子どもの学習意欲には「〇〇〇〇」が大切だった。学習について、脳の専門家にお話を伺いました。
東北大学加齢医学研究所教授 川島隆太先生と、同研究所助教 松﨑泰先生に子どもの脳に大切なことを、親目線でインタビューした本企画。今回は「学習」についてお聞きしました。
学習と脳の関係について
読み・書き・計算をしているときは、脳は活性化しているの?
川島:
自ら読んだり、書いたり、計算したり、能動的に行うことは、大脳が非常によく働くということが脳計測で実証されています。
読み・書き・計算というのは、学習の基礎・基本ですが、その学習の基本行為自体が、実は脳をたくさん使う行為なのです。
これは、人類が編み出したおもしろい教育方法と捉えることができます。技術や知識が身につくだけでなく、脳もしっかり刺激されるという、二重のよさがあると、脳計測から判断できます。
「やらなければならないこと」の大切さをどう伝えればいい?
川島:
まず考え方として、技術なり知識なり、“習得すべきもの”が存在します。人類の長い歴史の中で、ここまではやらなければいけないという基礎・基本となる部分は、ある程度決まっています。そこに関しては、好きであろうがなかろうが、頑張ってやるしかありません。
もちろん、好きでモチベーションをもってやっていければ、脳もよく働くし、学習効率も高い。嫌々やっているときは学習効率も低い。
では、我々大人は「どうすべきか」というと、「それがなぜ嫌か」「それを嫌ではなくすにはどうしたらいいか」ということをみんなで一緒に考えるということが、一番前向きだと思います。
しかし、そうは言っても苦手なものは苦手だし、嫌なものは嫌ですよね。そういうときに、例えば、「目標設定をする」というのはひとつの方法になります。
ここが越えるべき目標だということを明示する。子どもは、理解さえしてくれれば、とりあえずそこまで頑張ろうと一歩前に進んでくれます。そして、ここまで頑張ったから、次はこの段階へというように、家庭教育の中で目標設定を随時、見直してあげると、学習を続けていくことができるのではないでしょうか。
また、「なぜ、割り算を覚えなきゃいけないの?」と子どもが聞いてきたときに、「なぜだろうね?」で会話が終わってしまうと、子どもは苦手なままで伸びてはいきません。
割り算の先に一体、何があるのか――。難しいことを言ってもわからないと思いますが、ざっくりと、しかし丁寧に子どもに説明する。
大人になって、社会に出て、やりたいと思うことがたくさん出てきたとき、その途中にはどうしても割り算の知識が必要になってくるときがやってきます。その点について私たち大人は経験上、すでにわかっています。
子どもに対し、「自分の可能性を狭めないためにも、今、これは学んでおこうね」などといった励ましにつながるような声掛け、そして学年に応じた適切な説明をして、嫌なものであっても履修すべきところは履修するという考えに親が導いていくことも大切かと思います。
学習習慣をつけたいとき
学習を継続させるにはどうすればいいの?
川島:
習慣化という点では、要は歯磨きと同じで、「忘れると気持ち悪い」ところまでもっていけることが一番理想です。
例えば「小学1年生になったら、5分でも10分でもいいから机に向かって、宿題をやろうね」などと周りの大人が声掛けをして、一緒にやる。宿題をやらないと子どもが気持ち悪い、と思うところまでもっていければ、勝ったようなものだと思います。
松﨑:
子どもが目標を持つこと、学習を習慣化させること、それらを支えるのは子どもだけでなく、大人の手助けも必要です。大人のサポートに、プラス子ども自身の具体的な努力が伴って、初めていい習慣が身についていくと思っています。
学習の習慣化につながる、子どもの学習意欲を高めるには?
