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「本気の田舎」で活動するための心得。合理性だけではうまくいかないこともある。

今日の「時々、コラム」では、地方(田舎)での活動を振り返りつつ、見えてきた自分たちなりの「地域へのかかわり方」について綴ってみたいと思います。

地方で活動したい人、移住したい人に、少しでも参考にしていただければ幸いです。

※私たちが想定している「地方(田舎)」とは、地方都市とか東京から電車で1時間半とかではなく、一番近いスーパーまで車で20分、公共交通機関はバスが1日2便、当然近くにコンビニはありません、といったいわゆる「ガチの田舎」です。


◎歩み寄り、相互理解(のための努力)

はたひよどりの拠点に移転した当初、地域の皆さんは私たちに興味を持ち、私たちも地域の皆さんに自分たちを理解してもらいたいと考え、ぎこちないながらも文化交流みたいなものが、自然発生的に始まりました。やっぱりお互い、喜んでもらいたいので、最初は無理してでもいろいろやってみるわけです。

<どのようにお互いトライしたか>

◆地域の皆さん→くらしアトリエへの(ぎこちない)アプローチ

・地域の山に生えているたけのこを加工される風景を見学させてもらう
・子どもたちに田植えや稲刈りを体験させてもらう
・梅の季節に、大きなコンテナに2杯分の青梅を収穫させてもらう

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・ナスやジャガイモなど、畑の開墾から植え付け、収穫までを体験させてもらう


◆くらしアトリエ→地域の皆さんへの(懸命な)アプローチ

・自分たちの活動状況を月に1度、新聞「アトリエ通信」にまとめて回覧

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・年に1度のお祭りで「展望台カフェ」などを開催し、地域の方にコーヒー無料券をお配りする
・行事ごとにはなるべく参加する(お祭り、忘年会など)

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・展望公園を使っていろんなイベントを開催する

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こんな感じで相互理解を深めようと、お互いそれなりに努力をするわけですが、時が経つにつれて徐々にお互いが分かってきて、程よい距離感みたいなのが見えてきます。

その距離感をお互い侵すことなく保つことができていたので、私たちは活動に専念できました。いい意味で放っておいてもらえるというか、干渉されることがなかった。これは地方で活動するうえで、結構レアなことなんじゃないかと思います。

もちろん最初からその距離感がつかめたわけではなく、「ここを拠点にしたからには、もっと地域の方に喜ばれなければ!」とガチガチに頑張った時期もありました(あまりうまくいかなかった)。

例えばそれは

地域の皆さんに喜んでいただきたいから、と

「映画上映会をしてみようと思うんですけど」と持ち掛けても「別に観たい映画はない」と言われたり(しょんぼり)

「地域の皆さんが好きな物をお店に置きたいんですが」と聞いても「別にない」と言われたり(さらにしょんぼり)

‥と、とにかくこちらが「こういうのいかがでしょうか」というお誘いに対して、思うような反応がなかったのでした。

※これは集落や地方によって差があると思いますが、はたひよどりは日本屈指ともいえる保守的な地域なので、新しいことを始めるよりも、「昨日と同じ今日、今日と同じ明日を過ごすことの方が大切」ということだと思われます。

要するに、地域の皆さんは

「程よくそっとしておいてほしい、でもお祭りの時には程よく人を呼んでほしい、かといって人が多すぎると困る、ポスターを作ってほしい、祭りの司会をしてほしい、種や苗のカタログのコピーやラミネート加工をやってほしい、時には確定申告のお手伝いをしてほしい…」

つまり、自分たちの暮らしの中での困りごとをスムーズに解決したい、という時に「はいはい!やります」という存在であってほしい、ということ。いまの暮らしを変革することや、新たな価値観をもたらすことは、まったく望んでおられなかったのでした。

それが分かってからは気持ちも楽になり、皆さんが困っておられる場面で(主に印刷やデザインなどで)ちゃんと力になれる存在でいることを心がけています。

そして、何より「ここっていいところ!」というのを折に触れて発信することが自分たちにできる一番の恩返し。おそらく地域の皆さんはInstagramもnoteも、いっさい見ておられないわけですが…。

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地域の皆さんも私たちに対して、「どうやら梅は喜ぶけど、毎日リアルに農作業がしたいわけじゃなさそうだ」「忘年会に来ても酒は飲まないらしい」「くらしアトリエで公園に自動販売機を設置してほしいと言ったら断られた(ちょっとこれは理解してもらえないかもしれないのですが、私たちが公園のお祭りでハンドドリップコーヒーを淹れていた→公園でいつもコーヒーを飲めたら、訪れた人が喜ぶだろう→くらしアトリエで自販機を置いてくれ、という思考だったみたいです。発想が飛躍しすぎていて、いまだに良く分からない…)」みたいなのが積み重なって、私たちへのアプローチの仕方が定まってきた、という感じなのでしょう。

