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書評「自分をコントロールする力 −非認知スキルの心理学−」

実行機能(遂行機能ともいわれる)は目標を達成するために思考、行動、情動を制御する能力である。より具体的に、目標の設定・計画の立案・計画の実行・効果的な遂行という要素で成り立っているとする考え方もある。

成人を対象としたリハビリテーションでは、高次脳機能障害や認知症との関連で論じられることが多い。

実行機能の評価には、Trail Making Test(TMT)、Stroop Test、Wisconsin Card Sorting Test(WCST)、Behavioural Assessment of Dysexecutive Syndrome(BADS)など用いられる。実行機能には複数の下位概念が想定されているため、いくつかの検査を組み合わせることが必要であると思われる。

リハビリテーションの対象者を丁寧に観察し、実際に評価をしてみると、その多くが実行機能の問題を抱えていることがわかる。

しかし、実行機能を理解するのは容易ではない。

上記の定義からも分かるように、実行機能は抽象的で複数の構成概念が混在しており、その意味を具体的に理解するのは難しい。実行機能の障害として調理の段取りが悪く時間がかかる、といった例が挙げられるが、さまざまな日常生活場面に影響が現れるため、一概に言うことはできない。

本書は子どもの実行機能と発達の問題について述べられており、実行機能を「感情の実行機能」と「思考の実行機能」に分けて説明している。

どちらも目標を達成するための能力であることは変わりないが、感情の実行機能は欲求や衝動をコントロールする、いわばアクセルとブレーキであり、思考の実行機能は無意識的な行動や習慣をコントロールする、いわばハンドルであるとされる。

調理の例では、自分好みの濃い味付けにしたい欲求を抑えて家族全員の好みや健康を考えた料理を作る能力は感情の実行機能、新しいレシピで調理をするときに普段と違う方法や手順に頭を切り替える能力は思考の実行機能の働きであるといえる。

このように考えると、感情の実行機能と思考の実行機能という2つの考え方は非常に理解しやすいのではないだろうか。ちなみに、前者はStroop TestやGo/No-Go課題、後者はTMTやWCSTで評価できると考えられる。

本書は子どもの発達に重点が置かれているため成人の実行機能に関する記述は少なく、「大人の実行機能を鍛えるのは簡単ではない」と結論づけているが、実行機能というものを理解するために重要な手がかりを与えてくれる。

森口佑介 著(2019年)


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