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読書記録:今西錦司『人類の祖先を探る 京大アフリカ調査隊の記録』

古人類学に興味を持ったのは、NHKのドキュメンタリー『NHKスペシャル 地球大進化 46億年・人類の旅』を中学生のときに見たからだった。それまでぼんやりとしか知らなかった地球の歴史、生命誕生からの系譜を知り、特に全球凍結などの危機を乗り越える生命のたくましさに興奮し、猿からヒトへどのように進化したのか、その謎にトキメキを覚えた。

高校生になり、読書を重ねるうちにネアンデルタール人への興味が高まっていった。私たちホモ・サピエンス・サピエンスと最後に分岐したらしい、ホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシス。彼らと私たちの違いは何だったんだろう。

大学で勉強できないだろうかとぼんやり考えているときに、遠藤秀紀先生の本に出会う。先生の当時の肩書は「京都大学霊長類研究所教授」。ほうほう、霊長類の研究は古人類学に繋がっているらしい。んでもってその研究所に入るには・・・偏差値表のいちばん上に載っている学部に入らないといけないのか。うーん、さすがにちょっと無理。諦めた。

ネアンデルタール人の研究の本場はもちろん発見されたヨーロッパで、インターネット黎明期だった当時は日本で研究している大学も見つけきれず(近い研究をしていたのが医学部で、金銭的に不可能だったと記憶している)、私は自分でこの好奇心を満たすのは断念、もっぱら誰かの研究結果を享受する立場になることを決意したのだった。

前置きが長くなったが、そういうわけで人類学系の本をよく読んでおります。

今回はその因縁(?)の京都大学のアフリカ調査隊が1960年代にタンザニアで行ったフィールドワークの記録を読んでみた。今西錦司『人類の祖先を探る  京大アフリカ調査隊の記録』(講談社現代新書)。ちなみに今西氏は京都大学霊長類研究所の設立に関わったかたらしい。

1章の古人類学についての説明は古い情報なので読み飛ばし、じっくり読んだのは3章以降の原住民の生活について。タンザニア内陸部のエヤシ湖周辺で暮らすティンディガ族の狩りや採取の生活の記録は貴重だろう。以前に読んだ石毛直道氏の書籍にも記載があったが、彼らの社会の仕組みについて掘り下げられていてよりリアルに想像できるようになった。

同じ地区で暮らす牧畜民や農耕民の暮らしも、その社会の仕組みに焦点をあてて記載があり興味深い。自分の所属する集団がいくつもあり、それぞれに機能があって社会が成り立っている。例えば家族、同世代、村、種族。そこに「政党」が新しく入っていこうとしている。

彼らが冠婚葬祭に必要とする蜂蜜酒の材料の蜂蜜はティンディガ族から購入するといった関わり合いもあり、なるほど、狩猟採集民に通貨制度はこのように入っていくものかと思った。ティンディガ族は蜂蜜で儲けたお金で布を買う。マサイ族を思い浮かべたときに身に纏っているイメージの、あの布を巻いた服。流行りの色は黒、とあったが、その流行りも移ろっているのだろうか。

さて、この本からどういう方向で考えを巡らせようか。ひとつ気になるのはエヤシ湖周辺で暮らす彼ら(狩猟採集民、牧畜民、農耕民すべて)にとって、幸福とはどのようなものであったのだろうかということ。

生活するのに十分な知識があり、相互扶助的仕組みもそこそこあり、自分の役割がある。彼らの社会をどこかと比較して劣っていると断じることはできないだろう。マサイ族の襲撃や天候不順などの避けられない不幸はある。何か不足しているとすれば医療だろうか。長命がすなわち幸福という価値観を彼らが持っているならば。

おそらくこの60年で資本主義による均質化は彼らに届いているだろう。それは彼らに幸福をもたらしただろうか。

先日みたTBSのクレイジージャーニーという番組でアンゴラのムイラ族を訪ねていた。女性の服装が伝統衣装のままで驚いたが、なるほど衣服の機能性よりも、集団の美的感覚に合致する装飾の魅力が上回るのだろうかと考えた。村長はGジャンに半ズボンというような出で立ちだったから、男性の「良さ」は衣服では表現されないということだろうか。

単純に便利とか清潔とかいう理由だけで自分たちの生活を変えることはなく、彼らには彼らの価値観があり、感じ方がある。日本人も外来のものをすぐに取り入れるようでいて、流行らないものもあるし、自己流にアレンジしたものだけが残ることもあるし。

現代の彼らは自分たちの何を変え、何を変えなかったのだろうか。幸福の価値観も変容しただろうか。そういったアプローチで本やドキュメンタリーを探してみたくなった。



(以下、雑記)

さて、プロ野球が開幕します。WBCが予想以上に盛り上がり、メディアの白熱ぶりに若干食傷気味ではありますが、何はともあれ野球人気の高まりは歓迎です。センバツ高校野球も残るは3試合。メジャーも開幕するので、今週末の我が家は野球一色となりそうです。

先週末、野暮用で東京に行きましたが、人の多さに辟易しました。そういや東京ってこんな感じだった。120分待ちを覚悟して行った人気の回転寿司は120組待ちでした。組て。何時間かかるのん。やっと社会が動き出したようで嬉しいのですが、自分自身は人の少ないことにすっかり慣れてしまっていて思い通り動けず。。。

野球も声出し応援が解禁になり、はやく見に行きたいとうずうずしていますが、以前のように恥ずかしげもなく歌えるかしらと不安もあり。脳みそを以前の感覚に少しずつ戻していきたいなぁと思っています。

今回も読んでいただきありがとうございました!

旅行はいつも雨模様
先週土日にお花見予定だったかたがた、ごめんなさい

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