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持続可能な開発目標

誰よりも早く来て、誰よりも遅くまで残る。 早朝の筋トレのあと、コンビニ脇の喫煙所に、今日も僕は一番乗りだ。 タクシー運転手のお馴染みさんが数秒後に現れた。「今日も早いわね」と言いつつ、100円ライターでタバコに火をつける。 「おはござっす」と僕は言った。煙を吐いた。  昨年12月に会社を辞めて転職活動にはいった。面接は50社以上、書類はもう覚えてないが3桁はいっている。1年を経て転職活動に失敗し、自分を見つめなおすと言いつつ何もしてない。地球を動かし回すつもりが、家庭の経済も

    • T・P・O

      175cm85キロの僕は、5年前、35歳くらいから太りだした。妻に腹をつままれてお腹が出ていると毎日言われ、逆切れし、情けなくなり、筋トレを始めた。 知られたくないから、妻には内緒で朝3時半に起き、筋トレ施設に通う。 昔アメリカンフットボールをかじっていたので、筋トレには慣れている。 純粋に痩せたい、だったのが、筋肉が欲しいと思うようになった。 でも、やはりいるのだ。 筋肉隆々の男達が。 そして大体タンクトップよりさらに露出の高い服みたいなてらてらした「布切れ」を着ている

      • 時計

         「サンロード」という昔ながらの商店街にある古い時計屋で電池交換をすることになったのは、一回目のポールスミスの時計の電池交換をする時「特殊な蓋をしてあるため、ここではできない」と言われ、南口のこの時計屋を紹介されたのが始まりだった。  時計屋のお爺さんは、首をかしげながらも工具を出しものの15分で交換してしまった。「ブラボー」と心の中で思った。それから時計ベルトの部分を綺麗に拭いてくれた。1500円と言われても納得がいった。  僕はこのお爺さんを信頼し、二回目の青い文字盤の

        • 孫の手

           そこじゃない、そこじゃあない。ああそこだ、そうそうそこだ  ちょっと背中をかく時には妻の手を借りる。  季節の変わり目になると背中がかゆくなる。「忙しいんだから」と言いつつかいてくれる。  「孫の手」という商品が確か昔あった気がした。かく部分の反対側にはゴルフボールの大きいのがついていたような。そんな商品が祖父の家に転がっていた。いい商品だ。便利だ。文句も言わない。  初恋の話をすると妻はつまらなさそうに 「男ってバカよね。もう相手は名前も忘れているのに」 「脳の構造が違

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        持続可能な開発目標

          太郎

           いつも優しい太郎が真剣だった。 ポップアップ式のエアガンを机に置き、引き金の近くにあるネジをネジ回しでコツコツと叩いた。その目はエロビデオを山で探しているときと同じだった。 「中がどうなっているか、確かめよう」  ポップアップ式のエアガンとは、太郎が唯一持っているエアガンだ。球が発射されてから、弾道が浮き上がる。長距離から狙えるエアガンだった。そのエアガンが弾詰まりをしたのだ。BB弾を入れるケースを取り出しても、直らないところ見ると、おそらく弾がばねの間に挟まってしまったの

           腰が曲がり頭にウィッグをつけた82歳の祖母は、母と片道1時間の電車に乗り銀座まで買い物にいく。唯一存命の父方の祖母と僕は似ていると両親に言われる。祖母と僕はお気に入りの喫茶店や、誰々は服のセンスがないという見方で一致する。さらに孫は婆さんに甘えて言いという僕のイメージがあり、祖母は老いたら皆にチヤホヤされなくちゃ、というイメージがある。自分に都合がよく自分が一番可愛いことでも一致する。  母から聞いた話だ。 母は平日の朝、近所にある祖母の家に様子を見に行く。  祖母が「

          食べる

           大学2年生の時にスペインへ1人旅をした。第二外国語がスペイン語だったからだ。しばしば西洋料理は、前菜から始まりコースとなって出てくる。日本でフレンチを食べた時も、両親とイタリアへ旅行した時も、やはりコースで出てきた。  スペインのマドリードへ着いた次の日の昼、街に出て一軒のレストランに入った。そこはバルと呼ばれる酒場とレストランが一緒になった小さな店だった。入るなりカウンターに座り、メニューを見た。「慣れている行きつけのバルに来ました」と装いながら、前菜から最後のコーヒーま