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時間指定の予約投稿で未来へのメッセージ 6.28

「よし、1か月先までの投稿が終わったわ」番田麻衣子はスマホを片手に達成感に浸っていた。「1か月先までってなんだ?」同棲している久留生昭二が部屋にはいっくる。

「うん、予約投稿」「ヨヤクトウコウ?」
「そう、同じ時刻に投稿できるサービスよ。私は朝6時に必ず投稿できるように毎日セットしたの。でも指疲れちゃった」
 麻衣子は右手を左右に揺らしながら指をもみほぐす。

「ほう、それはご苦労なことだな。で、未来に向けてどんな投稿したんだ」興味深そうな昭二。だが次の言葉で拍子抜け。
「天気予報よ」麻衣子はそう言って白い歯を見せる。

「天気予報? 何で1か月先までの天気なんてわかるんだ」怪訝そうな表情の昭二、麻衣子は語気を強めて則反論。
「それが面白いんじゃないの! 天気予報は衛星からの写真や気圧の動きや前線やらで数日後までの予報をするでしょう」
「ああ、そうだ。ちゃんと気象予報士だっけ、そういう人がね」
「それを私は直感でやったのよ」「ち、直感て。間違えたら」

「だから『未来予報』と最初に入れて、今日の日付も入れたの」
「6月28日か。その時点で1か月先まで予報する。さて未来の予報をが当たるかどうかだな」
「当たったらいいけど外れることもあるでしょう。私の直感で決めた予報が果たしてどのくらいの確率で当たるか。私自身も未来が楽しみね。ウフフフ」
「ハハハハ! そりゃ楽しそうだ」麻衣子につられるように昭二も笑った。
「あ、そうだ」麻衣子は突然立ち上がると冷蔵庫に向かう。

「今日、パフェの日なんだってね。だからアイスクリームが半額だったの」と言いながら麻衣子は冷凍庫からアイスクリームをふたつ持ってくる。

「お、いいなあ。今日はとにかく暑い!」麻衣子が見ると昭二の眉間から汗がにじみ出ていた。
「はい、どうぞ」麻衣子はアイスクリームをふたつテーブルに置く。昭二はさっそくアイスクリームを食べる。容器からしてひやりとするアイスクリーム。付属の使い捨てスプーンでバニラのアイスクリームを突き刺す。さほど力を入れることなくスプーンはアイスクリームの中に食い込んだ。そしてそれを救い上げると一定量だけスプーンの上。それをそのまま口の中に、入った瞬間アイスの甘味それ以上に冷たい存在が一気に口の中に入り込み、引き締まった感覚。しかしアイスは下の中で数秒後に液状化していく。
 こうしてふたくち、みくちと食べていく。気が付けば体から冷気が紛れ込み、体の熱が冷めていく。

「ふう、いいねえ。アイスクリーム。パフェの日最高だ」よほど暑かったのか、ハイテンション気味の昭二に対して麻衣子ハローテンション。
「でも、実は......」「どうしたんだ?」「そのパフェってフランス語のパルフェ。英語で言うパーフェクトから来ているらしくて1950年6月28日にプロ野球史上で初めて達成された『パーフェクトゲーム』から決まった記念日なんだって。だからそういうパフェとは違うのよね」麻衣子は口をへの字に曲げる。それを見て笑う昭二。
「ハハハハアハ! パーフェクトがパルフェ。それがパフェか。いいじゃないか、これのおかげで完璧に俺の体の暑さを癒してくれたんだからな」「そ、そうか、確かにね」ようやく口元が緩む麻衣子はやや溶けかけていたアイスクリームを食べだした。

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「そうそう、思い出した。実は予約投稿で面白い話があって」「うん」昭二はすでにすべて食べ終え、残ったアイスの解けた液をカップから直接口の中に入れている。
「18か月先まで予約投稿ができることを利用した人の話を聞いたの」
「18か月先といえば1年半か。それは?」

「Aさんは末期がんだったそうで、余命3か月という宣告を受けたの。そして本当に3か月で亡くなられたの」「そのAさんというのは誰?」「わからない。伝え聞いた話だし」麻衣子は真顔になって続きを話す。
「だけどその人のアカウントからは死後も定期的にメッセージが出されるの」「え、それは、ホラーか都市伝説のたぐいか」
「いえ、だから予約投稿よ。つまり生前にAさんが予約投稿していたの。だから死んで1年たっても毎日13時になると投稿されてづけているんだって」
 麻衣子の語りに昭二は首をかしげる。
「いや、それはおかしい。ふつうそう言うことがあれば、家族が止めるだろう。この前も見たよ『〇〇が生前お世話になりました』って故人の身内の人が挨拶するみたいな」
「それがAさんは独り暮らしで身寄りがないらしいの。医者とか看護師とか、誰もアカウントのパスワードとかそういうものを教えなかったそうよ。 
 だから誰もアカウントに入れず解除できないんだって」「......」昭二は神妙な表情になる。
「今後どんなメッセージが投下されるか、そしてそれがいつ終わるのか誰にもわからないわ」
「サービスの大元に止めるよう問い合わせないのかなあ」
「どうもね。故人の意思を尊重しようと言うことみたいで、この後何が出てくるか楽しみにしている節すらあるわ。フォロワー数が激増というし」麻衣子はここでようやくアイスクリームを食べ終える。

「お前も」「うん、これ」麻衣子はスマホでAという人物が所持していたというアカウントを見せる。
「おお、これかあ。未来をもじっているようだなあ」昭二が見ているアカウントにはmirairaiという名が表示してあった。

「これは何が出てくるか、ミステリアスだ。どんな内容が毎日出てくるんだ」「うーん、見たところ日常のつぶやきのようだけど、その中に『メッセージ性を帯びたものがないのか』って話題よ」

「気になる。よし俺も」昭二はスマホを取り出してさっそくmirairaiをフォローした。
「この人がなくなって昨日でちょうど1年 mirairaiさんは亡くなる3日前まで体を動かしてスマホを操作していたという情報もあるわ」
「ということは最大あと5か月は続く可能性があるんだ」昭二の言葉に大きく頷く麻衣子。
「でも、180ものメッセージを4・5日かけて投稿したそんな体力あるかしら」
「いや、余命宣告から始めた可能性もある。常に180日先まで毎日やっていたら。最後のほうは1・2日分投稿で180日分確保できる。そうなれば最後が3日前ならそこから177日後の未来まで投稿されるぞ」昭二は推理小説を解くかのように疑問を糸を手繰り寄せている自分に酔いしれている。

「なんかこういう話すると、これ自体が謎になってきたなあ」今度は疲れ気味の麻衣子。「あ、そろそろよ」
 麻衣子がスマホを見る。すると今日も13時になろうとしていた。「お、キタ!」昭二の大声。この日もmirairaiの予約投稿機能が働いた。
「1年前にこの日のための未来投稿。複雑だ」昭二は思わずうなった。「最後みんなが言っているXデーはいつなのかしら」「今度はその予想か、まあ楽しいけどな」と昭二は微笑む。だが麻衣子は自分がセットした天気予報の予約投稿が忘れられているという事実にまだ気づいていないのだった。



追記:この作品は、ある日に書いたものを6月28日にセットした予約投稿です。

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シリーズ 日々掌編短編小説 523/1000

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