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“読み聞かせ”は親のため!?親子のコミュニケーションについて、脳の専門家にお話を伺いました。

2022年9月に『子どもたちの脳に大切なことを脳科学が明かしました』(くもん出版)が刊行されました。
本書の編著者である、東北大学加齢医学研究所教授 川島隆太先生と、同研究所助教 松﨑泰先生に改めて子どもの脳に大切なことを、親目線で聞いてみました。

読み聞かせの効果とは?

本を通じて、親子でコミュニケーションを

松﨑:
読み聞かせは、言葉を楽しく学べるのもそうですが、何より「本を通じてやり取りをする」いい機会になりますよね。つまり、本を通じた子どもと親のコミュニケーションになると思います。
今はCDや動画での読み聞かせなど、多様な方法があるようですが、親が読み聞かせをすることのメリットについて本書でも紹介させてもらいました。

 川島:
以前、山形県長井市で親が子に読み聞かせをし、効果を測る実験をしました。平均で週に2~3日、時間としては1回10~20分間、読み聞かせをしただけなのに、親子の愛着関係が強まったのです。

ここで僕らは2つのことを学びました。1つ目は読み聞かせをすることは、親子の愛着形成に大変効果的で、それによって子どもの状態が安定するということ。もう1つは、わずかな時間でも読み聞かせをするだけで親子関係が変わる、今はそんな社会であるということです。

読み聞かせで、意外な実験結果が…!

川島:
先ほどの実験では、読み聞かせによって親子の愛着が強まり、子どもが安定したことにより、親の子育てによるストレスがぐっと減るということもわかりました。
毎日読み聞かせをすることは、一見面倒くさいと感じてしまいがちなのです。しかし、読み聞かせをしないことで、かえって子育てのストレスが高い状態を維持してしまうのです。

あえて読み聞かせをすることによって、子どもが懐いてくれ、子育てが楽になるという効果がある。つまり、子育てに悩んでいらっしゃる、特に子どもが落ち着かないといった悩みがあるご家庭には、読み聞かせをおすすめします

親子でうれしい“読み聞かせ”。そのポイントは?

松﨑:
言葉、そして視線や身振りなども含めて、子どもとしっかりコミュニケーションを取ることだと思います。お話を聞く子どもの反応も拾いながら、じっくり読み聞かせをすることが理想です。

子どもが入園すると、集団場面での読み聞かせの機会もあると思いますが、そういった場面だと個々でやり取りするのは、どうしても難しくなってしまいます。だからこそ、対面でできる家庭での時間を意識して取れるといいですね。
 
川島:
保護者側からすると、読み聞かせ自体を楽しむというのが一番ですね。親が楽しければ、自然と子どもも楽しいと感じます。
先ほども読み聞かせは誰がしてもいいのかといった話題が出ました。最近出たデータでは、新生児でも母親の声を聴き分けているということがわかっています。母親のお腹にいる頃からずっと、くぐもった声を聞いていて、生まれてすぐに母親の声にだけ脳が反応するという傾向もみられています。

出産後は、父親や兄弟といった家族の育児参加が始まり、その中でも赤ちゃんはしっかり声を聞いています。それは自分を守ってくれる、自分の近くにいる人たちの声だということを認識して、そしてその人たちの声で読み聞かせをしてあげる――。それがやっぱり一番効果が高いと思います。

「読み聞かせ」から「読書」への移行期、親はどうかかわる?


松﨑:
子どもがひとりで本を眺める行為は、文字を読む前からみられます。ただし、そこから自分で文字を読み、本を読む段階に移行するまでには、それなりの時間が掛かることに注意しましょう。

ひとりで本をめくり始めた姿をみて安心し、読み聞かせをやめてしまう親もいますが、家族の声で本の内容を聞くことのメリットはまだまだたくさんあります。読書できる年齢になっても、読み聞かせを続けることが大切です。
 
川島:
同じ本を何度も読み聞かせしていると、子どもは慣れてきて、文字をすべて認識していなくてもストーリーを読めるようになります。そのとき、読み手と聞き手を交換してみてはいかがでしょう。

子どもが親もしくは家族に、絵本を読んで聞かせる。それを家族が喜んで「すごいね」と言いながら聞いてあげることによって、子どもが本好きになるのではないか――。
それが読書活動にいざなう、素直な道だと僕は感じています。
 
松﨑:
読み手を交換して読んでもらうというやり方は、とてもいい考えですね。それは表現力を培うことにも繋がります。また、周りの人々が喜んでくれたという経験は、本に対する関心を大いに強めてくれると思います。


褒めるポイントは?叱りたくなったらどうする?

