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フィンランドでの就職活動の現実と私の感想

フィンランドでの11年間の移住生活を経て、様々な経験をさせて頂きました。語学、スタートアップの立ち上げ経験、2人の出産・育児、そして去年12月にAalto大学修士卒業しました。
そして今経験している新たな試練が【就職活動】です。
卒業してから今までの5か月弱、就職活動を現在進行形で体験してきました。そこで、非常に主観的な感想・考察ですが、学んだこと、思ったことを書いてみようと思います。

フィンランドに長期移住を考えている人や、既に移民生活をしている人達に、少しでも参考になれば嬉しいです。


EU圏外移民としての就職活動

職経験の少ない移民の、特に高学歴の移民のフィンランドでの就職状況は、経済が冷え込んでいる今、2024年は特に厳しそうです。加えて、戦争による物価上昇、移民対策の強化等が、移民の生活をさらに苦しくさせているように感じます。詳しくは、Suomikunの2024年5月11日に書かれたブログ「フィンランドの政治がやばい理由」を参考にすると、福祉への削減や労働条件の悪化等、今の政治状況を頭の中で描きやすいかと思います。ここでは主に、私の主観的な考察・感想のみを書きます。

フィンランドでの多くの職は、英語に加え、フィンランド語の流暢さも強く求められる印象があります(IT以外)。特にEU圏外の移民は、EU圏の移民に比べると、ビザの取得・言語の取得・文化の相異・ネガティブなイメージ等様々な壁があり、就活はさらに厳しい印象です。

そもそも他国に移住するということは、覚悟・決意・努力が必要だと思います。ローカルな人達と肩を並べた生活レベルを持つことは、よほど金持ちか優秀でない限り、運やかなりの努力が必要なのだと思います。これは、移民になることを選択したからには、素直に受け止めるべき現実だと考えています。

なにができるかな。

私はフィンランドが好きな一人の平凡な移民として、「現地に役に立つよそ者」の役割を謙虚に模索するのが一番良いのではないか、と今は考えています。現地に元々いた人達や、優秀で野心に満ち国境を優雅に飛び回っているような移民達と競争するのは、かなりの能力と体力を要します。小さい子供達の育児中にあり、子供が小さいうちに一緒にたくさん遊びたい私にとっては、競争の世界に身を置くのは非現実的です。あくまで、夫と子供達、友達や近所の人達と仲良く楽しく過ごし、美しい自然を愛で、美味しいごはんを食べれたら、私は十分幸せです。研究分野である都市計画・社会レジリエンスの知見を活用できる場があれば尚嬉しい。生活するためのお金を稼ぐのに、競争の激しいフィールドはなるべく避けて、ニッチな隙間を見つけてどうにかハックしてサバイバルしたい、と考えている今日この頃です。


移民向けの就活グループコーチングに参加して思ったこと

さて。無職になると、無職手当(月に600€強(地域や生活状況によって変化あり))を頂けるのに加えて、言語やスキルのトレーニングや、コーチングサービス等を無料で受けることが出来ます。(手厚い、ありがとう、フィンランド!)

育児と修士論文で手一杯だった私は、フィンランドはコネ社会にも関わらず、学業中にネットワークを作れませんでした。フィンランド語もギリギリA2レベル。専門分野は都市計画・サスティナビリティ・文化的景観。求人があってもフィンランド語のビジネスレベルは必須項目。さっそく言語の壁にぶち当たりました。さて、どうしよう。

何から始めたら良いか迷った私は、自身の立ち位置や今の置かれている状況を確認する為に、TE‐Office(ハローワークのような職業支援機関)が提供している1週間のグループコーチングに参加しました。優秀で熱気のあるEU圏外の移民10人のグループで、9時から15時まで、たっぷり5日間、互いの経験やノウハウをシェアし、就活の戦略を一緒に考えました。また、就活中は「社会に貢献してない感・必要とされてない感」があり精神的に辛い、と感じている人達が多い印象です。そこで就活が長期化する状況で、自分達のWellbeingを保つ就活の戦略・心の持ちようなどについても議論しました。

人生は旅。楽しもう。

驚いたこと:コーチング参加者達は、15年移民生活を成し遂げたサバイバー達だった。

まず最初に驚いたのは、グループコーチングの参加者達のほとんどが、フィンランドで15年近く移民生活をしてきたサバイバー達だったことです。移民向け就活コーチングといったら、職業経験の少ない人達が多いのかな、と思ったら違っていたので驚きました。

