小説 | 外見ガチャ
見た目はガチャだ。
生まれた時に決まっていて、かんたんには変えられない。リセマラもできないし、『現実(リアル)』はなんていうクソ設定なのか。
外見がいい人が得をする。それはもう純然たる事実。みんな認めよ?
学校ヒエラルキーの上位にいるのはいつも可愛い子。社会に出ても、外見のいい子たちは私よりも多くのチャンスを掴むんだろう。無意識のうちに。
ちょっとした機会に呼ばれる
その場でなんとなく情報を手に入れる
それによってチャンスを掴む
そんな事が日常的に起こっている。そんなの社会に出てない今だってわかるよ。海外では、「外見がいい人のほうが出世する」みたいな研究データもあるらしい。納得だよね。
決して彼ら彼女らが悪いわけじゃないけど、彼ら彼女らが無意識に得をする世界はあんまり好きじゃない。
いや、端的に言うと嫌い。大っ嫌い。
私は単純だから、整形しようと思った。
引きが悪かったなら、課金してカスタムしてやればいい。
お金をためて、可愛い自分になる。そのためにはまず勉強だ。
医者か弁護士?
わからないけどお金持ちになってやる。
頑張って勉強している内に、整形サービスを提供する会社を自分で作ればいいんじゃないかと思いついた。
だから起業の勉強も並列して始めた。ガツガツ勉強する私は周囲から浮いていたんだと思う。中学高校と友達が一人もできなかった。でもそれでいい。今はそれで。整形さえすればすべてを変えられる。
そういえばこんな私にも話しかけてくれた男の子がいた。決して目立つ子ではないが、優しそうな顔と雰囲気を持っている子。
「整形するんだ」と話すと、控えめに、だけどはっきりと「整形なんてする必要ないと思うけどね」と言ってくれた。
これが私の学生時代唯一の良い思い出。
T大学にも無事合格し、在学中に起業することもできた。
美容系ベンチャー。まずは誰でも二重にできるプラン9800円からリリース。科学や医学の発展も伴って、だいぶ安価にでき、すっごくすっごく多くの人に使ってもらえた。「これが私?」みんな笑顔になって帰っていく。
私自身も整形した。女優のYさんのような外見に何度も何度も整形を繰り返し到達した。美人でなおかつ可愛い。私自身もそう思うし、周りからもよくそう言われる。
整形する前は相手にもしてくれなかった銀行の人や投資会社の人たち。だけど、私が可愛くなるにつれて、集まってきた。
「あなたになら投資してあげるよ」
ほらやっぱり。
外見がいい人が得してる。
この世はそうできている。私は間違ってなかった。
ただある時から、「私一人だけ得していいのかな?」そんな事をよく考えるようになった。私と同じように学生時代苦しんだ子たちも救われてほしい。いや、救いたい。そう強く思うようになった。
私は決めた。
起業して貯めたお金、銀行等から調達したお金、そういうものを全部使って、「整形フリーキャンペーン」を開催。
お金が続く限り、だれでも自由に無料で整形ができるようにした。
はじめは1つとして応募はなかった。
それどころから色んな人からの批判が続いた。
「不細工のヒガミ」私の過去の写真とともにそんな言葉もぶつけられた。
でもやると決めた。だから続けた。
……ある時から堰を切ったように応募が殺到し始めた。
100人、1000人と集まり、集めたお金がなくなりそうになったとき、おもしろいことが起こった。
海外の有名女優Wが、多額の寄付を表明。
「私は、整形をしたおかげで今の地位があります。整形には運命を変える力がある。このキャンペーンを応援したい」
この発言は社会から大バッシングを受けた。
でも、私はこの寄付に勇気をもらい、さらに寄付を募った。
「実は私も……」そう言って、過去の整形の事実とともに寄付を表明する有名人が相次ぎ、世論は逆転。
整形によって人生を好転させた人たちによる寄付は留まることを知らず、順番待ちをしているすべての人を整形しても余りあるお金が集まった。
「整形フリーキャンペーン」で整形を受けた人たちによる寄付も起こり始め、いつしかこの国では、整形は誰でも無料で受けられるものになっていった。
私が創りたかった世界はこれだ。
これでもう、見た目のガチャを克服したんだ。
なりたい外見を、自分で選ぶことができるようになったんだ。
私は嬉しくなった。
整形するんだと決めてから、10年の月日が経っていた。
ふと、「整形なんてする必要ないと思うけどね」と言ってくれた男の子のことを思い出す。今の私に会ったら、あの子はどんな反応をするんだろう?
気になって、久しぶりに連絡し、会うことに。
綺麗になっている自信はある。だけど、ちょっと緊張する。
待ち合わせ場所に現れた彼は、あの頃の優しそうな雰囲気のまま大人になっていた。とても懐かしくて、ほっとした。変わらないことがいいこともあるんだなって思った。変わった私、変わる前の私、彼はそのどちらとも同じように接してくれる。
「あなたみたいな人ばかりだったら、整形なんていらないのかもしれないね」
思わず口からそんな言葉が漏れた。「そう?」と特に気にすることもなく彼は答える。
「ねえ覚えてる?あなたはまだ整形する前の私に『整形なんてする必要ないと思うけどね』って言ってくれたのよ?」
「そうだっけ?でも今でもそう思うよ。僕のいる世界ではアバターの自由度はもっと高いし、この『現実』とかいうクソゲーの外見の差なんて誤差だよ誤差。正直違いがよくわかんない」
〜fin〜
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