「褒める」ことで、親も子もハッピーに

松﨑:
本書内でも紹介していますが、親子のコミュニケーション、特に親子で「話す」ことは、脳の言葉や社会的状況の理解などに関わる領域が構造的によくなるということがわかっています。
 
川島:
さらに、我々の持っているデータでは、子どもが何かしたときに周囲の人間が認めて褒めると、子どもの大脳、特に前頭葉が一気に活動するということがわかっています。子どもを褒めるという行為は、子どもの脳と心によい反応があるだろうということはみえてきています。

褒めるときに一番大事なことは、即時性です。

つまり、褒める言葉や内容よりも、子どもが何かアクションをしたそのときに、その場で認めて褒めることが一番大事だといわれています。親と子がバラバラで行動していたのでは、その場で認めて褒めることはなかなかできません。

親も忙しいですが、自分の時間を子どもと共有して、いったんその手を止めて、子どもと一緒に何かをすれば、褒めるチャンスがたくさんあります。子どもが何かした瞬間に声を掛けられる、その「した瞬間」というところが一番大事だと僕は認識しています。
 

叱るときはどんな時?叱りたくなったらどうする?


松﨑:
即時フィードバックは、まさしくその通りです。叱りたくなるという気持ちも確かにその通りですよね(笑)。ダメなことはダメとしっかり示すのも大人の役割だと思います。
叱ることもあまり極端になり過ぎなければ、デメリットもないのではないかと思っています。もちろん、あんまりにも酷いものはダメですが。
 
川島:
小さい子どもでいうと、命に関わるようなことをしたときは、強く叱らなければいけなりません。例えば、ストーブに触ろうとしたときなどには、強く叱る必要は当然あると思います。

強く叱られると、習慣化するということがわかっています。これを動物実験レベルで再現させたのが、例えばネズミを使った実験です。「叱る」という意味合いで電気ショックを与える。こういった環境下で何かを学ばせると一発で学びます。
ところが、「褒める」の意味合いで、何かできたら餌をあげる。この環境下で学習させると、なかなか学習しないということがわかっていて、実は叱るほうが一発で学習は成立するのです。
 
でも、叱るということは、人をネガティブにさせるという心因反応を起こすということは推測されています。人の場合でいうと、叱られる経験を通すことによって自信を失っていって、自己肯定感が下がるということも想定されます。自己肯定感が下がると、多方面で悪影響が出てしまいます。
 
松﨑:
そうですね、自己肯定感は色々なものの予防因子になるんですよね。ストレスや不安などもそうですし、何より子どもの頃って前向きにいっぱいチャレンジすることが重要ですので、そういったことを妨げてしまうというのは、心配になってしまいますよね。
 
川島:
どうしても叱りたくなる気持ちというのは、僕も十分理解できるのです。科学的根拠はないのですが、そのとき僕が家族の方にお願いしているのは、家族全員で叱らないでほしいということです。必ず子どもの逃げ場所を用意しておいてほしい

例えば、お母さんが強く叱ったときにお父さんがいればお父さん、きょうだいがいればきょうだい、おじいちゃん、おばあちゃんは絶対に叱らずに、自分のところに逃げて来られるようなスペースを作っておいてください。そうすると叱られてしゅんとなっても、安心できる場所があれば、そこで立ち直れるだろうと思いますから。


▲左:川島隆太先生 右:松﨑泰先生

川島 隆太(かわしま・りゅうた)
東北大学加齢医学研究所教授。脳のどの部分にどのような機能があるのかを調べる「ブレインイメージング研究」の日本における第一人者。 

松﨑 泰(まつざき・ゆたか)
東北大学加齢医学研究所助教。小児の脳形態、脳機能データと認知発達データから、子どもの認知機能の発達を明らかにする研究をおこなっている。

川島隆太先生・松﨑泰先生編著 『子どもたちに大切なことを脳科学が明かしました』(2022年9月発売)はこちら

本インタビューはYouTubeKUMONSHUPPANチャンネルの川島先生・松﨑先生スペシャルインタビューをnote用に加筆修正したものです。

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