO活動に活用させていただきます。島根での暮らしが、楽しく豊かなものになりますように。