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なぜ「はたひよどり」だったのか。~NPO法人の拠点が決まるまで。

「なぜこんな山の中で活動しているんですか?」

なぜNPOなのか?と並んでよく聞かれる質問です。

移転するということを先日お知らせしたのですが、そのことを踏まえ、せっかくここで活動しているのだから、という記録の意味も込めて、今週の「時々、コラム」では自分たちが「はたひよどり」に拠点を設けるに至ったいきさつや思いについて、書き留めておきたいと思います。

「はたひよどり」って何?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、現在私たちくらしアトリエの拠点があるのが「島根県雲南市大東町畑鵯」という場所なのです。「畑鵯=はたひよどり」。

漢字で書くといかついし、響きがかわいい!ので、あえてひらがな表記をしています。

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この「はたひよどり」、実は私たちにはもともと、何のゆかりもない土地でした。

よく「住んでるんですか?」とか「雲南市のご出身ですか?」と聞かれるのですが、この土地に縁のあるスタッフはゼロ、なのです。

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なのになぜ、こんな辺鄙な山の中に法人事務所があるのでしょうか。そこにはさまざまな出会いと縁があるのです…。

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くらしアトリエはもともと2005年に任意団体として活動を始め、その後2007年にNPO法人化をしています。そのいきさつについてはこちらのコラムで綴っています。

2005年3月に活動を始めたのですが、実はその翌月に私(代表)が離島である隠岐へ、数か月後にはもう一人のスタッフ(副代表)がアメリカへ、それぞれ引越しするという、波乱の幕開けでした。

その都度「どうしようか」と話し合い、続けられるのか不安はありつつも、「やりたいよね」という気持ちを共有して、リモートワークを駆使して離れ離れで活動をしてきました。その後、上記のコラムで書いたような経緯があり、法人化をします。

法人となるには拠点がなければいけません。

当時私は「島根県隠岐郡西ノ島町」で暮らしていたので、NPO法人くらしアトリエは代表である私の住まい、つまり西ノ島町でスタートしました。

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…実はこの時、くらしアトリエは「西ノ島町で最初に設立されたNPO法人」であると同時に、「島根県の全市町村にNPO法人が設立された」という記念すべき法人でもあったのでした。

が、私は思っていたのです…。「来年の春、多分オットは異動だよなあ…。ということは、引っ越しだよなあ…。」と。

お世話になった町役場の方とか、「これで全市町村にNPO法人ができた」と喜んでおられた当時の県の担当課長さんとかに、ひたすら申し訳ない…と思いつつ、設立早々、移転先を探し始めなければならない状況に陥りました。(今なら、引っ越してから法人化すればよかったのでは…と思わなくもないけれど、あの時は少しでも早く次のステップに進みたかったんだよなあ…。)

もちろん、引っ越し先の私の住まいを住所として登記することもできますが、その頃すでに何度もイベントを開催し、ネット販売等も行っていた私たち。徐々に荷物が増え、狭い自宅で作業をするには限界が近づいていました。

法人化したことで事務書類も増えますし、これからいろんな企画もしていきたい。その都度場所を借りるより、自分たちで好きなように活動ができる場所を作ったほうがいいんじゃないか。

そんなわけで、設立したばかりで新たな拠点を模索し始めたわけです。


最初に物件を探したのは松江市でした。スタッフの多くが暮らしている町でもありましたし、島根の中心。便利だしイベントもしやすい。

が、なかなかいい物件に巡り合えません。古民家を紹介していただいたり、インキュベーションルームを探したりしたのですが、どこもしっくり来るものがなく、いいなあと思っても予算的に無理だったりして、「困った…」と途方に暮れた果てに頼ったのが、当時からお世話になっていた「ふるさと島根定住財団」さんでした。

と言っても公的にお願いをしたわけではなく、お世話になっていたスタッフの方に「いいところないですかねえ」と相談をした感じだったのですが、そのスタッフ・Sさんがめちゃくちゃ親身にいろいろ探してくださったのです。今でもそのことには感謝しかありません。

私たちの良き理解者だったSさんいわく「くらしアトリエさんは、海より山だな!」とのことで(この感覚もすごい)、あちこちに声をかけてくださったのですが、その過程で教えていただいたのが「雲南市に空き家バンクがあるよ」という情報でした。

当時まだ「空き家バンク」という言葉自体がまったく浸透しておらず、いろいろと聞いてみると、どうやら空き家と住みたい人を、自治体が仲介してくれるらしい。なるほどそれはいい制度だね、ということでご紹介いただき、当時の雲南市役所の空き家推進員・Kさんに何軒かの物件を見せていただくことに。

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その中で、一番最後に「僕はここがアトリエさんに一番合うと思うなあ」と連れて行ってくださったのが、「はたひよどり」の古い一軒家だったのです。

