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Connecting the dots 『天地明察』を読んで

これまた「ホリエモンチャンネル」で知った「天地明察」。

映画がとてもよかったので、原作小説を手に取ってみたけれど、そのズシリ感に挫折。子どもにも読めるように~を言い訳にして、漫画版を入手した。


主人公の安井算哲(後の渋川春海)は、江戸時代に碁方の家に生まれ、職業棋士でありながら、数学、天文、神道にも通じていて、日本初の国産の暦を作った、実在の人物。

感想を一言で言うと、「Connecting the dots」を具現化したような話、と思った。

・囲碁仲間でライバルの道策でなくとも、専門は一体どれなん?とツッコミたくなるくらい、好奇心旺盛で多趣味多才な人。

・暦制作にあたっては、各分野の学者や、天文関係の上司や数学仲間のバックアップを得る。改暦を実現化する際には、囲碁という社交手段を通して知り合った武家や公家の有力者を動かし、商人や町人をも巻き込む。
人と人を繋げていく人。

・囲碁も天文もまさにdot(点)がテーマ。

と書きかけて、取り止めがなくモヤモヤしていたところ、キンコン西野さんの最近のnote記事を読んで、ちょっとまとまってきた。

そうだ、主人公は、後でつなげようとして点を打っていたわけではない。

・囲碁は世襲の仕事だったけれど、他の分野はおそらくただ好きでやっていただけ。自分が夢中になれることを、しつこくやり続けるのが大事。

・囲碁なら天元、天文なら北極星のように、自分の中にもブレない中心点があった方がいい。

・かつては暦学、神道学、天文学は一つながりの学問。天文と数学も関係が深い。算哲は囲碁の打ち方にも天文の法則を当てはめていたそう。
現代だと、囲碁と天文学は遠く離れた点同士のように考えてしまうけれど、もしかすると当時は、学問や芸事、遊戯、生活全て繋がっているような感覚だったのかもしれない。
「分野が違う~」と自分で決めつけて線引きしないようにしよう。

・点を打ち続けていたのは算哲本人かもしれないけれど、点を繋ぐよう導いたのは周りのたくさんの協力者のようにも思える。
和算が好きで、天体観測が好きで、恐らくその熱中っぷりは周囲の人間なら誰もが知ってるほどだったのかも。なので、新しい暦の制定が必要となった時、「そういえば、あいつが適任じゃん?」と、お偉方の頭に浮かんだとか?
点を打つのも大事だけれど、自分の点(趣味興味)を日々アウトプットするのも大事。

それにしても、江戸時代といえばガチガチ窮屈な封建社会をイメージしていたけれど、こんな自由な生き方があったことに驚いた。

Wikipediaを見ると、碁方や将棋方という職業自体がナゾな立ち位置。
世襲で幕府から給料をもらっていて、将軍の御前で碁を打つほどの機会もありながら、武士身分ではないという。算哲は京や江戸を行き来したり、武士とも町人とも自由に交友している。

現代に例えてみると、家康公がゲーム好きで、プロゲーマーのスポンサーになったから、子々孫々面倒見てやってね、たまに登城してプレイ見せてくれたり部下と親睦はかってくれれば、後は好きに過ごしていいよ、みたいな?

家康公がどうして武士身分にしなかったのかも気になる(算哲は後に天文方として武士に取り立てられた)。
やっぱり、武家の縦社会に組み入れてしまうと、プレイがおもしろくなくなると心配したのか。自由人の存在が、社会が硬直した時に必要になるのを知っていたとか?トリックスター的な存在?

最近話題のベーシックインカムにも繋がる気がしてきた。
生きていけるくらいのお金はもらえるから、生活の心配はしなくてよくて、好きなことに夢中になっていたらそっちで芽が出た、みたいな。


他にも、語源語義など気になってサーチしてみると、
・「碁」「棋」はいずれも中国由来の漢字だけれど、「碁」の字は現代中国では使われていない。囲碁は囲棋、将棋は象棋。碁(qiチー)の漢字字体は残っていて、人名社名などには使われている。

・「天文」も古い中国由来の言葉。学問分野名では珍しく新しい言葉に置き換わってないの?と思ったところ、明治時代は翻訳造語の「星学」という言葉が使われたそう。
実際は、星以外の宇宙空間や他の事象も含むことから、大正時代に「天文学」に戻したそうだけど、誰がどんな理由で制定したかは不明だとか。
「天文の方が正しい」とひっそり言葉を換えて普及させてる誰か。ここにもドラマがありそう。

作者の冲方丁さんの力量もすごいんだけれども、算哲の人生そのものがホント小説のよう。あまり知られていないけど実はすごい人、たくさんいるんだろうなぁ。

そういえば、学研や集英社の子供向け偉人マンガシリーズ、読んだ感想「え、この人偉人に入るの?」「結局何も実績なくない?」というのが最近増えたように感じていたけれど、ネタ切れなのかな?

安井算哲の他にも、関孝和や葛飾北斎などなど、江戸時代に活躍して、文献や作品などの実績も世に残っていて、後世への貢献度も大、その生涯もおもしろいという人物、たくさんいると思う。
ぜひ偉人マンガシリーズに入れてほしいです。

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