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アトランダム私小説

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鳴海邦彦が思いついた時、衝動的に書き記す私小説。不定期で掲載します。
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2021年5月の記事一覧

アトランダム小説「椿ライン伝説1981(仮)」

アトランダム小説「椿ライン伝説1981(仮)」

 "椿ライン"は"神奈川県道75号湯河原箱根仙石原線"、奥湯河原温泉郷の入り口から大観山山頂を経て芦ノ湖湖畔の箱根関所南交差点に至る約18.5kmの一部区間の愛称である。

 奥湯河原から大観山付近の標高1,015メートルの最高地点までの区間は標高差約750メートル。そのほとんどが中・高速コーナーから超低速ヘアピンコーナー、コーナリングの途中でRが変化する変則複合コーナーなど、様々なコーナーで構成

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アトランダム小説「椿ライン伝説1981(仮)」

アトランダム小説「椿ライン伝説1981(仮)」

 サイドバイサイドの攻防戦。どちらも引かない。ともに4速全開。

 12A 6800回転、G180WE 6500回転。

 ロングストレートエンドに待ち構える30Rの右タイトへピンコーナー。
橘は僅かに残ったスロットルペダルの踏み代を一気に床まで踏み込んだ。

 G180WEの咆哮は悲鳴へと変わり、タコメーターの針はレッドゾーンの7500回転まで跳ね上がった。

 サイドバイサイドの拮抗が破られ、

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アトランダム私小説「椿ライン伝説1981(仮)」

アトランダム私小説「椿ライン伝説1981(仮)」

 ロングストレートエンドから続く30Rのタイトヘアピンコーナーに備え、先行するSA22Cが僅かに左に寄った。

 橘はその瞬間を見逃さなかった。

 PF60ZZ-Rのステアリングを僅かに右に切るとスロットルペダルを踏み込んでSA22Cのスリップストリームから離脱、そのまま一気に対向車線に躍り出た。

 2台のマシンは共に4速全開、サイドバイサイドの状態を保ちながら、ストレートエンドでばっくりと口

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アトランダム私小説「椿ライン伝説1981(仮)」

アトランダム私小説「椿ライン伝説1981(仮)」

 椿ラインは、大観山頂上近くになるとやや長目のストレートが幾つか点在する。

 その一つ、逆バンクのパラボラコーナーを過ぎ、短いストレートの次に来る右90Rを立ち上がった直後から始まる緩くベンドしたロングストレート。
テクニカルコーナーでしのぎを削ったバトルは、ここからパワーバトルへと様相を変える。

 12A VS G180WE、グロス130PS(推定実馬力≒115PS)同士のストレート対バン勝

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アトランダム私小説「椿ライン伝説1981(仮)」

アトランダム私小説「椿ライン伝説1981(仮)」

 SA22Cのテールが見えた。

 回転数は2速の上限である6250回転に達していた。

 3速にシフトアップすればSA22Cのケツに食らいつくことができる。しかし、その途端40Rのキツイ登り左コーナーとなるため失速する。

 一か八か橘はタフなG180WE型エンジンを信じ2速をキープしたままさらにアクセルを踏み込んだ。

 タコメーターの針はイエローゾーンの6500回転に達し、SA22Cのテール

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アトランダム私小説「椿ライン伝説1981(仮)」

アトランダム私小説「椿ライン伝説1981(仮)」

 Rが変則的で直線区間が短い椿ラインを最速で駆け抜けるには、時としてコーナリングのセオリーである"スローイン•ファーストアウト"を無視し、往年の名F1ドライバー ファン•ヌマエル•ファッジオが提唱した"ファースト•イン•ファーストアウト"の実践を余儀なくされる。

 その際にはRやカント、さらにはサーフェスも含め、椿ラインのすべてのコーナーを熟知しているという絶対必要条件を満たしているのが前提であ

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