ライゼン通りのお針子さん~新米店長奮闘記~10
第四章 踊り子さんからの招待状
アイリスが店長になってから初めての夏が訪れた。そしてこの日仕立て屋に新たな客がやってくる。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ、仕立て屋アイリスへようこそ」
たどたどしい片言の言葉であいさつした客は顔立ちも体格も整ったほっそりとした女性だった。
お客が来店したことを知らせる鈴の音で店頭へと出てきたアイリスは美人な女性にしばし見ほれる。
(うわ~べっぴんさん。こんな綺麗な人がうちの店に来てくれるなんて……でも言葉がおかしい。もしかして他国から来た人なのかしら)
「あなたの評判を聞いて私あなたに服を作ってもらいたくてきましタ」
美女に見とれているとお客がそう言って頼んできた。
「は、はい。どのようなお洋服を作れば宜しいでしょうか」
「私は旅の踊り子です。今回光栄にもこの国で開催される国王生誕祭のお祭りデ踊りを披露することとなりましタ。でも私が持っている衣装では私が表現したい踊りに合いません。そこであなたの評判を聞いてあなたに衣装を作ってもらいたいと思いましタ。この国の人達を楽しませ喜ばせる事の出来る衣装を作って欲しいでス」
お客の言葉に我に返った彼女が尋ねると女性はそう説明する。
「どんな踊りですか?それが分からない事にはイメージが……」
「では、実際に踊ってみますネ。そうすればいいアイデアが思いつくかもしれません」
困った顔でアイリスが言うとお客がそう言って踊り始めた。その踊りは見る者を魅了し釘付けにするほど素敵で喜怒哀楽と言った感情表現に心が動かされるほどの素晴らしい舞に彼女はそれに見入っていた。
「どうですか?何かいいアイデアは浮かびましたカ」
「は……はい。お客様の踊りを見てイメージができました」
女性の言葉で我に返ったアイリスは慌てて返事をする。
「今日の夜の国王生誕祭のお祭りに間に合うように衣装を作ってください。夕方には取りに来まス」
「分かりました」
お客の言葉に彼女が返事をしたのを確認すると女性は店から出ていった。
「アイリス。お客様がいらしてたみたいだったけど、ちゃんと一人で接客できたようだね」
「あ、イクトさん。お帰りなさい」
「ただいま」
外に出ていたイクトが戻って来るとアイリスは笑顔で出迎える。
「それで、ジャスティンさんのご用事って何だったんですか」
「うん。今日は国王生誕祭の日だから、国王様のパティーの衣装をうちの店で仕立ててくれないかとの相談だったよ」
「すごいじゃないですか。国王様の服を仕立てるなんて」
彼女の言葉に彼が答えるとアイリスは瞳を輝かせて喜ぶ。
「ははっ、そうだね。だがこの依頼の品を作るのは俺じゃなくてアイリス君だよ」
「へっ?わ、私ですか」
しかし次にイクトから聞かされた言葉に彼女は驚く。
「うん。隊長は君の腕を見込んで今回うちに依頼したいと言ってきたんだ」
「私が国王様の衣装を作るなんて……でもどうしよう。さっきお客さんから衣装を作ってくれって依頼されたばかりなんです。夕方までに二人の衣装を作れるかしら」
彼から話しを聞いたアイリスは困ったといった感じで考え込む。
「大丈夫、俺も手伝うから。二人で協力すれば半日で完成させることだってできるさ」
「はい。頑張ります」
イクトが手伝ってくれるならきっと大丈夫だと思った彼女は小さく頷き作業部屋へと向かう。
「前回の依頼を達成できたことで少し自信がついたみたいだね。……本当はもう俺が手伝わなくても大丈夫なんだろうけど、アイリスはまだ気付いていないみたいだな」
作業部屋へと入っていった彼女を見詰めながら彼がそっと独り言を零す。
「……そろそろ。頃合いかもしれないな」
真面目な顔で考えをまとめるとアイリスの待つ作業部屋へと向かった。