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初任給42万円で変わる?日本の給与事情

増えてきた初任給の一律を廃止する企業

サイバーエージェントが新卒入社の初任給を引き上げると発表した。同社は全社員に一定の残業時間を含んだ年俸制を適用しており、営業などのビジネス職やCG(コンピューターグラフィックス)制作などのクリエーター職の初任給を一律で月額8万円(23.5%)引き上げ42万円となる。
ニュースで、新卒採用でも高額の給与を支払うことを報じることは珍しいものではなくなってきた。しかし、サイバーエージェントの今回のニュースは他の高額初任給の話とは趣が異なっている。
サイバーエージェントの事例では、下限を引き上げ、職種にかかわらず厚待遇を提示する。そして、既存の従業員も初任給の引き上げに応じて給与水準が上がる。もっとも、ベースアップではないので引き上げ幅は等級の範囲内で異なってくる。つまり、初任給の引き上げから従業員全体の賃上げの話となっている。

30年間以上変わらなかった日本企業の給与水準は上がるのか?

長らく、日本経済の悩みの種であったのは給与水準が上がらないことだった。G20をはじめとした諸外国の給与水準が右肩上がりで上昇し、とうとう日本の平均給与は韓国にまで追い抜かれてしまった。大企業の部長職に絞ると、日本企業の給与水準はタイ以下だ。
そのような状況で、サイバーエージェントの大幅な給与水準の引き上げはインパクトが大きい。特に、国際情勢の不安定さから物価上昇とそこからくる世界的な不況が予想されるなかで、いち早く従業員の生活を安定させようと動き、他の企業が追従しやすいように前例を作ったという社会的な意義もある。
この流れから「わが社も給与水準を引き上げよう」となれば好ましいのだが、そこまで楽天的に考えることは難しい面もある。経営者の目線から見ると、「サイバーエージェントだからできた」という企業も多いだろう。そうというのも、そもそも賃金が上がらないのは、経営者が人件費を不当に低く抑えたいのではなく、賃金を上げるための原資がないという背に腹を変えられない事情があるためだ。「日本企業が内部留保をため過ぎだ」という声をよくマスコミで耳目にするが、これもそもそも内部留保という勘定科目は存在せず、会計用語ですらない。それどころか、各種調査で出ているように日本の労働生産性は世界最低レベルであり、生産性が低いのに高い給与を払うことは難しい。
典型的な例は、「多重下請け構造」と呼ばれる受注会社が発注会社から受託した業務の一部を、下請けの会社へ委託する構造だ。安定的に仕事を得ることができて営業費用を抑えることができるメリットがあるものの、多くの下請け企業が発注企業の支払う金額を分け合う形式のために利益率が悪くなる。この構造で仕事をしている限り、労働生産性を高めることは難しく、ビジネスモデルの限界だ。

企業間の給与格差が広がる?

一方で、サイバーエージェントの様に給与を引き上げようという企業の存在があることは無視できない。業績が好調で、利益がでている企業はサイバーエージェントと同じように給与を引き上げようという動きが出てきてもおかしくない。特に、サイバーエージェントが引き上げを行うに至った直接的な原因として、日経の記事内でもあげているように、人材獲得の文脈で賃金があがるということは競合する企業も同水準に引き上げないと人材獲得ができなくなる。
人材獲得の流れから賃金の引き上げ競争が始まることは、世界的に見れば珍しいことではない。米国の労働市場でも同じような経緯で、主にハイテク企業を中心として、給与水準の引き上げと福利厚生の充実が進展した。これは欧州も同じであるし、中国は欧米と比べると一層顕著だ。
これらの世界の動向から未来を予測すると、どの国も急速に格差が広まった。米国では国内のギャップが一層激しくなり、複数の都市で暴動、放火と略奪が何度も起きている。特に、都市部と地方の格差は同じ国とは思えないほど広がっている。フランスでも、格差による暴動が拡がっている。フランスの場合は、貧困層が大都市の郊外に集中して、治安を悪化させている。つまり、一部の稼ぐことができた企業や業界の周辺だけが高所得を享受して、そこからあふれた大勢の人々が貧困にあえぐ事態になった。
結局、給与水準を上げるためには稼ぐしかない。現状は、うまく好業績を出すことができている企業同士が人材獲得のために競争を本格化させ始めた段階だ。しかし、だからといって日本国内の経済状況が好転し、どの企業も給与水準を引き上げられるわけではない。多くの企業にとっては、このタイミングを契機として給与水準を引き上げられるように、ビジネスモデルの転換や労働生産性の向上に取り組むべきターニングポイントが来たと言えるだろう。


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