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議論を良いものにするための、魔法の言葉。

くらしアトリエにはスタッフそれぞれにいろいろな役割がありますが、「ものづくり担当」スタッフというのが数名おります。

オリジナルの何かを作るとき、それを形にしてくれる仲間たち。

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もともとは「花雑貨」という、フラワーアレンジと手作りの雑貨のセット、というのをネット販売していたところから、その歴史は始まります。

…ちなみに、こちらの画像でアレンジメントが入っているミニミニスーツケースも手作りです。レトロなトランクにお花が入ってたらかわいいね、お花が終わっても、雑貨などを入れて楽しめたらいいね、というスタッフのアイデアを形にしてくれたもの。

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ちゃんと閉じられてかばんとしても機能するんですよ。

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ちょっとどうやって作ってるのかもはや良く分かりませんが…かばん職人でもないのに。

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表地も裏地も何種類かあるものから選んで、ころんとしたかわいい形のスーツケースができあがりました。

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留め具など細部にまでこだわり、質感もレトロっぽく。洋書の1ページを開いたような…というのがコンセプト。お花の色合いもセピア色です。


こちらは、ホーローの保存容器にクッキーとアレンジメントをセットにしたもの。お花スタッフのアイデアで「ムスカリの球根」が入っています。

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アレンジもかわいいけど、アンティークのブレッド缶や木箱をモチーフにしたガーデンピックが、秀逸でしょう?

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ちょっと錆びたり朽ちたりしているところの再現度…!

ちなみにこのピック、「アンティークっぽい、かわいいガーデンピックを作ってほしい」というこちらのオーダーに対して、想像の斜め上を行く「立体」で試作が仕上がってきて、かなりびっくりしました…。
そんなことまでできるのか…とため息が出た記憶があります。

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アレンジメントとの相性も良くて、とても好評だったものづくりです。

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15年前、くらしアトリエを立ち上げて間もなくスタッフは隠岐の島・アメリカ・米子市・益田市(米子と益田はある意味、島根と東京以上に遠い)と、散り散りになってしまいました。

今考えると良くこの状況で上記のような↑細かいディティールまでこだわったひとつの作品を作り上げていたものだ…と感心してしまいますが、当時は専用の掲示板をスタッフで共有し、Skypeを使って意見を出し合っていました。

チャットをしていても、タイピングが得意な子とそうでない子で会話が成立せず「その話もう終わったよ」みたいなことも多々ありましたし、現物を見てチェックしたいときには日本からアメリカに荷物を送ったりして、いやあ、一生懸命でしたね…。若かった…。

今ではなんでもぽんぽん言い合えるスタッフですが、もとから仲良しだったわけではありません。

「素敵なものづくりをされる作家さん」としてメールで声をかけ、「はじめまして」「このたびはよろしくお願いします」という感じで知り合って、おずおずと作品を作ってもらっていた、という関係性。

なので、最初のうちはお互い言いたいことが言えずに「うーん、ちょっと思ったのと違うけど、まあいいか…」となることがありました。
でね、一度そう感じてしまうと、その作品を「全力で推す」ことができなくなってしまいます。心に引っ掛かりを感じたままPRすると、それが微妙に文章から伝わってしまうんじゃないかと思うのですが、結果的に作品があまり売れず、「やっぱりちゃんと言えばよかった…」と、やり場のない思いにさいなまれることもありました。

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作る方も同じで、はじめのうちは製作途中で「こっちのほうがいいと思うけどなあ」と思いながらも、遠慮して妥協しながら製作する、ということもあったんじゃないかと思います。そうなると、うまくいかなかったときに「やっぱりあっちの方が良かったんじゃないか」と後悔してしまいがちだし、「でも言われたとおりに作ったもんね!」と、ある意味責任を負わない形になり、作品への思いが薄れていくんじゃないか…というのが心配でした。

お互いそれぞれのテリトリーがあり、プライドを持って仕事をする中で、どうしても意見を闘わせないといけない場面がある。
そんなときに、私たちが使っているのが、

ちょっと思ったんだけど…」という魔法の言葉です。

「ちょっと思ったんだけどさ、この色、もう少しこんな感じにしてもらえないかな」

「ちょっと思ったんだけど、このモチーフがこの作品には合ってない気がする」

「ちょっと思ったんだけどさあ…なんというか、思ったのと違う…」

などなど、この枕詞をつけた後にやんわりと相手にケチをつける、というやり方。

作り手は、「ちょっと思ったんだけど」というワードをまず最初に聞く(あるいはチャットやLINEで見る)ことで、「ああ、気に入らなかったんだな」というのがニュアンスで分かる。そして「さあ、これから耳が痛いことを言われるぞ」という心づもりができる。