参加者の母国は、中国・台湾・インドネシアなどのアジアの国々や、ロシア、ルーマニアやバルト諸国など。ほぼ全員が学士・修士レベルの高等教育を受けていて、中には世界を跨いで学術的に貢献し量子力学の博士号を持つ人や、フィンランドで会社を20年運営していた人もいました。むしろ「どうしてこの人達無職なの?」と思うような経歴の人がほとんどでした。

移民の職業難の一つの大きな原因として、フィンランド語がB2レベルでも不十分に受け取られることが多い、と意見が一致しました。さらに、オンラインで仕事ができるインフラが整ったことで、より賃金の安い国の人達の労働サービスを買う企業が増えていることも、フィンランドにいる移民の職が減る原因のうちの一つではないか、と議論しました。

最初の2日は移民の辛い体験談・愚痴のオンパレード=感情のデトックス⇒ヒーリング&学習

努力して努力してフィンランドで生活の基盤を作ってきた彼らは、キャリアを積み上げる中で嫌な差別的な体験も大なり小なり受けてきたようでした。無職で経済的に不安定になると、精神的にも不安定になって、今まで冷静に分析して納得してきた状況に、苛立ちや恨みの感情が出てきてしまうのが人間。1日目の自己紹介の後は、愚痴や嫌な体験談の怒涛のオンパレード。2日目は皆若干すっきり顔で、愚痴も建設的な分析と対処法とセットで議論できる状態になっていました。負の感情はさっとデトックスして手放す機会を設けることの重要性を改めて感じた良い体験でした。

どのような状況で、どのような差別を受け、どのように傷つき、どのように乗り越えたか体験をシェアすることは、傷ついた心へのヒーリング効果が絶大であると同時に、自己防衛する為の良い学習になるとも感じました。弱い立場を利用しよう、搾取しようとする人はどこに行ってもいるので、冷静に身を守る判断をする為の情報や知恵の交換は大事だな、と痛感しました。

フィンランド人コーチからしたら、聞くに不愉快な内容が多かったかもしれませんが、彼はそれらを単に「悲しいが実際にある現実」として忍耐強く傾聴し、建設的な議論へ導いてくれました。彼のおかげで、移民就活者の視点と、ローカルの採用者の視点を同時に認知することに繋がり、より良いコミュニケーションの方法について議論できました。

このような機会と場は、グローバル化が進んだ今、世界中で必要とされてるのではないでしょうか。

コーチング成果:被害者意識との別れ

このグループコーチングで私が一番印象強く学んだことは、被害者意識を持つことは誰の特にもならない、ということです。「私は能力がないんだ、不十分なんだ、社会に必要とされてないんだ、、、」と無駄に自分を責めることは、自分の精神にも良くないし、私を大切にしてくれている人達にも良くないし、現状を少しも改善しない、ということを冷静に見ることが出来ました。これが腑に落ちることで、自分のことを無駄に悲観することが減り、無職という現状は変わらないものの、安定した心の状態である時が増えました。よって、家族にストレスを見せることが減り、楽しく過ごせる時間が増えました。

寒い長い冬も積極的に楽しみたい

コーチング学び①:被害者意識は誰の得にもならない

被害者意識を手放す練習・きっかけになったのは、エネルギッシュで立派な経歴を持つ優秀な参加者達が、彼ら自身を卑下している様子を見た時です。それに納得できない自分がいることに気が付きました。色んな困難がある背景も十分分かるし、彼らが落ち込んでしまう辛い気持ちにとても共感できるものの、15年も努力してきた彼らが「わたしなんて・・・」と自分自身を落とすような姿を正直見たくなかった。「そんなに自分自身を虐めないでほしい。勿体ない。たくさん可能性を秘めているのに。」と思っている自分に気が付きました。それと同時に、同じ言葉を私自身も、家族や友達、知り合いからかけて貰っていることを思い出しました。

ビジネスはあくまでビジネス。損得勘定でやりとりする場。ビジネスのパーツになるために必死になる中で、ビジネス外の関係性を忘れているのではないだろうか。むしろ、家族や友達の生活を守り、豊にする為に働きたかったんじゃなかったけ。そんなことを思い出し、改めて近くにいる大事な人達、美しい自然環境に今一度目を向けることができました。生活を共にする彼らがかけてくれる愛のある言葉を信じて、自分を虐めず前向きにリラックスして、出来ることをコツコツ挑戦していくことが、Wellbeingを保つ基本的な姿勢なのだと改めて思い出しました。