歩み寄り、そして相互理解、ということが、やっぱり地域の中で活動をするためには一番必要なことなんだと思います。そして、少しでも違和感を感じたら、個別にしっかり対応して、理解を得るよう努力する。100%理解は得られずとも、「時間を割いて説明をした」という行為自体が、相手への敬意を表すことになります。

きっと、「あなたのことを気にかけています」という思いを、きちんと伝えることが何より大切なのではないかと思います。


◎「無駄」と思えることを共有できるか。

拠点をいまの場所に移して、地域のお祭りに初めて参加する、と決まったとき、自治会の会合に参加することになったのですが、夜8時から開始なのに20分前には全員が集まっていて、しかも「集まっているのに全然会議が始まらない」ということに、??という気持ちになったことがありました。

「え~、ではそろそろ…時間になりましたので…」と始まるまでの30分弱。この時間が当初「無駄」としか思えなかった。何をするでもなくみんなでボーっとテレビを観ているという時間が苦痛でしかなく、「仕切っちゃおうか」と思ったことも。でも、その「無駄」も実は大切なんですよね。私たちから見るとただ何もしない時間が過ぎ、時間の浪費に見えたけれど、それは地元の方からすると全然無駄じゃない、とこちらが認識することが大事なんだとわかってきました。

以前あるウェブ記事の取材をしたのですが、そのときに出会った方(その方も都市部から雲南へ移住された方ですが)も、お葬式に参列したら部屋に通され、何をするでもなく数十分ボーっとする時間があって、なんだこれ、って最初は思ったけど、その時間を共有すること自体が重要だったんじゃないかって今なら分かります」とおっしゃっていたのですが、それはまったくその通りで、何をするでもないが、空気感を共有する、という「目に見えない束縛」みたいなのが地方にはあると思うのです。

そこで、「時間の無駄なんで、もう始めません?」とか「私が仕切りますんでちゃっちゃと終わらせましょう」とか言うことは、せっかく大切に共有しようとしていたものを壊すことになるのだと思います。

また、例えば会話をする時「一番言いたいことは3番目くらいに話す」というルールもあるような気がしています。訪ねてこられて、最初から本題を話す方はほとんどいらっしゃいません。何となーくの会話をつらつらと10分くらい続けて、こちらが待っていると「実はねえ…」と大切なことを話し始められます。

最初はこれも慣れなくて「さっさと言って欲しいなあ」と思うこともあったのですが、その前段階の会話も必要なこと、なんですよね。

合理性だけではうまくいかないこともある。

これも、何回も会話を重ねて徐々に分かってきたことで、最初から理解できたわけではありません。

長くその地域に関わっていきたい、と思うなら思うほど、無駄を無駄と思わず、時間をかけてその時間や手段を共有することが大事だと思います。

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時には待つことも必要だし、こちらの思っていることがまったく必要とされていないということに落ち込むこともありました。

が、一緒に共有できた(無駄と思える)時間が、徐々にお互いを適切な距離に近づける潤滑油になるのだと思います。

そしてその無駄な時間を待てない人もたくさんいて、そういうのはたいてい、うまくいかない(気がする)。
都会から移住してきました!という方も多いのですが、合わなくて都会に帰って行く人も多いと聞きます。
実はこの田舎特有の非合理的な時間の流れ(一見無駄な時間)を掴めなかったことが原因なのでは、となんとなく今までの経験から思うようになりました。

変化に対応しやすい、例えば地方都市とか、Iターン者を積極的に受け入れている町では、状況はまた違うでしょうし、そのあたりをうまく仲介してくれる自治体やNPOもあるでしょう。

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でもやっぱり、そこで活動したい、あるいは暮らしたい、と思うなら、自ら理解しようとすることが大切ですよね。その土地はそこにしかなく、他のどの地域とも違うのだから、自分が思う「こんなのが理想」というのを持ち込んでも、100%その通りにはならないのです。

小さな失敗や、小さな行き違い、思いやりのすれ違いを経験していきついたこと。

イレギュラーなことや思うにならないことを「いかに楽しめるか」「いかに粘れるか」みたいなところが、地方(田舎)で気持ちよく、最終的に自分たちのペースでいられる秘訣。

そのためには、その土地をきちんと見つめ、現実も見据えたうえで、歩み寄り、理解し合うことが求められるのではないでしょうか。

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それは実は地方とか都市とかではなく、「多様なコミュニティの中で、気持ちよく暮らすための秘訣」でもあるのかもしれませんね。

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地方(はたひよどり)で活動して得たいろんな経験を、また違う地方(斐川)でも活かして、また活動全体にも活かしていけるよう、「地域をきちんと見つめること」を心がけていきたいと思います。



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