最低の男 6

第六章 ノクターン
夏の終わりを告げる風が吹いていた。少し生暖かい風は、小学校の頃のプールが終わったあの感じを思い出させる。何となくノスタルジックな雰囲気がする。西日が沈もうとしており、ビルや住居には明かりが点り始めていた。洋介は自室のベランダに出て、東京の夜景を眺めていた。このビルの明かりの一つ一つにはそれぞれ人間の生活があるのだ。各明かりには営みがあり、そしてその中には愛がある。それらの明かりと自分の間には果てしない距離があるような気がした。明かり一つ一つがとても大事なもので、洋介は明かりの部分の司会を手で隠し、またその手をどけてみたりしたものの、明かりは依然としてそこにあった。見たくなかった。でも手に入れている人もいるのだ。
洋介の家には古びたレコードがあり、彼はフジ子・ヘミングが演奏するショパンのノクターンをかけていた。彼女の演奏は優しく、全てを許すようだった。ごめん。洋介は手すりに手をかけた。金では本当に欲しいものはなにも買えなかった。自分と明かりの間にある無限の距離が少しでも埋まるように。さようなら。

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