当時隠岐で暮らしていた私が、スタッフからその話を聞いて、初めてその地を訪ねたとき、季節は冬で、あたり一面銀世界でした。

そして、古い家の庭に赤い椿が咲いていて、白い雪の上にぽとん、と落ちていたのが、すごくすごく美しくて。

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目の前は田んぼでしたがそこも一面真っ白、ところどころにちいさな足跡(タヌキかウサギか…)があって、「うわああ、なんて素敵なんだろう」と心を奪われてしまったのです。

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いい意味で「別世界」を感じたんですよね…。(その後活動を始めてから、冬場には違う意味での「別世界」を感じて途方に暮れることになるのですが。)

また、それまで紹介してくださった他の物件はとにかく広く、私たちには手に余る豪農屋敷ばかりでしたが、最後に訪れたこの家は「古民家」ではなく「古いおうち」といった趣で、自分たちのイメージにもしっくりくるものでした。

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管理をしておられたお隣のおじさんはとっても良さそうな方で、私たちに「家の裏に竹が生えてるから、それを切って花壇にしたらどうか」とおっしゃってくださいました。

その提案がなんというか、気持ちがほっこりするというか…事務所として借りようとしている私たちに、花壇のアドバイスをしてくれるなんて、なんてかわいいんだ…!と胸を打たれたことも、鮮やかに思い出します。

便利さとは対極にある場所でしたが、私たちが求めていたのは利便性ではなく、島根・あるいは山陰という「風土」を感じられる土地でした。そういう意味でも、この「はたひよどり」の「潔いほどの周りの何もなさ」も、気に入った理由のひとつでした。

そして何といっても「はたひよどり」っていう名前がとってもかわいい!畑とヒヨドリ、何というのどかな組み合わせなんでしょう。
名前を大切にしたい私たちにとっては、この上なく素敵な地名でした。


他のスタッフからは「遠いんじゃない」「冬はどうするのか」「トイレ使えるの?」などいろいろ指摘を受けましたが(当然ですよね)、中心スタッフ2名の根拠のない「ここでやりたいんだ」という熱意を聞き入れてくれて、正式にお借りしたい旨を空き家推進員のKさんにお伝えしました。

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あの時は、何だか分からないけれど不思議と「ここでやるべきだ」と思ってしまったんですよね…。

当時は若かったし、運命を感じてしまったのかもしれません。

が、こちらが一方的に「借りたい」と言っても、はいどうぞ、とはならないのが田舎の常。

「自治会に説明が必要」と言われ、2月のさむーい夜につるっつるに凍った路面を運転し、常会(自治会で定期的に開かれる会議)に出席することに。

そんな場所に行ったこともなければ田舎の礼儀もまったくと言っていいほど知らず、当然手ぶら、スタッフのひとりはインフルエンザの治りたてでへろんへろん、という何とも頼りない状況でしたが、空き家推進員のKさんが菓子折りを準備してくださり、私たちが掲載された地元の新聞のコピーを配布してくださり、と、全面的にサポートしてくださいました。

その場で活動の内容を説明し(おそらくほとんど通じてなかったと思う。が、地元新聞のコピーが効果絶大だった)、「そんならまあどうぞ使ってください」と許可をいただき、晴れて正式に賃借契約を交わすことになったのでした。

その時には、「大家さんにはOKもらったんだから別に自治会に説明する必要なくないか?」と思ったのですが、今振り返るとあの会がなければいけなかったんだ、と明確に分かります。(特に田舎では、自治会への確認は必須な気がします)

皆さんに一度に顔を見せて説明をさせてもらったことで、「この人たちはこの場所で、なんだか分からんが”いいこと”をするらしい」というのを知っていただくことができたわけですから。

そこから、個人的な引っ越し+事務所移転の手続きを経て(勢いのあったあの当時だからこそできたと思う、今同時進行でやれと言われても無理かも)、2008年5月に正式に「雲南市大東町畑鵯」が法人事務所となり、私たちはその名のとおり「アトリエ」を手に入れたのでした。

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移転してからは、お隣のおじさんのご厚意で田植えをさせて頂いたり、

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じゃがいもやナスなどの野菜を植えさせてもらったり。

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当時は子どもたちもまだ小さくて、そうした体験のひとつひとつが学びだったなあ、と懐かしく思い出されます。

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もちろん家は古くて、修繕が必要な箇所もたくさんありましたが、最初は「荷物を置く場所」からスタートし、少しずつ直して自分たちのやりたいことを形にしてきました。

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作り手と消費者を結び、山陰で暮らすことの豊かさを共有するための教室「くらしの学校」は、このはたひよどりの拠点がなければ実現しませんでした。

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山の緑やのんびりした空気を感じながらの学びの時間は、参加者の皆さんにとっても、ちょっとした非日常を感じていただけるものだったのでは、と思います。

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時にはアトリエの周りにある草花を採取して草木染めをしたり、

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スケッチ教室をしたり…この場所にあるものを皆さんと共有したい、という気持ちで活動をしてきました。