相手側は、「ちょっと思ったんだけど」と最初につけることで、角を立てずに相手に主張できる。

「ちょっと思ったんだけど」という言葉そのものは短いけれど、その中には「今から出来れば言いたくないけど、言わなければならない大事なことを言うね。あなたの苦労は分かってるよ、だけどやっぱり大事なことなので言うよ。ほんとごめんね。でも聞いてね。」というような気持ちを込めての言葉、なのです。


顔が見えず、距離も離れていて思いが直接伝えられない環境下で、いかにお互いが気持ちよく仕事に従事できるか、を考えた末の、私たちなりのマネジメント術

今まで何度、「ちょっと思ったんだけど」を使ったことか…。

私自身はみんなが製作したものを文章で「伝える」のが役割で(ものづくりに関しては何も手伝えない)、企画段階ではケチをつけること自体が仕事になる(しかも、作り手が楽になる注文をすることはほぼなく、困難なことを簡単に提案する)ため、毎回すごく悩みます。

スタッフの中には言われても「了解、やってみる」で終わる者もいれば、「えーそうかなあ」と引きずる者もいるので、それぞれの性格やものづくりへの姿勢を理解したうえで、気持ちよく作業に打ち込んでもらえるように、つまりはなるべく波風を立たせないように、おだやか~に、でも熱は持ちつつ議論をしていくことが求められます。

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全体の流れをいい感じに誘導しつつ、より良いものを作れる空気を作ること、が私の仕事。これは難しい仕事ではありますが、スタッフ間に信頼関係があれば、おのずと議論は良いものへと流れていくのです。

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逆に言えば、お互い顔を見ずに細かいところまで満足がいくようなひとつの作品を仕上げるには、確固たる信頼関係が大前提だ、ということ。

いくら「ちょっと思ったんだけど」という枕詞をつけたとしても、相手に自分の思いが伝わっていなければ「なんでそんなこと言うんだろう?」と相手が不満に思い、こちらの思いは伝わらず、はい終了、ということにもなりかねません。
だから日頃から会話を密にしてそれぞれの状況を把握し、良いタイミングで仕事をお願いしたり、数量を調節したりもしますし、「最近大丈夫かなあ」「この頃積極的だな」など、細かなことにも会話を通じて気づけるように心がけています。

もちろん、議論の中で意見が異なるときには、言う方も言われる方も決していい気持ちにはならないけど、「みんなでひとつのものを作り上げるんだ」という共通意識を持っていれば、相手の意見にも耳を傾けるもの。
「じゃあこうしてみるわ」と自ら修正をしてくれたり、こちら側を逆に納得させてくれるようなプレゼンをしてくれたりするのです。

最初は「あんまりいいと思わないなあ…」と思っていても、作り手から熱いプレゼンを受けることでこちらが「なるほど~それは気づかなかった、いいね!」と考え直し、自信を持って文章で発信できた、ということも何度もありました。


ところで、長い年月を同じ目的意識を持って活動していると、この「ちょっと思ったんだけど」がおざなりになりがちです。

なぜかというと、「これだけ長い間一緒にやってるから、きっと私の思いを気づいてくれるよね」と、相手に判断をゆだねてしまうことがあるからです。

実は今回ネットショップのために製作したものの中にも、「ちょっと思ったんだけど」を言わずに流してしまったがゆえに、試作の段階で違和感が生じ、製作がストップしてしまったものがありました。「なんとなく心の中で感じてたけど、分かってくれてるかなーと思ってた」という、長い付き合いならではの慢心があったなあ、と反省しています。

今回は、何とか後戻りできるところギリギリで「ちょっと思ったんだけど」を発動し(笑)、事なきを得ましたが(作り手は大変だったと思います…感謝しかない!)、あらためてちゃんと議論すること、ぶつかることを恐れないこと、そのための信頼関係を絶えず意識すること、を痛感しました。

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私たちの場合、議論するのは少人数だし、気心が知れている友人どうしでもあるので成り立つことかもしれません。

でも、大企業でも少人数でも、基本は同じ。「信頼関係を築いて、言いたいことが言える環境下で、良い空気感を作りながら仕事をすると、良い結果が生まれる」と思います。

誰かと誰かがぶつかったときには第三者が間に入って空気を入れ替え、良い議論ができるような環境を作る。自分の中の違和感をそのままにしない。そういう意味でも、「ちょっと思ったんだけど」はくらしアトリエの中のパワーワード。

ものづくりの魅力を伝えつつ、新しい年を迎えるわくわくを感じていただける今回のネットショップも、どうぞよろしくお願いいたします。






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