【実践報告】日本語教育者向けの勉強会:業務ヒアリング<前編>
日本のビジネス現場でデビューする外国籍の留学生や社会人に向けて、日本語 × ビジネスマナー・商習慣などを教えるニーズは、当面減ることはないでしょう。
自分のビジネス経験の強みを活かして、外国籍の方向けあるいは日本語教師向けにノウハウを提供する方法を探っていたなかで、1つきっかけがやってきました。文化庁のある研修を終了した仲間うちでの、勉強会です。私が単独で集客や主催をしたわけではなく、お仲間の存在があったおかげなのですが、このような勉強会の需要がありそうだと認識できましたので、まとめておくことにしました。
前編では、主観も入りますが、背景情報を整理します。
後編では、具体的な実践内容をまとめます。
日本語教育は一般的に理解されていない
日本人にとって日本語は、毎日無意識に使っていて「当たり前」のものであり、外国人がどんな過程を経て日本語を習得しているのか、普通は知りません。わたくし自身もかつてはそうでした。なんとなく、「日本は世界の言語の中で最も難しい言語の一つ」という話を耳にしたことがある程度ではないでしょうか。
ましてや、JLPT(日本語能力検定試験)の存在も知られていないし、ぎりぎり存在を知っていても、どのレベルがどのぐらいの習熟度か、わからないかたが日本国民の圧倒的大多数だと思います。日本語学校・日本語教師というものの存在自体を知らない方も相当数いると思います。イメージも湧かないでしょう。(実際、私は英語教師とよく間違えられます。)
ですから、外国籍の社員を抱える企業の担当者さんにとって、職場で求められる日本語を、日本語教育機関が求める形で的確に説明するのは、簡単なことではないと思います。
教育機関側が主体的に、適切な事前調査とヒアリングを行うことによって、企業のビジネス、外国籍社員が携わる業務内容の理解、およびそこで求められる日本語について理解を深めることが不可欠だと思います。しかしその実行スキルについて、教師自身が場数を踏む機会は少ないかもしれません。学校関係者のお話を聞いている限り、教師は授業に専念し、営業活動は別の方(営業担当や校長など)が担当されるケースが多いようです。
日本語を教えるプロが、使いこなすプロとは限らない
いくつかの研修や勉強会に参加する中での気づきは、自戒の念もこめてですが、「日本語を教えるプロが、日本語を上手に使いこなすプロ」とは限らないということです。授業では慎重に使用語彙・文法をコントロールして進行しているはずの先生でも、日常会話や会議などの場ではいたって「普通の人」・・・・まとまりなく話し続ける、人前で意見をいうのが苦手、主張が強い、途中で話の要点が見えなくなる、範疇外のことはバッサリ切り捨てる、、、といったケースがあまり珍しくないことに気づきました。言語というよりコミュニケーションスキルの問題ですね。
教育機関で、学習者もしくは同僚の先生たちとのコミュニケーションにおいては、もしかしたら差し支えないのかもしれません。
しかし、これがもし、企業相手だったら。
要領を得ない会話は、相手をいらいらさせ情報収集が滞るどころか、信頼関係に悪影響を及ぼしかねません。
企業向けの日本語教育で、おそらく最も大事なこと
これまで長年企業向けの業務調査・ヒアリングや提案等を行なってきた経験から鑑みると、企業相手のコミュニケーションにおいてもっとも大事なことは、「いかに相手に共感・好奇心を示し、理解に努めるか」。別の言葉でいうと「自分がその担当者になりきって、隠れているニーズまで理解するつもりで」興味を持って相手に迫ることだと思っています。
業務改善コンサルタント駆け出しのころ、上司に言われたことがあります。
「相手企業の社員よりも深く、企業のことを理解せよ」
「相手企業に、『うちの社員になってほしい』とスカウトされて一人前」
先に述べた通り、企業側が日本語教育のニーズを明確に説明することは難しいだろうと思います。であれば教育機関側の方から踏み込んで、外国籍社員の業務内容を理解し、現場を見聞きして、その中で必要と思われる日本語を分析して、提案していくのが理想だと考えます。
企業がヒアリングに応じてくれない?
しかし時々聞くのが、「企業がヒアリングに応じてくれない」「とにかく、ペラペラにしてくれ、とだけ言われる」というもの。企業側は、”日本語教育”の具体的なニーズを説明することが難しいので、そう言われるのも仕方がないかもしれません。
ニーズ分析 = 企業が日本語教育機関にしてほしいことを明文化
ではなく
ニーズ分析 = 外国籍社員も日本人社員も会社としてもハッピーになるために必要な、その企業・その社員にぴったりな日本語教育を、教育機関と企業が共同作業で見つけ出す
ことではないかなと思います。
そこをきちんと説明して、ご納得いただくよう努力するしかないのでしょう。
就労者向け日本語教師の活躍の場
外国籍の方が日本で働くためにはビザが必要で、その種類はたくさんあります。また、ビザによって要件や対象国も変わります。求められる日本語やコミュニケーション力も専門性も異なります。
ニュースで度々問題に上がる技能実習生・特定技能・EPAを始め、高度人材、技人国(技術・人文知識・国際業務)など、学習者がどのビザで、どんな目的で日本で働くのかによって、教育内容も当然異なります。入国前後の初歩的な教育・集合研修では、ある程度画一的にできるだろうと思います。ここに携わって尽力されている先生方も存じあげています。
しかし企業に入り込んでからは、各社・各人ごとにニーズが異なってくると思います。個人的には、後者の個別性が高い日本語教育のニーズ分析とかカリキュラム策定などに、関心もあるしきっと強みも活かせるのではないかと思っています。企業から日本語教育を受託して、指導されている日本語学校の先生もたくさんいらっしゃいますので、もっと深くお話を伺ったり、自分でも早く実践の機会を得たいと思っています。
そうなると、やはり企業および就業者のニーズ分析が欠かせないはず。
後編では、研修の修了生仲間と「業務ヒアリングの実践練習」が必要と考えた背景と、実践内容について棚卸ししていきたいと思います。
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?