そうはいっても、被害者意識を植え付けられるようなイベントは、移民生活をしていると、多かれ少なかれやってきます。月に一回でも差別的な嫌な体験をすると、努力して気にしないでいようとしても、傷つきます。「アジア人女性は白人男性に性を売って移住して、他人の家掃除して生計立ててるよね」とか、「中国人やロシア人はスパイだ、知識やアイディアを盗みに来てるよね」とか、「フィンランドの福祉で生活している、税金泥棒だ、早く国に戻れ」とか、そんな言葉を私に直接でなくても、聞く機会がちらほらあります。

確かにそのような印象を与える人達がいるのも事実。実際に私もフィンランドの福祉に大変お世話になっています。これらはしょうがないこと。私達が出来ることは、しょうがないことにエネルギーを使わず、心無い言葉や、攻撃的な態度で接してくる人達となるべく距離を置くこと。礼儀を持つことで自分を守ること。自分を大切にしてくれる人達を大事にすること。それで、出来ることを考えて、それをやってみる、コツコツ続けていく。それでOK!あとは、お世話になっているフィンランドの自然を愛でて、ピクニック、BBQ、散歩してリラックスする。

水たまりにテンションあがる私でいたい

それでもたまに、生理前なんか特に、急に不安が襲ってくることもあります。そんな時こそちょっとゆっくりして、お茶でも飲んで、ご機嫌でいることを心がけています。私の周りにあるものに目を向ける練習をしていると、恵まれていることに気が付きます。素敵な家・美しい自然・可愛い子供達・支えてくれるパートナー・素晴らしい友達・日本語・日本の歴史・・・。

コーチング学び②:日本語話せて良かった

コーチング参加者の他の移民達から頻繁にかけられた言葉が、「あなたは日本という長い歴史、豊かな文化、発展した技術を持つ国から来ている。それは、私達が持たないアドバンテージだ!羨ましい!」ということです。彼らは、自分達の国の政治や経済がもっと不安定だったり、戦争や宗教で悪いイメージを持たれていることに比べて、日本は比較的良いイメージを持たれている、羨ましい、何故それをビジネスに繋げないんだ、と助言してくれました。

確かに、大学の先生や仲間達からも、日本の精神性や文化についてもっと知りたい、教えてくれ、と言われることがよくあります。気候変動、自然災害、経済難、あらゆる社会問題によりサスティナブルに注目が集まる今、宮崎 駿映画の効果もあるのか、日本の「自然との共生」の感覚や生活様式等に興味がある、と声をかけられます。「生きがい」など、東洋思想への興味がある人が結構いるんだなぁ、と感じます。

東洋の日本にルーツを持ち、西洋のフィンランド(アニミズム的な文化が他のヨーロッパ諸国に比べて長く残っていたであろう国)で生活していることは、確かにユニークなブレンドなのかな、と再認識した今日この頃です。


まとめ:日本人移民だから出来ること&求められてること=日本の文化・精神性の紹介かもしらん

この5か月、都市計画・建築界隈、アカデミック界隈、スマートシティ界隈の人達とちょこちょこ話つつ、移民向け就活グループコーチングに参加したりして、アドバイスされたこと、思ったこと、まとめ。

☆確かに今は就職難。今やITフルタイム職も安定職とはもはや言えなくなってきている。
☆フィンランド人の失業率も上がっている今、優秀なローカル人とさらに優秀さを要する移民達との激しい競争はなるべく避けて、隙間を探してサバイバルするのが賢明そうだ。
☆フィンランド人や他の外国人で、日本の文化や精神性、日本人の「自然との共生」の感性について興味がある人達がいる。さらに彼らは、環境問題や社会問題をなんとかしたいと考えている人達である印象。
☆日本にルーツを持ち、日本の文化を保持しながら、フィンランドの文化に馴染み10年以上生活してきた上で、私がどのようにWellbeingについての考えているのか教えて欲しい人達がいる。

私の研究分野が文化的景観・都市レジリエンスだったからなのか分かりませんが、日本のルーツを活かして欲しい、生活スタイルを教えて欲しい、という意見・アドバイスをちらほら頂きました。フィンランドの歴史、文化、生活、精神性を尊重しながら、日本のことも紹介できるようなプロジェクトって何だろう、、、と模索しようと思います。

何かアイディアがある人、コラボできる方いたら、お声をかけていただけたら嬉しいです(^^♪

文化と自然をひたすら愛でていたい


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