さくらちゃんにはなれないんだよ
さくらちゃんはきっと、モノを探すときも、いちいち文章の最後に「おしゃれ」なんてキーワードは入れないんだろうなと手が止まった日があった。
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存在がおしゃれだから、きっと髪型も服も持ち物も全部自分の感覚に頼ればいいんだろうななんて色の暗い気持ちを持った。
さくらちゃんそのものになりたかった。
さくらちゃんと入れ替われるなら私はいくらまでお金を出すか夜な夜な本気で考えていた。
さくらちゃんと初めて会ったとき、名前が同じさくらが入るさくらももこ先生を愛読していますなんて自己紹介をしていて心が射抜かれてしまった。
大学時代は、最寄駅からラジオを聴いて通学し、
フィルムカメラの現像を待つ時間に喫茶店で食べるフルーツポンチが好きなんて好きになるには充分すぎるほどの魅力だった。
さくらちゃんは、目に見える日常を写真に収めるのが好きで、
私は存在しないものの絵を描くことが好きだった。
私は、80年代の歌ばかりを聴いたりレコード屋さんに通っていたけど、さくらちゃんは最新のバンド音楽が好きだった。さくらちゃんが聴く音楽は何一つ聴いたことがなかったし、カネコアヤノにどっぷり浸かるほど私はできた人間ではなかった。
私はモノがない生活をしていて、何か壊れたらすぐに捨ててしまう性格だけど、さくらちゃんは、リコールが発表されたモノをきちんと返しに行くような人だった。
ご飯を食べるのが面倒という私に、「おいしいよこれ」と半分こにしたドーナツをくれるような温かい人だったし、炭酸飲料は飲めないんだというところまで可愛かった。
どこまでいっても交れた感覚がないまま大人になって数年ぶりに会ったときも、さくらちゃんはさくらちゃんそのものだった。
さくらちゃんの日常を味わいたいとリクエストし、日頃の散歩コースに連れて行ってくれるということだった。
お気に入りの木があるからそれでも見に行く?と言われたときにもうこの人には何も敵わないなと思ったけど、さくらちゃんはこの世のあらゆる勝ち負けなんて興味もなさそうだった。
何にも欲が無さそうなのに、私には全てを手に入れているように見えた。
さくらちゃんは、会話の節々に「ちさきちゃんはほんと優しいね」と言ったけど、
それだけは言われたくない言葉の一つだった。
さくらちゃんとの一番の違いを考えたときにたどり着いた答えは、
「なんとか偽って優しくなろうと頑張っている私と、何にも気張らなくてもそのものが優しい人の違い」だと気がついてしまったから。
そんな話は今回は全部しないでおくけど、
どうかもう私の目の前でさくらちゃんを忘れられない話を私にするのは止めてほしい。
酔っ払っているからあなたは覚えてないかもしれないけど、もうそのいま持っているフィルムカメラの話は聞き飽きた。
今のあなたの成分は全て彼女なんだろうからやめて欲しい。
そしてそのカメラで私を撮るのも本当はやめてほしい。
私たちはどうせそれでも彼女を嫌いになれないのだから。
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