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【#一日一題 木曜更新】 あの時のメガネは

山陽新聞の「一日一題」が大好きな岡山在住の人間が、勝手に自分の「一日一題」を新聞と同様800字程度で書き、週に1度木曜日に更新します。ほらいつか岡山在住ライターとして一日一題から依頼が来るかもしれないし……し…? 

   経理の上沼部長は頭の上にメガネを乗せていた。
   パソコンに向かう部長に領収書を渡すと、部長はメガネのつるをくいっと引き上げ頭の上に乗せて、領収書の数字や日付を確認した。「はいオッケイ」と声をかけられ、私はその場をあとにする。
   20代の私は不思議に思っていた。上沼部長のメガネは一体何のためにあるんだろう。ヘアスタイルは栗色、身につけているものも個性的で格好良い人なので、頭の上にメガネが乗っていてもサマになっていたけれど、日によってはメガネは1日の大半頭の上に乗ったままだった。

    月日は流れ私は40代の中年オンナになった。上沼部長のメガネがなぜ頭の上に乗っていたのか、ここまでお読みのオトナの皆さまなら、きっと見当がつくでしょう。そうです、中年の代表的なアレ、老眼による手元の見えにくさ。当事者になりわかったのは、老いた目の見え方にはバリエーションがあるということ。裸眼のせい、老眼鏡のせい、はたまた近視のメガネのせい。私の場合は軽度の近視メガネが手元のピントの邪魔をする。デスクトップのパソコン画面にはメガネ要、手元の書類はメガネ不要。なんとも不便だけど、遠近両用メガネが必要というほどでもない気がして、やり過ごす毎日。
   
   そしてある時、私は無意識にメガネを上沼部長スタイルにしていた。書類を読む時は頭の上にひょいとメガネを上げ、ちょっと遠くのカレンダーを見る時は鼻に再び戻す。片手で上げ下げ、いちいち耳から外す必要もないしなんて便利なんだ上沼スタイル。上沼部長も、きっと軽度の近視用メガネだったんだろうなあと思いを馳せる。

   でもその便利さは悲劇も起こした。あまりに上沼スタイルが快適だったために、何の違和感も持たずに私は外出し車に乗ってしまった。あ、メガネ忘れたとダッシュボードにあるスペアのメガネをかけて運転し、スーパーマーケットで買い物をした。
    帰宅し手洗いのために洗面所入り、鏡に映る自分を見て愕然とした。
   上沼スタイル恐るべし。
   そこには、頭の上にメガネを乗せ、さらにメガネをかけたヘンテコなおばさんが映っていた。




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