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また、「山の図書室」のような「ただのんびりと過ごす」という場所づくりも、周りに田んぼと森しかないこの場所だからこそ空気感を作り出せたのだと思います。

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地域の皆さんと一緒に開催した「畑展望公園まつり」。

事務所から5分のところに「畑展望公園」という公園があります(このnoteでもたびたび登場していますね)。この公園、地域の皆さんが管理をされていて、まさに地元の誇り。ここで数年前まで、毎年10月に開催されていたのが「畑展望公園まつり」でした。

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手作りのくす玉を割ってスタートするという、なんとも昭和を感じるお祭り。
眺望を楽しみながらおいしいハンドドリップコーヒーを飲んだり、

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かと思えばその下では銭太鼓のパフォーマンスがあったり。

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まさにここでしかできないイベントでした。

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お米のすくい取り、野菜の重さ当てクイズ、ほぼ自治会の方しか参加しないカラオケ大会…ああ、懐かしい。


そして、もっと深く自分たちのやりたいことを具現化したい、と考えて生まれた「シマシマしまね」。

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島根各地のおいしいもの・手仕事のものを通して県の魅力を発信し、同時にワークショップを開催することで地元食材を身近に感じていただく。

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ほかにも「ことばのワークショップ」「シマシマ編集室」「偏愛の会」「おふるまいプロジェクト」…多角的に地域と暮らしを重ねていく試みを通して、シビックプライドが根付いていくことを目的として始めた「シマシマしまね」は、たくさんの方に私たちの存在を知っていただくきっかけにもなりました。

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初めてこの地を訪れたときに感じた「運命みたいなもの」は、間違ってなかったんじゃないかなあ、と思います。

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この山の中のひっそりとした活動がいつか(どんな形にしろ)実を結び、「田舎でも、周りに便利なものがなくても、アクションを起こすことができるし、結果的に地域を元気にすることができる」という一つのモデルになったらいいなあ…という気持ちで、ずっと活動を続けてきました。

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その気持ちは今もまったく変わりません。

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2008年5月の日記を発掘したら、こんなことを書いていました。

とかく私たちくらしアトリエは、運営しているHPが「スロウスロウ」ということから、いわゆる「スローライフ」を提案している団体、と思われがちです。
もちろん、ゆっくりと時間を使って生きることも、大事なこと。
でも、私たちが本当に伝えたいのは、田舎暮らしやロハスといった、1つの側面では決して説明のできない、もっと人間の心の深いところにあるものだ、と考えています。
心豊かに暮らしたい。
ひと言で言えばそんな言葉になるのかもしれません。これも私たちの思いをすべて説明しているとはいえないのですが…。
例え忙しくとも、あわただしい日常の中に埋もれていようとも、ふとした瞬間のちいさな自然のひとつひとつをいとおしみ、自分が生まれ育った土地をまるごと受け止め、その素晴らしさを伝えていきたい。
そして、自分の子どもたちや、そのまた子どもたちの心に、季節のにおいや、人を敬い、つながっていく楽しさをも、伝えたい。
そんな思いが、この土地からだったら素直に発信できるんじゃないか。
そう感じています。
まだまだ始まったばかりのアトリエですが、今後ここから多くのことを発信していけるよう、努めていきたいと思います。
今度ともくらしアトリエをよろしくお願いします。

…ちょっと文章がロマンチックで恥ずかしいのですが、この時に抱いていた思いを「はたひよどり」という拠点で形にできたことは、自分たちにとってとても大きな財産です。

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あれから13年が経ち、子どもたちも巣立っていきました。

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島根という土地の豊かさを心に持ちながら、いまは県外で頑張っています。

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前庭に生えていた山桜の木も、ものすごく大きくなりました!13年前はこんなにひょろひょろの木だったんだ…と、写真を見てあらためてびっくりです。


そして、私たちも(災害というきっかけではありますが)新たな拠点へと移り、活動を見直す機会をいただきました。これから自分たちがどうあるべきか。はたひよどりで得た経験をしっかりと糧にしつつ、より「くらしアトリエがやりたいこと・やるべきこと」を研ぎ澄ましていきたいと思っています。

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この土地にご縁を頂いたすべての方に、本当に感謝しかありません。

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ありがたいなあ…としみじみ感じる毎日です。

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先日のnoteで拠点移転のお話をさせていただいたのですが、実際の移転がいつになるのかは、まだはっきり決まっていません。


そういうわけで、変わらず「はたひよどり」の事務所で、(コラムに書いたとおりの事情で施設はオープンしませんが)仕事をする日々です。

あと数か月(たぶん)、はたひよどりの景色や季節のうつろいを折に触れてお伝えします。どうぞお楽しみくださいね。


サポートありがとうございます。とてもとても励みになります。 島根を中心としたNPO活動に活用させていただきます。島根での暮らしが、楽しく豊かなものになりますように。