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読んでほしい「帰りたい家があること」私が伝える子供たちの心

私は自身のホームページの「小さなSOSを見逃さない杉並をつくりたい」のページ、
「こんなことにあてはまったら」にある、虐待のサインのひとつに
「周囲に『家に帰りたくない』と話している」を挙げています。

児童相談所に勤務していた私として、子供の言動の背景にあるかもしれない虐待の可能性を、見逃して欲しくなくて、ここに取り上げました。

担任の先生やお友達に「家に帰りたくない」と話したことがきっかけで虐待が明らかになったケースは数多く。

子供たちは今も昔も変わらず、いろいろなことを思って、いろいろなことを言葉にしますが、子供たちが「〇〇がいやだ」と言った時、大人は「それがどうして嫌なのか」に向き合わなければなりません。

「部活がいやだ」と言ったなら、あえて入っている部活が楽しくないのはとても気にかかることです。

「いや、先生が怒ってばっかりで。」「いや、友達がさ、なんか僕のこといろいろ言ってくるんだよね。」などと、
体罰やいじめを感じさせる言葉を言ったら、それを聞いた方は、
学校に伝えて改善を求め、子供の身体的、心理的な安全を確保する策を取らなければなりません。

抜け出して地元のチームに入ってもいい、帰宅部になってもいい。
改善が見られないのに、「負けちゃだめ」など、そのほか精神論でずっとそこに居続けさせることだけはしてはならないのです。

そして、「勉強がいやだ」と言った場合。
「勉強がいやなのはどうして?」と聞いたとき、その答えが
「今やってるところ難しいんだもん」なら、
「放課後に残って先生に聞いてみたら。」とアドバイスすることもできるし、
「先生に聞いても、なんか教え方がわかりにくいんだもん。」となれば
(先生の教え方は改善してもらいですが、)
「じゃあ、別の先生に聞いてもいいんだよ?」と言ってもいいと思います。

しかし、問題は授業が難しいのではなく
「いや、ついていけない。家に帰っても勉強する時間ないから…。」と返ってきた時。

その場合、よく聞くと、保護者が子供に家事やきょうだいの世話をさせ、子供を残して出かけてしまっていて、ネグレクト=育児放棄の状況にあり、家に帰っても、自分の時間が確保できない、という状況にある可能性があります。
畏怖を与える言動で無理に世話をさせていることも考えられます。

昨今、ヤングケアラー(=本来、大人が担うことが想定される家事、幼いきょうだいの世話などを日常的に行っている子どものこと)がようやく着目されるようになりましたが、
憲法26条が保障するように、
*子どもには学校に行く権利があり、
*保護者は子供を学校に行かせる義務があります。

ネグレクトは児童相談所が対処する必要があり、そのほか、子供が「保護者を」介護しているなら福祉にもつなげなくてはなりません。

そして、ここまで来ると、想像して頂けると思いますが
「家に帰りたくない」
と言った場合は、出来る限り丁寧に、無理のない範囲で、子供の状況を聞いて頂きたいと思います。

学校や塾、勉強や授業、お友達や先生が
好きでも嫌いでも、
その日一日、いろいろなことがあっても、
家というのは、好きな時に昼寝をして、おやつを頬張ったり、テレビを見て笑ったりして、お母さん、お父さんが仕事から帰宅するのを待って、ごはんを食べて、きょうだいとゲームをしたりして、素直な自分が安心していることができる場所。
だから、みんな家に帰っていくのです。

そんな、心のよりどころであるはずの「家」に帰りたくない、「家」が帰りたくない場所になっているというのは、かなり重大なことなのです。

先生によっては「そう言ってないで、ほら、もう下校時刻だから。」とあっさり家に帰してしまう人もいます。とても危険です。

これまで述べてきたように、特に家に帰りたくないという発言には「え、どうしたの?」と聞かなければなりません。あなたが、友達であっても、たまたまそれを耳にした通りすがりの大人であっても

児童福祉法第25条は、
「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した場合、全ての国民に通告する義務がある」と規定しています。

「要保護児童を発見した者は、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない(抜粋)」とも書かれています。

児童福祉法

虐待ケースを見てきた私として、伝えたいこと、考えてほしいことは書ききれませんが、まず理解してほしいのは、
虐待はもちろんのことですが、それのみならず、体罰やいじめにおいても、
子どもたちが自らSOSを発信することは、
自分よりずっと力の強い「保護者」や「教員」、「他の児童・生徒」のやっていることに対して「やめて、そんなことは間違っている」と言うことなのですから、とても勇気が必要で、とても難しいということです。

その上で、発せられたSOSは大人がしっかり汲み取らなければならないし、私たちは、これまで述べてきたように、こどもたちの言動から、子どもが意図せずも発しているサインに気づく義務があるのです。

今年になって埼玉県白岡市で起きた事件でも、男の子は、学校に行かず、幼いきょうだいを世話する姿が、近隣住民に度々目撃されていました。

先に部活に関するやりとりを載せましたが、体罰については、2012年岡山県で、野球部の男の子が、教員にラウンドに1人残され、強い口調で叱責された日の夜、自殺してしまった。

本当に、本当に辛い。
抵抗する術を知らない純粋な子どもたちをこんなひどい目に合わせるなんて絶対に許せないし、多くの方もそう感じるはずです。

こどもたちの心と身体を守ること、これはひとごとではなく、社会みんなが考えるべき課題なのです。

2011年には約6万件だった虐待相談件数は、2020年には約20万件を超す事態となってしまいました。

このような社会で、これから必要なことはそもそも虐待の芽を摘んでいくことです。
「帰りたくない家」を生み出さないよう、虐待を防ぎ、そしてまた、こどもを育てる方々が、核家族化、コロナ流行の日々の中で、育児に息詰まることのないように、整備していくことが肝要です。

そして、「帰りたくない家」が「帰りたい家」になるように力を尽くしている児童相談所と共に、警察、医療機関、学校、地域。
それぞれの手をつなぎ合わせることで、子供たちの命と権利を守ること。
子供たちが安心して安全に暮らせる社会を目指していきます。

倉本みか suginami.kuramoto@gmail.com 
twitter @mika_kuramoto

児童相談所虐待ダイヤル:全国共通 189(いちはやく)24時間365日
杉並児童相談所:03-5370-6001(平日 午前9時~午後5時)
*差し迫った緊急の場合は 警視庁 110へ

杉並区子供家庭センター:
03-5929-1902(平日・土曜 祝日除く 8時半~午後7時)
杉並区高円寺子供家庭センター:
03-3315-2800(平日・土曜 祝日除く 8時半~午後5時)



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