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#007 | 短篇映画_一年後

▼最初にこの2作品を読んでおくと、より楽しめます。


一年後、T君は作品展のために制作したSFアクション映画で生徒、企業からも高い評価を受け、学校中の注目の的となった。
次第に後輩たちが彼を慕って集まり、これまでの作品がたくさんの人の目に触れることとなった。

ある授業終わり、ロビーで友人と談笑しながら帰ろうとしている私を、血相を変えて走ってきたT君が呼び止めた。

「前に撮った『狙霊』のビデオ、もう一回見てくれへん?」

『狙霊』とは、以前に私が見せてもらったOLが主人公のホラー作品の事である。私の脳裏にあの違和感が蘇った。

事情を聞くと、作品を貸した後輩達から口々に「本物の幽霊が映っている」と言われ、確認するとそれらしいものが映っていたので、前にこれを見た私にも確認して欲しいという事だった。
私は「やっぱり」と内心思ったが、口には出さなかった。



T君に連れられて視聴覚室に行くと、早速プロジェクターでビデオを再生した。
問題のシーンになる前に、私は気になっていた事を言ってみた。

「……非常階段のガラス扉に人が立ってる」

「えっ?」とT君は驚いた。
「もしかして気づいてた?」

「うん、一年前から…」

T君は後輩に言われるまで気づかなかったそうだ。その時カメラマンと編集を兼ねていたY君にも聞いてみたがまったくわからなかったらしい。
T君がビデオを一時停止し、問題のシーンがスクリーンいっぱいに映し出された。

画面を見ながら、私はゴミ箱に見える顔や手足の事も指摘した。
T君が慌ててビデオを早送りする。ゴミ箱がアップになったところで停めた。
「ホントや…」
これは、後輩達も気づいてないらしい。びっくりしすぎてT君は少し狼狽していた。

しかし、編集の過程で随分と画質が荒れており、本編のビデオでははっきりと確認できない。そこで、Y君も交えて編集前の素材テープをもう一度見てみる事にした。

問題のシーンは3テイク撮影されていた。

まず、テイク1。
これにはガラス扉に何も映っていなかったが、ゴミ箱のアップに来た時「あっ!」と三人で声を上げた。
バラバラになった蒼白い手足や顔がゴミ箱に詰まっている。
どうしてこの部分を使ったのかと聞くと、カット割りの都合で一カット欲しかったためこの部分だけ抜き出した、とY君が説明してくれた。
いよいよ緊張して冷や汗をかきながら、T君、Y君と共に次を再生した。

テイク2。
これには何も映っていなかった。このテイクは、Y君がカメラをぶらしてしまったため、ボツにしたらしい。確かに手ぶれが酷い。

最後、テイク3。
非常階段に通じるガラス扉に注目した。
ガラスの向こう側に白い人影が映っている。

「これだ!」
と、T君が編集機で一コマずつ巻き戻していく。

だが妙な事に、一番人影を大きく捉えているコマになると、映像が勝手に次のコマに進む。T君にお願いして私も操作してみたが、やっぱり見たいコマになると勝手に動く。

操作を交代したY君が躍起になって何度も試してみたが、その箇所にくると操作不能になるので、とうとう根を上げてしまった。
諦めてビデオを編集機から取り出そうとした時、T君が手を止めた。
私達が見たかったコマで映像が停止している。


そこには、白いワンピースを着た髪の長い女性が、はっきりと映り込んでいた。
しかも、停止しているはずなのに、その女性だけが微かに揺れている。

「うわっ!」

T君、Y君は、大声を上げて仰け反った。






しかし、私は心臓が止まりそうな思いだった。
その女性に見覚えがあったのだ。






目の部分が黒く窪んだ直視しがたい顔。
かつて、パソコンルームを覗き込んできた振り子のような「それ」だった。

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