マガジンのカバー画像

わたしやかぞくのはなし

207
わたしやわたしをとりまく家族たちの話です。
運営しているクリエイター

#エッセイ

かぼちゃをうまく煮ることができますか?

波の音。 ざざぁ、ざざぁと、押したりひいたりするたびに潮騒が気持ちよく耳に響く。 釣り人が釣りを楽しんでいる。 犬を散歩している人がいる。 夏の終わりの海岸は、やはりどこかさみしさを抱えている。 子供たちの喧騒や、色とりどりの浮き輪。 海の家の活気づいた人の出入りや、日除けのパラソルも姿を消して、今は過ぎゆく季節を迎えている。 私はこんな海も好きである。 秋の気配が近づいて、深まっていくこの季節に個人的にはぐっとくるものがある。 どこか、余韻があるというか、やり残

言葉ではないものをよむためにこそ人は言葉をよむのではなかったか

私たちは、本屋巡りをすることにした。 色々あったが、結論はそこに至った。 春に古本市に夫と出かけた。 なんとなくその頃から、かすかな心の動きは萌芽のようにめばえていたのかもしれないし、もしかしてその時には私たちは転がり出していたのかもしれない。 いつもはじまりははじまりと気づかずに、後から気づくものだ。 それはともかくとして。 夫は私に「1時間くらいドライブをしよう」と誘い出したのにも関わらず、私たちを乗せた車は住んでいる県を離れて、いつの間にか海を渡って都内へ向か

過去の渦と光の粒と紙

ここ2〜3日、シャットダウンしている。 シャットダウンしてるのはパソコンではなく私。 ちなみにこれは現在進行形の話でもある。 自分のシステムが機能しなくなったので、使わないようにした。いや、違う。「使わない」じゃない「動けなくなってしまった」がたぶん近い。 動けなくなったので、動けませんと家族に伝えた。そしてただ休んでいる。 今の世の中は...なんて書くと、随分と私も年を取ってしまったな、なんて思うが、まぁ今日は書いてしまうことを許して欲しい。 今の世の中は、スマホ

adidasのカントリーと耳たぶの傷

「こんなところに傷があるんだね」 私の耳に傷があることに初めて気づいたのは、私の元同級生だった。 それはよく目をこらさないと見えない、小さな小さな傷だ。 そんなことを言われた私は、遠い過去、まだ記憶も定かではない頃の記憶を手繰り寄せた。私の祖母が三面鏡で毎日お化粧する場面を、そばで眺めていた幼少の頃の私は、祖母がいない間に引き出しにあったカミソリを手に取り、自分の耳を切ってしまった。 おそらく顔の産毛の手入れをしていた祖母の真似をしたのだろうと、後に祖母はタバコを吸い

はじめて2人で暮らした日々とやまいもとリトルマーメイド

かばんにつめこんだのは、半袖と長袖のTシャツ、パーカー、ジーンズ、村上春樹の海辺のカフカ、iPod、国試対策の本、USB、そしてはじめて買った料理の本。 私は中央線特別快速で新宿まで出て、京王線に乗り換えた。ビル群がにょきにょきしている景色から、少しずつ少しずつ建物の高さが低くなり、空が広く見えるようになる。洗練された都市の街並みから、一般住宅も多くなってきた。緑も多くなる。 長いな、と私は思っていた。 私の住まいから目的地まで1時間半以上はかかる。気軽に行ける距離でも

「おいで」の時間を待っている

山崎まさよしさんが好きになって、もう26年くらい経つ。 私が17歳の時に出会ったドラマの主人公が、彼だった。 そのドラマのストーリーはこうだ。 20代の青年がある事件により記憶をなくしてしまった。彼は赤ちゃんみたいな状態から人生をやり直し、現在は8歳児として生きている。 そんな難易度の高い役柄を、役者でもなんでもない彼が抜擢された理由について「頭ん中が普段から8歳児に近そうやからって言われたわ」とけたけたと笑いながら話す姿に、私は一気に心を奪われ、ぐいぐいと惹かれてし

アップルパイが座っていた夜と「銀河鉄道の夜」ではじまった朝

「アップルパイとコロッケが助手席にあるから、お父さんがその上に座らないように早くどかさないと」 と私は言った。 我が子たちは「ほんとだ、アップルパイとコロッケが座ってる」と座席を目視してハモるようにつぶやいた。 なぜアップルパイとコロッケが座っていたのか。 それを説明するには少し時間を遡らないといけない。 アップルパイから遡ること、3時間前。 私たちはその日、あるお祭りにお客さんとして参加していた。そのお祭りは、私と夫が以前勤めていて、なおかつ、私の父親がまだ勤めて

