何もなかったところに戻るだけだよ
白い天井にある黒い染みは目立たないくらい小さい。俺の心の隙間を埋めるには小さすぎる染みだ。前の住人はもっと汚してくれればよかったのに。朝起きてからただその染みだけを見つめている。早朝から蝉がなきはじめ、カラスがなき、通学する児童の声が通り過ぎ、自動車が通り過ぎていく。朝が来てでもまだ死んでいた。夜は確かに死んでいた。夜は苦しかった、激しい苦悩が襲ってきた。朝になれば生きていると思った。でも朝も死んでいた。睡眠だけが俺を生かす。今の俺に必要なのは、無だった。死にたくはなかった。