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ライター業で大切にしていること(あくまで私の場合)

今日のコラムは「取材」ということについて。
※取材の極意とかそういう専門的な話題ではありませんのでご了承ください。

7月6日夜から降り続いていた大雨の影響で、事務所に行くことができず(危険だということと、通勤路が通行止めになっていたこともあり)、必然的に自宅で過ごした3日間でした。諸事情により車が使えなかったので、オフの日(くらしアトリエは土日に加え、水曜日もオフとなっています)も遠出することができず、という状況のなかで、ようやく重い腰を上げて、1冊の本を読み始めました。

古賀史健さんの著書「取材・執筆・推敲 書く人の教科書」です。

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発売間もなく購入していたにもかかわらず、なんとなく気乗りがしなくてずっと「積ん読」状態だったこの本。多分「教科書」というタイトルのワードでちょっと気後れしてしまっていたんだと思います。

とはいえ、本自体はすごく読みやすく、読みやすいからこそ、するするとうわべだけをなぞって読んだ気になってしまいそうなので、項目ごとにちゃんと反芻したいと思い、あえて少しずつ、少しずつ読み進めています。当然、まだ全体の5分の1も読めていません。

なので今回はこの本の感想、ではなく、「取材」とか「ライター」とかについての考察を少し、してみたいなあと思います。

私は15年ほど前から、相手を取材して記事を書く、いわゆる「ライター業」というのをさせていただく機会が時々あります。ですが、もともとライター志望、というわけではありませんでした。

きっかけは2つあり、ひとつは雑誌「さんいんキラリ」と関わったこと、もうひとつはとある行政が発行している環境情報誌の市民記者に応募し、採用されたことです。

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「さんいんキラリ」との出会いは偶然で、話すとちょっと長くなるので割愛しますが、ひょんなことから編集長に引き合わせられ、「なんか書いてみてよ」と言われて取材スタッフに組み込まれることに。

その時にはまったく経験がなかったので、当時取材を担当されていたライターの先輩に「こういうのがあるから、やってみたら?」と紹介していただいたのが、環境情報誌の市民記者でした。

面接を受けて採用され、新聞社の記者のOBである編集長のもと、いろんな場所へ取材に行き、記事を書くというのを3年ほど続けました。

取材の初歩の初歩、記事を書くノウハウはこの時に教えていただいたものですが、環境情報誌は行政が発行していることもあり、「記者の考え」を文章に載せることはほとんどありませんでした。

私がどう思ったか、という点は紙面に必要はなく、ちょっと抒情的なことを書くと注意されたりもしました。

その後、企業の社長や病院の院長などの「トップ」にインタビューをして記事を書く、という記事広告のお仕事を数年間担当しました。
これもすごく勉強になった仕事でした。トップといっても十人十色、取材への意気込みや対応もそれぞれです。なのでこちらのアプローチもその都度変えながら、気持ちよく話をしていただくことを心がけました。

ここでもライターの私見は入らないので、その企業なり病院なりをていねいに紹介し、素晴らしい会社だ、という感じでまとめることが求められます。自分に身近な企業もあれば、まったく縁のない業種の方もおられました。携帯電話会社、葬儀会社、ガスの工事会社、割烹料理店、総合病院、その他いろいろ…本当にいろんなトップの方にお会いして自分自身も刺激をもらい、「良い会社とは」みたいなのも肌で感じることができました。

今はそういった取材はほとんど引き受けていないのですが、くらしアトリエを通じていろいろな作り手に話をうかがう機会も多いですし、シマシマ編集室を通じてインタビューの場を設けたこともあります。これはまた来年度以降、復活させたい企画のひとつ。

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くらしアトリエを通じて記事を書くときには、情報誌や記事広告とは違い、「自分の考えを織り交ぜながら」書くことも可能になります。
というより、そこに興味を持ってくださる方のほうが多い。
以前とは違う力が求められるなあ、というプレッシャーも感じています。

だからこそ、今回古賀さんの本を読み進めるなかで、自分の中でのぼんやりとした「書くとは聞くこと、考えること」「結局は自分の中にあるものからしか書けない」といったこと、ひいては自分の未熟さをあらためて確認する、という感覚が強くありました。

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本の中でひとつ新たな視点をもらったなあ、と思ったのは、「対人」ではなくても、どこで何をしていても「取材はできる」ということでした。

カフェでランチをしていても、家でネットを見ていても、犬の散歩をしていても、私という人間は常に何かを見て、感じています。

その感覚をていねいに紐解き、分析して、分からないことや引っかかったことを調べていく、できればそこから自分なりの結論を導いていく。
この作業こそが「取材」なんだ、ということ。