東京タワー、家族と私と時々しろくま

東京タワーは久しぶりでした。 私の好きなラーメンズも大好きな東京タワーですが。 実はスカイツリーより東京タワーの方が、なんだか好きなくまです。 家族で晴天のお休みの日に 東京タワーにお出かけしました。 前回は息子が生後2ヶ月の時に訪れています。息子にはお正月で寒かったのでもふもふのダウンのロンパースを着せて、抱っこ紐で連れて行った記憶があります。 その前は夫とデートで訪れました。 あの日は雨の日でした。 前の会社の日帰り社員旅行でも行きました。 あれからずいぶん

3人だけの卒業式

卒業式の時期だ。 今年は、我が家の娘も息子もそれぞれの学校の卒業式を控えていた。 息子は「式の練習が始まったよー」と夕ご飯を食べながら学校の様子を教えてくれる。3年前の娘の卒業式の時はコロナの流行のピークだったこともあり、式の内容はかなり制限の強い状態で執り行われた。合唱なども飛沫が飛ぶと言う理由で、式で歌うことができずに、事前に収録しておいた音声を流すという対応が取られていた。息子は、気づくと鼻歌を歌っている。おそらく卒業式で披露される歌なのだと思う。 息子の卒業ムー

くまのぬくぬく日記⑨

2月16日と17日の日記 【はじらい】 ある高齢の女性の利用者さんとお話をする。 彼女は表情をあまり変えずに淡々とお話されるタイプなので、一見クールな印象を人に与えるが、実際は繊細でユーモアな一面を持つ。 この日は、先日起きた事件を少し興奮しながら話された。 友人が訪ねて来て、こたつでお話をしていたそうだ。しばらくすると友人が「頭が痛い!」と苦しみだし、嘔吐した。 あまりにおかしい状況だし、意識も曖昧になってきたので、救急車を呼んだ。 搬送後にくも膜下出血であったこ

くまのぬくぬく日記⑧

2月10日(土)の日記 【連休のはじまりは残された仕事から】 三連休であるが、特にどこかに出かける用事はない。そしてやらなければいけないことがあるので、あまり休みという感じもしない。 ひとまず今日はお掃除をして、そして美大の課題をやって、夕方から知り合いと夕ご飯を食べる約束があるので、そんなところである。 夫は研修があり、もうすでに家にはいない。 昨日のお仕事の記録(カルテ)の書いてなかったところを、ソファでゴロンとしながらタブレットで記入する。 昨日の仕事中に撮った写

くまのぬくぬく日記⑦

1月2日と3日の日記 【予定通りのおでかけ】 1月2日は私たちの結婚記念日。 市役所に届けを出したのはもう18年前になるらしい。ちなみに市役所がお休みの日に届けをするのは割とおすすめである。休日当番の職員さんしかいない市役所は、受付も裏口から入るのだ。待ち時間もなく、そのまますっとあっけなく届出は受理された。静かな晴れた日の市役所で、私たちは笑い合っていたのだと思う。(古い携帯には写真が残っているような気もする) 毎年2日はどこかに泊まることにしている。場所は都内が多いが

くまのぬくぬく日記⑥

1月1日(月)の日記 ◾️年越しと辰のおしりの概念 深夜0時をすぎた私たち家族は、Eテレの2355年越しスペシャルを見ている。 「たつこたつ」の歌が脱力系でなんともかわいい。辰がこたつに入ってお尻をぽりぽりとかいているので「辰のお尻はあそこでいいのかな、お尻の概念とは?」と私がつぶやくと娘が「確かに!」とくすくす笑い出す。 しっぽ? おしり? 腰? どこからどこまで? 爆笑問題の田中さんのたなくじの写真を連写で撮りまくる息子に「たくさん撮ったらくじにならないでしょ」とツッ

くまのぬくぬく日記⑤

12月20日(水)の日記 ◾️「山がある!」 娘が昨日から体調が悪い。 嘔吐と発熱。 実は私も先週同じような症状があった。 胃痛がひどく下痢や嘔吐もあり、そして発熱。 受診し、コロナやインフルエンザの検査は陰性。 「胃腸炎でしょうね」と医師に言われた。 (余談も余談だがこの医師は私の従兄弟である。彼がチャーリーブラウンみたいなかわいい幼少の頃から知っているので、髪の毛をくしゃくしゃっとした感じの今時の男子のような出立ちと、いかにも若いドクターです!みたいな雰囲気に思わず心