見出し画像

集中力が10秒!?メディア機器やコロナ禍による子どもへの影響と対策

東北大学加齢医学研究所教授 川島隆太先生と、同研究所助教 松﨑泰先生に改めて子どもの脳に大切なことを、親目線でインタビューした本企画。今回は「メディア機器やコロナ禍への影響」についてお聞きしました。

メディア機器が脳に与える影響とは?


なぜ脳に悪影響が出ると言われるの?


松﨑:
私たちの子どもを対象とした追跡研究の結果からは、子どものメディア視聴時間が増えるにしたがい、脳の構造が悪い方向に変わっていくという結果が出ています。
しかし、メディアは多くの場合子どもにとって魅力的で、なおかつたくさんの時間を費やしてしまうように作られています。メディア視聴に多くの時間を割くことは、能動的に脳を活動させていない時間を増やすことになります。
 
川島:
例えば、スマートフォンやタブレットのような、こちらが操作することによって情報が変わるメディアに触れることによって、スイッチング※1のような割り込みが何度も入り、その結果、集中力が低下するということも心理学的には言われています。

 ※1…画面を切り替えること

 松﨑:
「通知」という機能がスマートフォンなどでもありますが、弊害が指摘されているもののひとつです。もちろん、大変便利な機能ではありますが、画面の隅に通知が入ってくることで気が逸れますよね。
自分が今、何をしていたのか忘れてしまったり、あるいはその通知先の作業に切り替えてしまったりするなど、こういったケースは日常的によくあることだと思います。
 
車を運転するとき、真っ直ぐな道であれば問題なく行けますが、右から人が来たり、左から車が迫ってきたり、横からバイクが割り込んできて……みたいなことがひっきりなしにあれば、気を使って仕方がないですよね。何かをしているときに通知が絶え間なく来るというのは、そういう状態なのです。
 
基本的に、人間の注意力は容量が決まっているという考え方があります。目には見えないですが、注意力の容量は決まっていて、それを効率よく振り分けて生活しないといけないのです。しかし、注意を向けなくてはいけないものが複数あると、それぞれに使える力というのは、自然に少なくなってしまいます。

集中力が10秒しかもたない現代人!?


川島:
これは我々のデータではないですが、ひとつのことにどれくらい集中できるかという、集中力の時間を測ったデータがいくつかあり、その中で一番極端なものだと我々大人であっても、集中力は10秒であるというデータが出ています。
10秒しか注意力がもたない――。こういった傾向にある人は、デジタル機器の利用が多い、そして割り込みによって注意が分断されてしまうという特徴があると言われています。
 
例えば、インターネットニュースを読むとき、多くの人はヘッドラインしか読めていないと思うのです。コンテンツに最後まできちんと目を通せている人は、少なくなってきているのではないでしょうか。

実際、インターネット記事などはヘッドラインと、10秒、20秒で読めるところまでに情報をぎゅっと詰め込んでいるという状態です。現代ではそれが当たり前になってきており、大人も子どもも、最初の10秒、20秒しか集中できないという生活様式が習慣化されている気がしてなりません。
こうした生活が習慣化された結果、多くの人が物事に時間をかけてしっかり考えることができなくなってきているのです。
 
これが大人の場合ですから、日常生活において学ぶ機会が多い子どもが仮に10秒しか集中できないとしたら、これは深刻な問題です。そういった意味では、双方向性のデジタル機器、今で言うとスマートフォンやタブレットというのは、できるだけ使用を制限したほうがいいという考えを私は強くもっています。

じわじわと表面化してきた、子どもへの影響


川島:
大人だけの話ではありません。
学校現場を見ていても、発達障害が疑われる子どもの数が増えているという報告があがっています。
特に、注意欠如・多動性障害※2の傾向が高い。これは現代社会で集中力が続かないということと似通っているのではないでしょうか。特に小学校低学年の子どもは、その特徴が顕著だと思っています。

※2 注意欠如・多動性障害(ADHD)…発達早期からの不注意(集中がじゃまされやすい)、または/かつ多動性・衝動性(じっとしていにくい)を代表的な症状とする神経発達障。ADHDは生得的な脳機能の特異性により上記症状が継続的に生じるものなので、睡眠不足などでの一過性の不注意とは原因が全く異なる。 


松﨑:
確かに、発達障害を疑われるというケースは多いと聞きます。注意力というものは比較的変わりやすく不安定で、様々な要因で一時的に変化します。
発達障害以外でも、過度なメディアの使用であったり、欠食や睡眠不足であったりと、要因は様々考えられるのですが、それらの「一見、注意力がない子どもに見える」という事例自体は多く報告されているようです。
 
川島:
実は神経小児科医はこのような事例が増えているという感覚をすでにもっているのです。
環境要因によるものなのか、原因はよくわからないという話をしている中で、アメリカの精神科医には双方向性のデジタルスクリーンタイム※4が実は問題ではないかと提起している人もいます。
もしかすると、子どもの落ち着きがないというのは、スマホやタブレットの使い過ぎが一因になっている可能性もあると私は思っています。
 
