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【きょうだい児家族エピ】脱走犯 ~冬~

こんにちわ、くらさわけいです。
知的障がい弟2人を持つ長女です。
今回は、子ども時代の弟エピソード。
冬になると必ず思い出すお話です。
※これ以降の本編は常体での語り口としております。
 ↓↓ 弟紹介はこちらをご覧ください ↓↓


脱走犯クマ吉

お話の主役は、弟のクマ吉。
正確ではないが、あれはクマ吉が小学生くらいの頃のことだった。
当時のクマ吉には脱走癖があった。
おそらく、あるあるだと思う。
ちょっと目を離した隙に、家の外に出てしまったり、施設からいなくなってしまったり。
現在地の把握などはできないので、自力で戻って来られないことは想像に難くないだろう。
クマ吉は、家の玄関のカギを開けて出て行ってしまうことが度々あった。
お着替えはできないのに、カギは開けられるのか・・・。
弟紹介でもお話した通り、クマ吉はおっとりのっそりとした動きが特徴。
だが、そんな普段の姿に騙されてはいけない。
ひとたび脱走犯の顔を覗かせると、まるで別人(別熊)のように俊敏な動きを見せるのだ。
リビングでごろ寝しているかと思いきや、唐突にシュパッ! と立ち上がって、玄関への階段を全速力で駆け降りる!!
(当時、一軒家でリビングは2階だった。)
お散歩のときには全然歩みが進まないくせに・・・
走れるんかい!
これが意外に速いので、こちらが出遅れると、玄関から外に出て数十メートルは追いつかない。
勢いのまま飛び出すので靴も履かない。(そもそも自分で履けない)
しかも皆さま、覚えておいでか。

彼は裸族なのである。

吾輩が猫であるように、クマ吉は裸なのである。
クマ吉の尊厳は守らねばならないし、ましてや失踪させるわけにもいかない。
クマ吉の動きにすぐ気づけるように、目を光らせる日々を送っていた。


そして、事件は起こる・・・

ある年の冬の晩、当時の居住地には珍しく雪がしっかりと降った。
1つ1つをはっきりと目視できるような雪が、フワフワと落ちてくる。
雪が降ること自体が非日常だったので、それだけで特別な気分になった。
それはクマ吉も同じだった様子。
キッチンの小窓を開けて、降る雪に手を伸ばしたりして興味津々だった。
翌日、雪は止んだが地面やお隣の屋根は真っ白に。
雪が積もることもまた非日常だったので、何となくソワソワした。
とはいえ、積雪に耐性のない一家なので、休日なのをいいことに家族全員引きこもっていた。
暖かい部屋で、身も心もお休みモード。。。

ダダダダダダっ・・・・!!!!

ん? 階段を下りる音・・・だと・・・?!!?!
ヤられた・・・!!
だらけた家族の隙をついて(実際にそんなことは考えていない)
クマ吉が動いたのだ。
出遅れた・・・
完全に油断していた。
でもとにかく追いかけないと。
外は雪が積もっている。
あんなに興味津々だったのだから、嬉しくて駆け回るに違いない。
積もった雪を口に入れたりするかもしれない。(アイス大好き)
できることなら外に出る前に引き留めなければ・・・
玄関への戸を開ける!
いない。
すでに出て行かれた・・・
私も早く外に出なければ!
靴は何がいいんだ?
玄関に出ている靴はいつものスニーカーしかない。
でも雪が積もっている。
しかし靴箱をあさる余裕なんてない。
1秒ごとにクマ吉との距離はひらくばかりなのだ。
ええい、このスニーカーで行ってやれ!
転んだらその時はその時だ!!
玄関ドアを開け、私も走って追いかけ・・・

ようとした瞬間、目に飛び込んできた。
白銀の世界を、慌てて駆け戻ってくるクマの姿が。
必死の形相である。
どうしたというのか。
あぁ、そうか。
皆さんはお気づきになっただろうか。
思い出してほしい、クマ吉の生態を。
もう分かりましたね。
それではご唱和ください。

彼は裸族なのである。

そう、真冬の雪積もる屋外へ裸で飛び出したのだ。
本物のクマでない限り寒いし冷たいに決まっている。(あ、本物は冬眠してるか)
脱走を成功させた喜びにのひたるのも束の間、あまりの寒さに慌てて引き返してきたのだ。
それに気づいた途端、申し訳ないが爆笑してしまった姉であった。
雪の上を駆けるクマ吉・・・シロクマかよ・・・
私は笑いながらも駆け寄り、暖かいわが家へと保護したのだった。
はたして、脱走犯クマ吉、初の自首と相成った。


変わらないもの

時を経て、現在。
いつの間にか脱走癖もなくなったクマ吉。
順調に育ち、かつての俊敏さはどこへやら、大きな体でだるそうに歩く。
体が重すぎて、脱走はおろか走ることすら億劫な様子。
必死で後を追いかけたあの頃が懐かしい。
変わらないのは、クマ体型と裸族であること。
せめてTシャツくらいは着てくれないか。

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