思えば最近は人に会って何かを書くというよりも、このコラムのように「何かをテーマに据えて、分析して着地点を探し、文章にする」という行為が多くなっているのですが、これも一種の「取材」なんだなあ、と腑に落ちて、それまでとは景色が変わって見えるようになりました。


取材において肝と言えるのはやはり、私という「聞き手(直接話を聞くことはなくても)」がどこに疑問を、あるいは興味を抱くか、何を導き出すか、ということなんだと思います。すなわち「問う力」です。これは、記事に私見が入る・入らないにかかわらず重要なこと。

「問う力」は、相手が持っているものではなく、取材をする人自身が備えていなければならないものです。

とはいえ私は、自慢じゃないけど質問ができない人間。

バイトをしていた時、分からないことがあっても「こんなことも分からんのか」と言われるのが恥ずかしく、なんとなく聞きそびれてしまう、ということが良くありました。ダメダメですが…。

そんな人間がどうして他人に取材をするような人生になったんだろう…とも思いますが、本当に偶然が重なって「ライター」になってしまった結果、「相手に何を聞くか」という点については人一倍、ていねいに考えるようになった気がします。

それは実は「相手に怒られないように」というネガティブな動機によるものなんですが…。(というのも以前、取材先でお偉い方に初歩的な質問をして、「そんなことも知らないの?勉強していらっしゃらなかったの?」とお叱りを受けたことがあったのです。以来トラウマになっています。)

特に対面でのインタビューをする際には、質問の内容が取材の良し悪しをほぼほぼ決めてしまう、と思っています。

もちろんすべてのライターがそうすべき、ということではなく、これは私が自分自身の中に知識や語彙、自分なりの分析力みたいなものが備わっていない、と自覚しているからです。

自分自身の中に豊富な知識や言葉が備わっている方はきっと、何も下調べをせずとも自分の中の引き出しをその都度開けながら質問することで、面白い記事を書くことができるでしょう。阿川佐和子さんが聞き手としてとても魅力的なのは、そういった力が備わっているからだと思います。

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それに比べて自分自身には、その場その場で対応する力もないし、即興的に取材対象を楽しませるアドリブ力もない。

相手から思いもよらない話を聞き出せるような力がないわけです。
だから、なおさら前もって調べる、丹念にその人の輪郭をなぞっていく、という作業がとても重要です。

どんな人なんだろう、なんでこんな仕事をしているんだろう、社員はどういう風に育てておられるのか、やりがいはどこにあるのか…などなど。

私はまず対象を観察し、自分に近い部分を探します。
自分と重なる部分があれば想像しやすいし、会話の糸口にもなります。
逆に遠い部分に疑問を持つこともありますが、そうやって調べていくうちに、何かひとつでも「あ、面白い」と思えるものがあればそれが突破口になります。

つまり「問う力」とは、相手に好印象を与えるつかみの質問とかではなく(それも大事だけど)、いかに相手のことを知り、相手について興味を持つか、わくわくするか、という過程で生まれ、育まれるものなのです。

「興味ないわ~」という対象であっても、結果的に思いがけなく楽しい取材になることもあります。

以前「電動ドリル」の会社社長を取材することになり、「…これは本当に自分とは縁のない職種だ」と途方に暮れたのですが、それでも頑張ってドリルの形状とか、使われているシーンなどをいろいろ調べて出向きました。

結果、調べたことはほぼ役に立たなかったのですが(笑)、社長は私の拙い疑問に付き合ってていねいに答えてくださいました。何よりそのお人柄とアイデア力が素晴らしく、そして社員さんの雰囲気がめちゃくちゃ良くてすっかりファンになり、自分なりに納得のいく記事が書けた、という経験があります。

以来、私は電動ドリルを見るとあの会社が頭に浮かび、技術力を磨いたり、アイデアを形にしたりすることの重要性をいつも思い出します。そして、あのとき自分なりにドリルについて調べあげたことが、役には立たずとも記事を書く素地になったのだなあ、とも思います。

取材で大切なのは相手に対して興味を持とうとする意欲、なのです。


昨年から今年にかけては、直接お会いして話をうかがう機会があまりありませんでした。私自身も「人から話を聞く」という基本的なところが疎かになっていると自覚していますが、これから事務所移転、秋にはイベントも予定しており、直接作り手にお会いする機会も増えてきます。

わくわくする気持ちを常に持ちながら、その作り手さんのお人柄が伝わるような取材を、これからもしていきたいものです。

そして「対人」だけではなく、周りにあるささやかなことにも目を向け、ていねいに分析をしていく「取材」はできるのだ、ということを心に置いて生活していきたい。

これは「ライター」という職業ではなくても、誰にとっても「日々を楽しくする」ヒントになりそうですね。

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古賀さんの本、これから少しずつ読み進め、自分の仕事の、そして生活の糧にできればと思います。

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