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 腰が曲がり頭にウィッグをつけた82歳の祖母は、母と片道1時間の電車に乗り銀座まで買い物にいく。唯一存命の父方の祖母と僕は似ていると両親に言われる。祖母と僕はお気に入りの喫茶店や、誰々は服のセンスがないという見方で一致する。さらに孫は婆さんに甘えて言いという僕のイメージがあり、祖母は老いたら皆にチヤホヤされなくちゃ、というイメージがある。自分に都合がよく自分が一番可愛いことでも一致する。

 母から聞いた話だ。

母は平日の朝、近所にある祖母の家に様子を見に行く。
 祖母が「のどに食べ物が引っ掛かるのよ」と母に訴えた朝があった。祖母が心配性であることを知っているから「あらそうなの。痛いの?」と聞いて、「心配ならお医者さんに診てもらったら?」と掛かりつけの医者をすすめた。

翌朝、母が祖母の家に行くと、
「昨日言ってきたのよ」
「でもなんでもないというのよね」
母は「そりゃあそうよね」と思いながら「じゃあ心配ないんじゃないの?」するとと祖母は
「でも専門のお医者さんもいると思うのよね。専門外だからわからないこと
もあると思うのよ」

僕は去年12月、5日間便がでなくなって6日目の朝にものすごい腹痛に襲われた。あまりの痛さに居間で横になって「これは病気なんじゃないか」と思った。

「いや病気だ。盲腸だ。胃潰瘍だ。ガ、ガンだ。」

「救急車を呼んでくれ。」と母に言った。「そんなことで呼べる訳ないでしょ。急な差し込みよ。」便が出ないときの腹痛を「急な差し込み」と呼んでいた。その後10分くらい横になっていたら、便意をもよおしてトイレで多量の便をした。痛みも消えた。

「だから急な差し込みといったじゃない。似なくてもいいところはそっくりなのよ」母は勝ち誇ったかのように言った。

「一応専門のお医者さんに診てもらったほうが良いかもしれない」

僕は呟いていた。


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