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消雲堂綺談

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私は怪談奇談が好きで、身近な怪異を稚拙な文章にまとめております。
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2020年9月の記事一覧

消雲堂綺談「崖の上」

消雲堂綺談「崖の上」

あれは、妻が乳がん手術をする少し前のことだったと思う。千葉県のKという街の古いアパートに住み始めた頃の話だ。

かつて有名な時計メーカーの工場があったという場所を通ることから、その時計メーカーの名前がついている街道沿いに僕たちが住むアパートが建っていた。

街道をはさんだ反対側にあった写真店の庭には大きな桜の樹があり、タコの足のようにウネウネと四方に伸びた太い枝には毎年、物凄い数の花を咲かせていた

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消雲堂綺談「エレベーター」

消雲堂綺談「エレベーター」

僕は千葉県の浦安に住んでいる。この2年間に続けて両親が死に、肉親は妹だけになった。僕たちの親族は東北の方にいるが、両親が存命の時から疎遠になっていた。疎遠になった理由は知らないが、僕たち兄妹は子供の頃に東北の湖のある町で叔父と叔母に会った記憶があるくらいのつきあいだ。その叔父と叔母もかなり前に死んで、その後どうなったのかも知らない。

僕は結婚して浦安に居を構えたが、両親と妹は浦安の隣のNという江

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袋小路

袋小路

ポスティングのアルバイトをしているときの話だ。ポスティングは、地元のフリーペーパーを配布する仕事だが、僕と田辺さんと香村さんの3人で行っていた。ある日、午前の配布を終えて事務所で歓談していると、香村さんが不思議な体験を話し出した。

「田辺さん、袋小路の奥の袋小路に入ったことがありますか?」

「え?袋小路って路地の突き当たり…行き止まりのことでしょ?」

「そうです」

「行き止まりだから、その

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