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読書紹介 第三冊『5分間SF』

『5分間SF』 著:草上仁

人には誰しも、無性にSFが読みたくなる瞬間が人生で3度は訪れる。

先日その1度目の機会を得たため、意気揚々と図書館へ向かった。

しかしながらここで
『なげえSFなんてメンドくて読んでられんねえなあ』という
私の怠惰が顔を出してきた。仮にも読書好きの風上にも置けぬ恥知らずである。

というわけで
たどり着いたのが、このSFのショートショートであった。

振り返りもかねて一つ一つを紹介させて頂く。
ネタバレのあるものはその旨記す。
作品のオチが気になる方は、飛ばして頂けると幸いである。


大恐竜

5分間SF!、と銘打ったショートショートの1作目。
にしては
少々力不足感が否めない。
私を不安にさせた一編。



大恐竜に引き続く2作目。
読み終えた正直な感想は、
2日連続昼ごはんに入った飯屋を外した気分である。
この1冊が心配になる。





マダム・フィグスの宇宙お料理教室(ネタバレあり)

この1冊の評価が天地大回転した3作目!
前の2つの出来が気にならないほど、奇想天外喜劇SFとして完璧といえる。

タイトルも分かりやすいのが非常によい。

ストーリーとしては
テレビ番組内でマダム・フィグスが
ナンブラーと呼ばれる不死身の生物を、あのてこのてで調理するというもの。

この生物
冷凍され、切り身にされ、揚げられ、食われても胃袋の中で生きているという。

そして番組の最後に明かされる。
「今日は『グルメな家族のためのナンブラー不死身揚げ』と、『グルメなナンブラーのための人間胃袋踊り食い』をお送りしました。
人間の皆さんもナンブラーの皆さんもまた来週」

終始物語が会話文だけで進むのも読みやすい。
加えて、本物の番組が持つ臨場感と残酷なことが起きてもつきまとう噓っぽさが
非常によく表現されている。





最後の一夜

うってかわりしっとりとした情感のある4作目。
本作品唯一の書下ろし。

夜に出会い語りつくした二人の男女
それ以来会うことはなかった二人だったが
2年後男が女から呼び出される。その結末はー

終盤2つの秘密が明かされ、読了後満足感のある一編。




カンゾウの木

つまらなくはない5作目。
ただ、3・4作目の後ではやや見劣りするように感じた。



断続殺人事件

こういのでいいんだよの6作目。
まさにSFらしい、良質な一編。

自分を食い物にした男を過去に遡って何度も何度も殺す女と
それを追う検事。

オチらしいオチがないところが残念なところか。




ひとつの小さな要素

6作目に引き続き、これまたヒットの7作目。
結婚したい男とシミュレーションの結果から別れたい女、

作中で語られるシミュレートの結果にクスリ、とできて
オチでほっこりできる良作。



トビンメの木陰

歴史ものが好きかどうかで評価が変わりそうな8作目。

『銀英伝』の宇宙連邦やゴールデンバウム王朝の
歴史がひたすら語られている部分が、非常に好きな私としては
自身を持ってオススメしたいが

歴史が嫌いであるなら、飛ばした方が無難である。



結婚裁判所(ネタバレあり)

オチは良い9作目。

前半部分の結婚裁判の事例について語る場面が
多少くどいような気もするが、全体的に高評価。

SFらしい叙述トリックが光る一編。



二つ折の恋文が

タイトルがキレイなだけの10作目。

世界観の設定は良いのだが、説明にまどろっこしさが目立つ。
特筆すべき点が見い出せず、己の感性の貧弱さを嘆かざるを得ない。




ワークシェアリング

ドタバタ喜劇の11作目。

私はこういう喜劇らしいショートショートが好きなのかもしれない。
とすれば星新一の影響は多分に含まれるであろう。

かの大作家の力に改めて感服せざるを得ない。

力を抜いて楽しめる一編。




ナイフィ

ホラーチックな12作目。

不安になり一安心させたところで、最後のオチが来る。
ミスリードが巧妙な一編。



予告殺人

異能力ものの13作目。

未来視とテレパス
これらの能力の特質を見事に組み合わせたオチには脱帽。




生煙草

推察するホラーの14作目。

愛煙家の私としてはタイトルだけで高評価を与えた一編である。
終始1人の人間の語りで話しが進むため、読みやすいのも〇。




ユビキタス(ネタバレあり)

トリにふさわしい15作目。

オチとしてはネットワーク障害によりそれまで
ネットワーク偏重だった人々が、人との関係や世界の美しさに気づく、
という簡単なものである。

しかしながら世界の書き方が美しい。
主人公の混乱ぶり、そこに手を差し伸べる老婆の描き方はどちらも秀逸。

読み終えたのち、穏やかな気持ちを伴い本を閉じられることを保証したい。



総括すると
SFショートショートとしては、ハズレらしき作品はあるものの
まずまずの楽しさと読みやすさであった。

てっとり早くSFを摂取したい時に読める
ファストフードのような1冊。

ぜひ手に取っていただけると幸いである。







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