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レビュー「米津玄師/毎日」


今回は、先日発表された新曲「毎日」のMVを見た感想などを書こうと思う。
(このレビューは、あくまでも個人の感想&妄想です。)

この曲も「LADY」と同じくコカ・コーラ社の「ジョージア」の書き下ろし曲。
インタビュー動画も見たところ、「CMのコンセプトは変わらず曲を作る」という生みの苦しみの末に生まれたようだ。
「LADY」は空想世界が出てくるのに対し、「毎日」は現実世界を誇張と皮肉で脚色し、アメコミのようなポップ仕立てに作られているという印象。


暗い部屋の中で、象徴的な振り子のようなオブジェ(「ニュートンのゆりかご」というらしい)がせわしなく揺れている。
日付は3月10日(米津さんの誕生日)から目まぐるしく日付が変わっていく。
電車の音が遠くに聞こえる。
低音のピアノ音が黒い影を伸ばすように鳴り響く。

毎日 毎日 毎日 毎日 僕は僕なりに頑張ってきたのに
毎日 毎日 毎日 毎日 何一つも変わらないものを
まだ愛せるだろうか

雷鳴のような響き。この世の終わりかと思うくらい不吉で不穏なスタートだ。
「毎日毎日毎日毎日」と、幻聴のような奇妙な声が反響しとぐろを巻いている。
ソファにもたれて座っている男性(=米津さん)。
付けているネックレスは、金属のような硬質な素材でできている。心理的拘束や呪縛を意味するのだろうか。
カラータイツ姿のダンサーの出現とともに、朝日と軽快な音楽で一変し明るくなる。手を引っ張られ車に乗り込む。

今日も雨模様 一人錆びたチャリで転んだ街道
目もくれずに早足で過ぎるアナーキスト
ガンくれた猫 いつもあちらこちらで愛の強要
シケた飯はいらないの 驕るリアリスト

スクリーンに映るのはアメリカの郊外の街。
運転しているが、クラッシュしたのか運転不能になる。
雨に降られ、チャリで転ぶ、街行く人は冷たい、高慢な人にも出会う、猫もガンくれている。

鼻じろむ月曜 はみ出す火曜 熱出す水曜 絡まる木曜
あとの金土日言うまでもないほどに 以下同文

月曜から踏んだり蹴ったりの大変な毎日だ。
「以下同文」は賞状を読み上げる校長先生の専売特許のように感じていたが、ここで再会するとは思わなかった(笑)。ワードセンスがここでも光る。
病院では、医者に扮するダンサーが男性を薬漬けにしようとする。

あなただけ消えないでダーリン
爆ぜるまで抱き合ってクレイジー
この日々を踊りきるにはただ一人じゃあまりに永いのに
逃げるだけ逃げ出してレイニー
捨てるだけ捨てようぜアイシー
光るだけが全てならばこの世界はあまりに暗いのに

次は映画館。
赤青の3dメガネをかけて鑑賞しようと思ったらポップコーンがこぼれて散々。

ぢっと手を見る あなや記憶よりも燻んだ様相
ちっとばかしおかしいと笑うセラピスト
意味がない?くだらない?それはもうダサい?
無駄でしかたない?グダグダグダグダグダ
わかってんだクソボケナス これが僕の毎日

「ぢっと手を見る」…生活苦を歌った石川啄木からの拝借だろう。
セラピストは嘲笑してくる。
いろんな人の目だけが映るモニターがたくさん配置されている。
みんな、男性に言いたい放題言ってくるのだろう。
「クソボケナス」と暴言を吐きながら投げたリンゴ。100倍になって返り討ちに遭う。

あなただけ側にいてレイディー
焦げるまで組み合ってグルービー
日々共に生き尽くすにはまた永遠も半ばを過ぎるのに
駆けるだけ駆け出してブリージング
少しだけ祈ろうぜベイビー
転がるほどに願うなら七色の魔法も使えるのに

