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『父の残像』を掲載し終えて...

冒頭で書いたように、この物語は10年以上前に書いたもの。
その後何回か手を入れ、今回もnoteへの連載の為に多くの手を加えてある。

私の家族には息子が1人いる。今はもう成人している。
息子が成長していく姿を見ていると、自分の少年時代のことを否応無しに思い出させられる。同じDNAを持っている同性だからなのだろうか、自分が子供の頃に葛藤したプロセスを目の前で再生されているような気分に陥る事がよくあるのだ。

そんな時よく感じるのが、子供の自分ともう一度会ってみたいという衝動である。
子供に戻るのではない。会うのだから、今のこの自分のアイデンティティーで子供の自分と対峙し、意見を交わしてみたいということである。今自分が直面している仕事や創作、家族や人生への悩みについて少年時代の自分ならどう思うのか一度聞いてみたい気がするのだ。

この物語はそういった私の衝動によって生まれた。
『私』が私に回帰したら何が起こるのだろうか…という発想先行の構築作業から始まった。

とかくものぐさな私が書くものは自分の人生をモデルにしていることが多い。
50才の主人公や子供の頃の主人公の家族構成は実際の私の環境とほぼリンケージさせている。父親と息子の関係や母親と息子の確執についても体験の中にある情感を膨らませたものだ。
実際の私の父親は85才の長寿を全うしたが、少年時代、日本の高度成長期を象徴するような勢いに満ちた企業戦士の父の背中がどれほど逞しく見えたか、今でも鮮烈にその印象は残っている。

父親と息子との関係とはどうあるべきなのだろうと時々考えてしまう。彼の価値観に深く立ち入るべきなのか尊重すべきなのか、教えるべきなのか自分で学ぶのを見守るべきなのか、慰めるべきなのか励ますべきなのか、叱るべきなのか笑い飛ばすべきなのか…いちいち悩んでしまう。
それは、私の少年時代の父に対する想いによるもののような気がする。

物語の中で描いた父親像はまさに私が少年時代に父親に対して持っていた印象である。もちろん晩年年老いて認知症も発症し、病床で我々の介護を受けていた父は、思っていたよりもずっと気弱で我が侭だったが、私の少年時代に培われた父への印象は深く心に刻みつけられている。その印象を自分の息子にも持って貰いたいと無意識に願う気持がどこかにあるような気がするのである。
私は息子にとって、私の父親と同じように、人間として、男として、尊敬でき、頼りになる人物に写っているのかどうかをどうしても意識せずにはいられないようなのだ。

私のように風来坊な人生を送っている者にとっては、自分の息子に同じような人生を歩んでもらいたいとは露ほども思わないが、それなりに認めて貰い、多少なりとも尊重して貰える父親像でありたいのだ。母性愛とは異なり、そういう狡さが父親にはある。

今になって思い返せば、多分私の父親にもそういった気持があったのだろう。どこか正直な気持ちでぶつかり合えない父親と息子の奇妙で微妙な関係…その緊張感が快く感じるのは、男性特有の感性なのかも知れない。
女性側から見れば格好付けとやせ我慢にしか見えないのかも知れないが、父親と息子の間の愛情のあり方にはどこか滑稽でありながらも、その分深く切ない絆が見え隠れするのだ。

主人公である私と父、『私』と息子、そして『私』と私…
そこにある男性同士の愛情のあり方がこの物語に記したかったことである。

幾つかのプライベートな想いも装飾に使用している。
親の介護のことや、家族同士の確執…

家政婦の『しずさん』は私が小さい頃、実際に我が家にいた人物をモデルにしている。大らかで肝が太く、大きな愛情で私たち家族を包み込んでくれた。物語中に登場する庶民的で伝統的な味覚も当時の記憶にあるものばかりだ。

ヤスオと真弓は何人かの子供時代の友人を統合させて創り上げたキャラクターである。
特に友人を含め私の周囲にも同級生同士で結婚した夫婦が何組かいるが、どの夫婦も持久力があり、そして一様に強妻夫婦だ。こういった夫婦に出会うといつも、この2人の出会いの当時はどんなだったのだろうとついつい想いを巡らせてしまう。
ヤスオと真弓はその想像の子供たちである。

また私にとって父親を象徴するのがジャズソングである。
大正生まれの父は戦前、欧米文化が席巻した昭和初期の時代に青春を謳歌している。
ジャズや絵画やスポーツに造詣が深く、私たち兄弟にも子供の頃から、様々な人生の楽しみ方を享受してくれた。
父が生涯愛したスタンダード曲は戦前・戦後を通して幾つかあったが、物語中に父の好きな曲を選曲するにあたっては、相当悩んだ。
今回は1940年代の名曲『We’ll be togaether again』を選んでいる。
歌詞の内容がストーリーにぴったりと同調するからだ…

[ We’ll be togaether again ] 歌詞・訳詞

No tears, no fears
Remember there's always tomorrow
So what if we have to part
We'll be together again
Your kiss, your smile
Are mem'ries I'll treasure forever
So try thinking with your heart
We'll be together again
Now, there'll be times when I know you'll be lonesome
Times when I know you'll be sad
Don't let temptation surround you
Don't let the blues make you bad
Someday, someway
We both have a lifetime before us
For parting is not good-bye
We'll be together again

泣かないで、怖がらないで
明日は必ずやってくる
離別れても、またきっと逢える

あなたのキスや微笑みは
いつまでも私の宝物
だから感じて欲しい
またきっと逢える

寂しい時も悲しい時もきっとあるでしょう
でも、ブルーな気分に流されないで

いつか、きっと、
私たちにはこれからがある
別離はさよならじゃない
きっと、また逢える...

[ 次の長編小説はイラストレターのカワツナツコさんとのコラボレーションを予定しております。準備のため暫くお時間を頂き、連載のペースもこれまでの連載よりもスローペースとなると思います。どうぞ暫くの間、お待ちください ]

『父の残像』を第1話から読む...





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