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25歳のひとり旅

その当時の僕たち家族は、神奈川県に住んでいました。

父親が長く勤めた建設会社を辞めて、故郷の福島県で自分の会社を作りましたが、使われるのは得意でも人を使うのは苦手だったようで、3年ほどで倒産してしまいました。父は逃げるように福島を出て、神奈川県の建設会社で働くことになりました。

群馬県の伊勢崎市にある私立大学に入学しても大学に行かずにブラブラしていた僕も大学を辞めさせられ(辞めたかったんですけどね)神奈川に住むことになったんです。僕は家でしばらく引きこもりのような生活をしていたんですが、何もすることがないから漫画を描き出したんです。いくつか漫画らしきものを描いて漫画専門誌に投稿していました。しかし、絵が下手くそでね…カタチをとらえるというのが苦手だったんです。そこで、東京の目黒にあった鷹美術アトリエ村という美術塾にデッサンを学びに行くようになったんです。

鷹美術アトリエ村というのは画家の山口鷹という人が洋館のような自宅を改造して絵を教えていたところで、当時はたくさんの絵描きの卵さんたちが出入りしていました。絵描きというのは変わった人ばかりで面白かったんです。僕はデッサンを学びに行ったはずなのに、全然絵を描かずに、彼らと交遊するのが楽しくなっていました。

ある日、アトリエ村の中にあった喫茶室でコーヒーを飲んでいると、絵描きさんのひとりが「誰かイラスト描ける人いる?」と言うんです。ところが、みな絵描きさんばかりですから誰も手を上げないんです。芸術家としてのプライドがあるんですね。僕はそんなプライドなんかないですから何も考えずに「はい、僕描けます」と手を上げちゃったんです。

*写真は前回同様、青森市に住んでいたときに通っていた小学校の近くにあった洋服店。

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