9年と、そしてあの日との別れ
大学時代からこの秋まで長く住んだ街を引っ越すことにした。
この街には思い出が多すぎるような気がした。
あの大きな海を見ても、道端の自販機を見ても、秋色に色づいた小さな葉っぱを見ても、誰かといたであろうあの日に引き戻されるのがもう煩わしたかった。
特に秋は、感情を壊してくるからもう憎らしい。
憎らしくて愛らしい。
街中で偶然出会したい彼の姿を探すのも、もうあの人がいるはずもない喫茶店で時間だけをやり過ごすのもやめたかった。似た後ろ姿を見つけて反対側の電車に飛び乗ったのももう十分だった。
あの日を時間を超えて楽しむにはもう遅すぎたような気がした。
少し先に輝く観覧車は、田舎者の私には眩しくて、でもきちんと照らしてくれていた。
よく風が入るこの街が好きだった。
坂道だらけなのは嫌だった。
大学時代に通い詰めたレンタルショップは無くなって、延滞料金いくら払ったと思ってるんだよって自分のせいなのに舌打ちしたい気持ちだった。
大学時代をきちんと楽しめたか不安になって、この街に止まることを毎回選んできたけど、大人になってからの方が楽しかった。そんなことに気がついて離れることを決めてから2週間後には引っ越していた。
あの人が触れたであろうものは全て捨てて、当時の写真もぽっかりと捨てて、当時の日記も捨てて、自分はどこに向かってるかわからないままさまよった街並みも今では少し色を取り戻し始めた。
断捨離 断捨離、忘れる方法、思い出 消す方法
ミニマリスト、そんなワード検索をいっぱいしていたらついには自分まで空っぽになってしまった気がした。
ありとあらゆるものを捨てたはずなのに、自分だけは残ってしまった。
もう一度会えるより、もう二度と会えない方が思い出してもらえそうなんてそんなわずかな光ももうどうでもよかった。
どこにも気配がないあの街に引っ越す
商店街がある街というところだけは譲れなくて不動産屋さんが探してきてくれた6枚の物件の紙をごちゃ混ぜにして引いた1枚のところに決めた。断捨離のおかげか私の全部は6箱の段ボールに収まった。
自分が望めばどこにでも行ける。
もう山崎まさよしのあの曲も聴かない。
あの時の私もこの街に置いて行こうと思う。
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