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【一日一題 木曜更新】 抜け道キャリア

山陽新聞の「一日一題」が大好きな岡山在住の人間が、勝手に自分の「一日一題」を新聞と同様800字以内で書き、週に1度木曜日に更新します。ほらいつか岡山在住ライターとして一日一題から依頼が来るかもしれないし……し…? 

 上司にストッキングの伝線を指摘され、業務中にコンビニに走った。急いで会計を済ませて再び社屋の前に立つと、むなしくなったと同時に、男性にストッキングがだらしないと言われたことに急に嫌悪感が湧いてきた。
 むこうのデスクの島には、男性が膝の破れたジーンスと首の伸びたTシャツで仕事をしている。清潔感のあるなしでジャッジするなら、どう見たってあっちが落第だ。
 ストッキングをはき替えたトイレの鏡で、ダサい制服姿の自分を眺めた。なぜ女性にだけ制服があるんだろう。なぜストッキングを履かなければならないんだろう。なぜ男性はヨレヨレの私服でも許されるんだろう。
 こんな環境で耐えられるはずもなく、2年ほどでこの会社とはおさらば。でもプロダクトとグラフィックの中間のようなデザインに携わり、パソコン素人がAdobeやMacの操作を会得したのだからもうけもんである。
 
 タウン誌、広告プロダクション、飲食店のインハウスデザイナー。撮影や編集、印刷を知り、仕事を楽しんだ。けれど不夜城体制の勤務は結婚・出産をする人間にはこなせない。それでも、印刷媒体に関する知識を付けたのだからもうけもんである。
 
 出産後は元居た会社から仕事をもらい細々と自宅で働いた。夫の帰宅は深夜で何もかもワンオペだったけれど、そういう時代で何も疑問を持たなかった。家事と育児、さらに仕事、目に見えない何かにしがみついた15年後の結果が、現在のライターや編集という仕事になったのだからもうけもんである。

「壊れたはしご」の話を聞き、ふとこれまでの仕事を思い出した。今は「ガラスの天井」というより、はしごなんですって。

 壊れたはしごを直しながら、いや、直しもせずにどうにか足のかけられるところを探して上ってきた。いらないもの危ないものをすり抜けて、必要なものだけ持って進んできた。15年間会社員をしている人にはかなわないし、出世や権力とは無縁だけども、配偶者の扶養から抜けるくらいにはお金を稼いでいる。

 バリキャリなんてものには程遠い、アラフィフの抜け道キャリア。
 けっこう、気に入っている。  

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