川島:
仙台市教育委員会との共同研究で、「子どもの学ぶ意欲を高めるためにどうすればよいか」という解析を行ってきました。その結果、見えてきたキーワードがなんと「朝ごはん」だったのです。
「朝食をきちんと食べる」ということが、回り回って子どもの学習意欲を高めるという結果につながりました。特に朝ごはんのときに家族とコミュニケーションをすることが、学習意欲を高めることにつながっているとわかってきました。
基本的な生活習慣の中でも、家族の習慣として「朝の家族の時間を大事にする」という親の意識が、子どもの学ぶ意欲を高め、さらに学ぶ意欲をもった子どもに親が学習のサポートをしてあげれば、学習習慣というのは身についていくだろうと考察しています。
睡眠不足は学習習慣の天敵。細胞レベルで障害を引き起こす!?
松﨑:
学習の習慣を身につけるためにも、家庭全体の生活習慣を見直してみましょう。睡眠時間が極端に少ない小学生や中学生の場合、学力への影響ははっきり言って顕著です。
睡眠不足の子どもは、学力が低い傾向にあります。当然ですが、睡眠不足ですと、疲れがとれない、疲れがとれないがために学校での生活の質が少しずつ悪化する――。
そうした積み重ねというものが、結果として学力はもちろん、あるいはもしかすると、学校での人間関係なども含めて、子どもが十分な力を発揮できないことにつながります。
川島:
我々の分析からは、「睡眠不足の子どもは、記憶を司る脳の部位である海馬の発達が悪い」ことがわかっています。つまり、睡眠不足というのは、脳の発達そのものにも悪い影響を与えているということです。
これは僕らの研究ではありませんが、睡眠不足の方の細胞を調べていくと、細胞レベルでミトコンドリア(※1)の働きが低いことがわかっています。
単に事象として睡眠時間が短いがためにぼんやりしているというのは、実は身体の細胞レベルで障害が起こっているのです。そして、障害が起こった結果として、例えば脳を調べてみると、記憶を司る海馬が小さく、また学力検査をしてみると、全般的に学力が低い――。
この結果、脳細胞がおそらくは細胞レベルでしっかり働いていないのではないかということが推測されるわけです。
※1 ミトコンドリア…身体の細胞が働くためのエネルギーを作り出す、微小な器官。酸素とブドウ糖のみを使って、細胞が働くためのエネルギーを作り出す。
子どもの睡眠不足解消のために、大人の生活習慣を見直そう。
川島:
子どもが睡眠不足になる一番大きな原因は、我々大人の生活習慣がそのまま鏡になっているということです。
今、社会環境などの変化によって、大人の生活習慣が子どもにどんどんコピーされているという状況にあります。
「みんなもやっているから大丈夫」と思っていらっしゃる方も多いと思いますが、実は子どもの心身に重大な悪影響を及ぼしているということは、大人が認識しなければいけないことだと思います。
学習もそうですが、睡眠も習慣です。習慣は、悪い習慣をもっていても、いい習慣を繰り返せば、それがまた新しい習慣に変わります。固定されるということは、絶対にありません。
しかし、習慣を変えることは、子ども一人の力ではどうしても無理です。家族全員が習慣を変えるという意識をもつことが何より大切です。
例えば小学生のうちは「9時前には絶対に寝る」というルールを家庭でつくる。もちろん、子どもにはなぜこのルールを作るのかという理由をきちんと説明した上で、家族も協力する。そういった環境をつくり上げれば、9時前に寝る子ども、そういった生活習慣をもった子どもになります。まさに意識の問題なのです。
川島 隆太(かわしま・りゅうた)
東北大学加齢医学研究所教授。脳のどの部分にどのような機能があるのかを調べる「ブレインイメージング研究」の日本における第一人者。
松﨑 泰(まつざき・ゆたか)
東北大学加齢医学研究所助教。小児の脳形態、脳機能データと認知発達データから、子どもの認知機能の発達を明らかにする研究をおこなっている。
川島隆太先生・松﨑泰先生編著 『子どもたちに大切なことを脳科学が明かしました』(2022年9月発売)はこちら
本インタビューはYouTubeKUMONSHUPPANチャンネルの川島先生・松﨑先生スペシャルインタビューをnote用に加筆修正したものです。
(文中の写真提供:Pixta)
<川島先生・松﨑先生のインタビュー記事はこちら>
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