7人のダンサーがフラミンゴを真似たような踊りをする。
七色の魔法…ダンサー衆のことだろうか。
虹のような美しい光景を出してくれる魔法かもしれない。
「祈ろう」、「願う」…色々やってみて、それでもうまく行かないときの最後の願掛けなのだろうか。

毎日 毎日 毎日 毎日 僕は僕なりに頑張ってきたのに
毎日 毎日 毎日 毎日 何一つも変わらないものを
頑張ったとしても変わらないものを
この日々を
まだ愛せるだろうか

再び、男性は部屋に戻ってくる。
「毎日」と行き場のない怒りを何度も叫ぶ。
叫ぶたびに天候が変わる。感情の動きが激しい毎日。

冒頭の「毎日〜」部分とは異なり、最初の残酷なピアノ音や圧迫感のある効果音が一部無くなっていて、深刻さはマイルドになっている。ニュートンのゆりかごは止まっている。
「何一つ変わらない」と言っているが、そう見える日でもやはり何かしらの変化、希望はある(と信じたい)ということなのだろう。

最後の「この日々をまだ愛せるだろうか」のところで、それまでの音楽が無くなり静寂になる。
「愛せるだろうか」は声が2重になる。もう一人の自分の存在を意識しているのだろうか。

歌い終わったあと、紙皿にクリームが乗ったパイを投げつけられ、顔面クリームまみれになる。
ドリフみたいなオチだ(笑)。


毎日、嫌なこと続きでも、それでも明日はやってくる。
曲は”何一つも変わらないものを、頑張ったとしても変わらないものを、この日々を、まだ愛せるだろうか?”
と疑問形で終わっている。
少し期待していた自分がいたのだが、安直なハッピーエンドはこの歌詞にはなかった。
聞く人によって曲のイメージも受取り方も様々だと思うが、この曲は私にとっては、
「そんな変わらない日々を愛せる努力はできているだろうか。自分を笑ったり大切にしているだろうか」
と、内省と慰めを促すようなものだと思った。
辛い状況の時でも、せめて自分だけは自分のことを理解し励ましてあげたいものだ。

あと、意外だったのは、パイを被弾するシーン。
撮影で何回パイを投げつけられたのだろうか(笑)。
投げつける人もなかなかの勇気がいるだろう。
クールでかっこいい米津さんも良いけれど、こういうお茶目な役を演じる米津さんもまた魅力的で親近感が湧く。
これ以上ファンを増やして、どうするのだろう(笑)。


あとがき

新入社員だった頃、満員電車に慣れず出社だけでも心労になっていたときがあった。毎日、押し合いへし合いで「ムンクの「叫び」」に描かれた人のような歪んだ顔になりながらすし詰め電車に乗るのだ。
満員電車の状況は変えられないし乗る時間も変えられないので、考え方を変えるしかない。そう思い、苦し紛れに編み出したのがこれらの作戦だ。

1.「映画の主人公」作戦
「自分は映画かドラマの主人公だ、大女優だ」と思い込む作戦。
「今、”ひたむきな主人公(私)が満員電車に乗って頑張っている場面”を撮影している。”平成版おしん”だ。」と自分に暗示をかける。

2.「ギネス記録」作戦
「ギネス新記録」に挑戦している、と思い込む作戦。
「これから、一つの車両に乗れる人数のギネス新記録への挑戦をする。私もその参加者の一人だ。だからみんな同志であり、仲間だ。」と自分に暗示をかける。

これを当時の同僚や上司に話したところ、鼻で笑われたけど。


そういえば、こんなこともあった。
ルンルン気分で買ったばかりのブーツを履いて出社したら、開口一番、ニヤニヤした上司から出てきた言葉。
「ブッチャー登場かと思ったよ」
「おんどりゃー!だったらここを血の海にしてやろうかぁぁ!!」、とは口が裂けても言えなかった。

…そんな芳ばしい香りが漂う「毎日」だった(笑)。



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