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「機能不全家族」に苦しむ人を奈落の底に突き落とす呪いの言葉、〈ヨケイナコトハイウナ〉

この記事では、「機能不全家族」という言葉を使います。Wikipediaでは、次のように説明されています。

機能不全家族(きのうふぜんかぞく、英: Dysfunctional Family)とは、家庭内に対立や不法行為、身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、ネグレクト等が恒常的に存在する家庭を指す。機能不全家庭(きのうふぜんかてい)とも称され、その状態を家庭崩壊(かていほうかい)、もしくは家族崩壊(かぞくほうかい)と言われている。
(Wikipedia 「機能不全家族」)

この「機能不全家族」に苦しむ人(多くは子ども)は、家族からの「余計なことは言うな!」という言葉によって身動きが取れなくなり、家庭外に助けを求めることができなくなってしまいます

まず、私自身の話をします。

私の父はアルコール依存症、母は精神病です。
しかも、これらの障害(病気)が診断され、両親が障害者手帳の交付を受けたのは、私が20代のとき(私が申請しました)でした。
高校まで両親と同居していた私は、次のような家庭の問題に悩んでいました。
・父の給与所得は決して低くはないが、アルコール関連の出費(酒代・飲酒運転の反則金・事故の賠償金など)がかさみ、家計は常に赤字だった
・母は片付けが苦手だったので、自宅はゴミ屋敷だった
・父も母も、お互いの障害による弱点を理由にしてケンカばかりしていた
10代の子どもには、このような家庭問題を自力で解決できるはずがなく、周囲の同級生に悩みを話したところでわかってもらえないと諦めていました。
唯一の救いは、学校の担任の先生が親身になって私の悩みを聞いてくれたこと。
それでも、家庭問題を根本的に解決することにはならず、「自分がしっかりしていなければこの家庭は潰れる…」と思い込んでいました。

そんな私にとって、両親から言われる次の言葉が、何よりも辛いものでした。
「お前、ウチのことを学校の先生に話してるんだって?そんなのはウチの恥だから、先生に余計なことは言うな!」

〈ヨケイハコトハイウナ〉。
一言に「機能不全家族」と言っても、抱えている問題は様々だと思います。
ですが、家族関係に苦しんでいる当事者にとっては、家族からの「人様に余計なことは言うな!」という発言が、奈落の底に突き落とす呪いの言葉に聞こえるのではないでしょうか
当事者は、家庭問題そのものに傷付き、それを周囲に理解してもらえないことにも傷付きます。
さらに、周囲の第三者に助けを求めること自体が〈ヨケイハコトハイウナ〉に阻まれてしまいますし、たとえ第三者に苦しみを訴えても、直ちに問題を根本的に解決できるとは限りません。
まさに「踏んだり蹴ったり」です。

さて、先ほど引用したWikipediaの記事には、次のような説明もあります。

機能不全家族とは、「子育て」「団欒」「地域との関わり」といった、一般的に家庭に存在すべきとされる機能が、健全に機能していない家庭の問題を指す。
(Wikipedia 「機能不全家族」)

ここで注目したいのは、「一般的に家庭に存在すべきとされる機能」とは何か?ということです。
武蔵大学教授の千田有紀氏は、著書『日本型近代家族』の中で、次のように述べています。

近代家族とは、政治的・経済的単位である私的領域であり、夫が稼ぎてであり妻が家事に責任をもつという性別役割分業が成立しており、ある種の規範のセット─一生に一度の運命の人と出会って、結婚し、子どもをつくり、添い遂げるというロマンティックラブ、子どもは天使のように愛らしく、母親は子どもを無条件に本能的に愛しているはずという母性、貧しくてもなんでも親密な自分の家族が一番であるという家庭などの神話に彩られた─を伴う家族の形態のことをさす
全ての福祉や感情処理の機能を、「家庭」だけに任せるのではなく、問題が「家庭」の能力を超える場合には即座に他のシステムに依頼できる社会をつくり、「家庭」を社会に開いていくことよって、逆説的にだが家庭は、「親密性」の場としての地位を占めることができるようになるのではないか

「機能不全家族」の「家族」とは、「近代家族」のことを指しているのではないでしょうか。
また「機能」とは、「全ての福祉や感情処理の機能」だと言えないでしょうか。

だとすれば、現代日本社会は、現実の家庭に「近代家族」という理想どおりに振る舞うことを期待し、「全ての福祉や感情処理の機能」を家庭に背負い込ませている、と言えると思います。
だからこそ、〈ヨケイハコトハイウナ〉の呪いが当事者を苦しめているのではないでしょうか。


この記事で私が言いたかったこと。

機能不全家族を救おうとしてくださる方々へ。
問題が表面化しない根本的な理由は、〈ヨケイハコトハイウナ〉の呪いです。
当事者をこの呪いから解放する方法を考え、実践してください。

もし私にできることがあるならば、当事者の苦しみを徹底的に聴き、適切な社会資源につなげることです。
とはいえ、社会福祉士や精神保健福祉士の資格は持っていませんが…。
それでも、もし身近な人が機能不全家族に苦しんでいるとしたら、できるだけ力になりたいです。

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