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洞川食探訪 vol.2(書き手:金子未弥)「お土産話」

お土産話

 ずっと疑問に思っていることの一つに、(私の出身地である)横浜が誇る崎陽軒のシウマイというものがあります。鉄道発祥の地にふさわしい、長時間移動にぴったりな冷めてても美味しいシウマイ弁当。もちろん私も移動の時になんとなく買ってしまうのだけれども、いつも「なぜシウマイなのか」という疑問が長いこと頭の片隅に居座り続けているのです。おそらく、横浜はそれじゃなくても食べ物の選択肢は多いし、特段シウマイにこだわる理由もない気がするのに、なぜいつもシウマイなんだろう。そんなことをずっと考えているので、名物と呼べるものがある地域を、なんだかとても羨ましく感じるのです。
 あるとき、一人で日帰りの弾丸で洞川に来たことがあります。2021年の「MIND TRAIL 奥大和 心の中の美術館」で洞川の楽しさが忘れられず、あの気持ちに浸りたくて、2022年の秋、思い立って電車とバスを調べて飛び乗り向かいました。
 洞川に着いたのが1時くらい。少しうろうろ一人で歩き回ったけど2021年の楽しさの片鱗も見つけられず、空腹に耐えかねて自家焙煎珈琲佐助に飛び込んだのが2時過ぎ。一人で洞川を歩き回っていることが急に寂しくなって半泣きで「お腹がぺこぺこなんです」と訴えたら、おそらくランチの時間を少し過ぎていたにも関わらず、ナスのミートソーススパゲッティにおにぎりを付けて出してくれました。マスターとまこちゃんには1年ぶりの再会で、お喋りしながら大好きなあわあわのアイスコーヒーを味わうと、全身で「おかえり」を満喫させてくれるお店。また一番に「ただいま」を言いに行きたくなるお店です。
 すっかり寂しさも空腹も忘れて、次に向かうのは旅の一番の目的でもあったかじかの柿の葉寿司。なぜなら間も無く有効期限が切れる柿の葉寿司の引換券があったから。かじかのあさみさんとあーだこーだ話しているときふと
「日本酒の大峯山を買って帰りたかったんだけど、お店閉まってたわー」
と口にすると、あさみさんがにやけながら
「やろか?」
と四合瓶の大峯山を出して、
「うちは飲まんから」という言葉に甘えてありがたく一本頂戴してしまう。
 気がつくとひぐらしが鳴き始めて、お土産をいっぱい抱えながら慌ててバスに乗り込み、京都の宿で一人、そっと柿の葉寿司を食べてみました。それは1年前の記憶とぴったり一致する、甘めのご飯の柿の葉寿司。さらに大峯山が加わると、やっとそこに1年ぶりの楽しかった思い出の片鱗が見つかりました。
 きっとこれこそ、各地に名物と呼ばれるものがある理由なんだろうなと思うのです。いつものようになんとなく買った崎陽軒のシウマイに、こんな思いを抱く日が来るのかなあと思いつつきながら、今年も洞川に「ただいま」を言いに行きます。

お土産いっぱい

お店情報

■自家焙煎珈琲佐助
〒638-0431 奈良県吉野郡天川村洞川169ー1
https://goo.gl/maps/rwNYyZhuWAb6jdtR9

■柿の葉すしかじか
〒638-0431 奈良県吉野郡天川村洞川356−2
https://goo.gl/maps/Qbmb2wg6wkcnRob89



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