大人に比べ子どものほうが脆弱ですから、症状が強く出るだろうと推測できます。小学校の教員に話を聞くと、1年生が学校で何から始めるかというと、40分間、席に座っているという授業からだそうです。
昔はちょろちょろ出歩く子はほんのわずかで、クラス全体がじっと座っていられないということはなかった。今はどちらかと言うと「授業中に座っていることができない」がデフォルトで、そこからスタートだというような話を聞きます。これは現代の社会環境と大きく関係していると私は思っています。
 
ただ、全体を通して私たちが考えているのは、子どもの習慣というのは家族の習慣、特に親の習慣の鏡そのものです。親の習慣が改善されれば、間違いなく子どもの習慣の改善も起こる。

逆に言えば、子どもに対して気になる行動を感じているのであれば、まず家族である自分たちに、その根っこの部分になるものがないかということを、ぜひ考えてもらいたいと思っています。
 

※4 ここでは、スマートフォン等を使用している時間を指す。

コロナ禍がもたらす脳への影響と対象とは?


コロナ禍によって、子どもの「自己肯定感」にも変化が…



松﨑:
社会的に不安なニュースが数多くあふれ、先が見づらい世の中になっています。また、コミュニケーションそのものも減り、家庭では可能でも、「外で誰かと気兼ねなく、たくさん話す」という機会は、どうしても少ないです。
 
仙台市のデータでは、子どもの「自己肯定感」が少し下がっているという結果が出ています。
自己肯定感とは、簡単にいうと「自分について前向きに捉えられている」という好意的な感覚を指します。なぜ自己肯定感がコロナ禍によって下がっている可能性があるのかというと、様々な制限があること、そして、その先が見えない不安が大きいと考えています。
 
コロナ禍だけでなく、東日本大震災の後にも似た傾向がデータに見られました。そして、回復までにはかなりの年数がかかりましたので、今回もすぐに解決する問題ではないと思います。
子どもを取り巻く大人、つまり親や先生が一丸となって、お子さんの自己肯定感や精神的な健康といったメンタル面を少しでも改善していけるよう働きかけられるといいですね。
 
川島:
いわゆる社会不安――。これが子どもにもしっかりと反映されているというのが、自己肯定感が下がった理由のひとつなのかなと思います。
我々大人がこのコロナ禍でしっかり前を向くということができないと、子どもも同じように不安に感じてしまうと思うので、我々大人がどういった背中を見せられるかという点に尽きると思っています。

もうひとつの理由として挙げられるのは、マスクの影響です。
マスクをしていると表情が読み取りづらい。これは我々の直接の研究ではないですが、保育の現場から、保育士の方がマスクをしていると、子どもがなつきにくいという報告とともに、悲鳴がどんどん上がってきています。

口元を見せられるようなフェイスシールドなどで工夫はしていますが、根源的にはあまり解決しないようです。小さい子どもは顔の表情から情報を読み取るということを自然に行っており、それがマスクで半分隠されることで難しくなり、結果なつきが悪くなるという傾向があるようです。
 
コミュニケーションの場面において、顔から読み取れる情報というのは、実に多く、特に相手の気持ちを理解するときに顔から得る情報というのは、言葉以上に大切です。
学校現場ではもちろん、マスクで顔が半分隠れた状態が子どもの標準になっているとすると、心と心の触れ合い、相互理解が思うように進まないのではないかと思うのです。
相手の気持ちを理解したり、自分を表現したりするということが非常に難しい状況になっていると考えると、このコロナ禍が子どもに大きな影響を与えていると痛感しています。

我々大人はこれまで何十年とマスクなしの生活をしてきましたから、おそらくこのマスクの中がどういった感じなのかは、それなりに想像しやすいですが、マスクをつけて当たり前で入学した子どもにとっては、想像しにくいのではないかと思います。
マスクをつけた状態で視覚的に確認できる顔の部位だけから、どれだけ情報を取り入れられるかというと、非常に限られた情報しか得られない。そうした中でコミュニケーションが標準化するということは、もしかすると、今の子どもの将来に悪い影響を与えるのではないかと懸念しています。少なくとも我々と違うコミュニケーションの仕方を会得しているのではないかと心配しているところです。


左手が川島先生、右手が松﨑先生

川島 隆太(かわしま・りゅうた)
東北大学加齢医学研究所教授。脳のどの部分にどのような機能があるのかを調べる「ブレインイメージング研究」の日本における第一人者。
 
松﨑 泰(まつざき・ゆたか)
東北大学加齢医学研究所助教。小児の脳形態、脳機能データと認知発達データから、子どもの認知機能の発達を明らかにする研究をおこなっている。
 
川島隆太先生・松﨑泰先生編著 『子どもたちに大切なことを脳科学が明かしました』(2022年9月発売)はこちら
 
本インタビューはYouTubeKUMONSHUPPANチャンネルの川島先生・松﨑先生スペシャルインタビューをnote用に加筆修正したものです。
(本文・タイトルの写真提供:pixta)

<note関連記事>
読み聞かせ”は親のため!?親子のコミュニケーションについて(第一回)

子どもの学習意欲には「〇〇〇〇」が大切だった。学習について(第二回)