住まいの窓口から学んだマーケ担当が意識したい"2つのAISAS"
こんにちは。
LIFULLの久原です。
デジタルを中心にマーケティングの仕事をしており、LIFULLでは「LIFULL HOME'S 住まいの窓口」(以下、住まいの窓口)という、家の購入を考えている方のための相談サービスを担当しています。
経歴
■ネット広告媒体社 2010~2015
プロダクト開発・運用
■ネット広告代理店 2015~2020
広告運用、新規事業開発
■LIFULL 2020~
toCマーケティング
兼業で企業向けのマーケティング講師や実務支援もしています
住宅購入は買うor買わないの選択から始まり、資金計画、建築会社選び、土地選び、ローン契約、間取りや設備……とほとんどの人が初めてにも関わらず、考えることや決めることが山のようにある、まさに人生のビッグイベントといえます。
住まいの窓口は、その住宅購入を知識ゼロから経験豊富なアドバイザーのサポートを受けながら進められる無料の相談サービスで、店舗相談だけでなくオンライン対応した今もお客様満足度99%を達成している、マーケティング担当としては一人でも多くの方に広めたい、非常にやりがいのある事業です。
※オンラインで顧客満足度を高める取り組みについては樋口が記事にしています。ぜひこちらもご一読ください。
今回は上長の菅野のリクエストもあり、マーケティングのフレームワークを実践に活かすうえで気づいたことについて、シェアしたいと思います。
要点をはじめにお伝えすると、AISASを用いてコミュニケーション設計を行う際は、「ユーザーの課題解決プロセスとしてのAISAS」と「プロダクトの購買プロセスとしてのAISAS」をセットで考えると整理しやすいというお話です。
先日菅野が記事にしていたように、フレームワークや理論は実践において試行錯誤することで知識やスキルとして体得でき、再現性のある成果を生むツールにできると考えています。
私のnoteでは事業会社でマーケティングを担当されている方、広告会社の方、またマーケティングの仕事を志す学生の方や転職希望の方にむけて、実務を通して得た学びを共有することで、マーケティングや事業戦略のフレームワークをより深く理解することのお役に立てればと思っています。
購買プロセスの説明に用いられるフレームワーク「AISAS」
マーケティングの実務において、ユーザーに商品・サービスを利用してもらうための施策を考える時、フレームワークをもとに企画を発想・立案することは多いのではと思います。
フレームワークを用いることで、
・アイディアが理に適っているか客観的な視点で検証できる
・プロジェクトを共に進めるメンバーとの共通言語になる
・決裁者に説明がしやすい
といった利点があるため、
マーケティングに限らず市場分析や事業戦略など、豊富な事例をもとにモデル化されたフレームワークを扱えることは、多くの人を巻き込みながら成果を出していくうえで必須のスキルといえます。
そんなフレームワークのなかでも、現代のユーザーの購買プロセスを説明するものとして最もポピュラーなのがAISASではないでしょうか。
AISASが登場した2005年当時は価格.comやAmazonなどのレビュー機能が普及した時期であり、家電や不動産のような、高関与商材で主に語られるフレームワークだったように思います。
しかし近年はInstagram、GoogleMAP、YouTubeといった検索行為に用いられるチャネルが広がり、口コミ情報もあふれているので、今日のランチをどうするかといった低関与商材の選ばれ方においてもAISAS型の購買が行われているように感じています。
AISASはもう古いという意見も時折目にしますが、私は2005年当時よりも現在の方が、様々な商材に適用できる有用なフレームワークになっているのではと思っています。
AISASは実用が難しい?
書籍や記事を読んだり、
先輩からAISASについて説明されるとき、
Attention「(プロダクトを)認知する」
↓
Interest「(プロダクトに)関心をもつ」
↓
Search「(プロダクトを)検索、(他社と)比較検討する」
↓
Action「(プロダクトを)購買・利用する」
↓
Share「(プロダクトについて)シェアする」
といったように、ユーザーが自社プロダクトをどうするか?といった視点で説明されることが多いと思います。
そして
「このようなプロセスを辿るので、各購買プロセスで次のフェーズに進んでもらうためにフルファネル(全フェーズ)で施策を用意しましょう」
という話になると思います。
まったくもって筋の通った話だと思うのですが、
「実際そんなにキレイにいかないよ!」
「フルファネルでマーケティングなんて、予算も人手も足りないよ!」
というケース、多いのではないでしょうか。
実際、僕もこのAISASモデルは使い勝手の良さもあり、担当事業のマーケティングの設計に活用する反面、現実的にはどうもしっくりこないなというか、うまくいかないなと思っていました。
実際、私の担当業務の1つである広告配信においても、
・申込フォームで離脱したユーザーへのリターゲティング
・LIFULL HOME'S(不動産ポータル)ユーザーへのリターゲティング
・競合サービスや家づくり用語を指定する行動ターゲティング
といった、
AISASのファネルではSearch、すなわちサービスを認知しており、検索・比較検討してくれているはずのユーザーを狙った配信がことごとくうまくいかず、けっこうな予算をムダに投じてしまった反省があります。
しかし一方でうまくいっている施策もあり、それは「家 相談」「家 建てたい」「住宅ローン 相談 どこに」といったキーワードによる、明らかに検討フェーズが浅いユーザーへの検索広告でした。
「おかしい……なぜ認知段階のはずのキーワードばかりCVするのだ……」
としばらく悩んだのですが、ある時、予約申し込み時にお客様が入力するコメント欄を眺めていてその理由に気が付きました。
「住まいの窓口」の顧客は誰か
コメント欄にはお客様が相談したい内容をフリーテキストで書いてくださるのですが、そのほとんどが「何から始めたらいいかわからないので相談したい」という内容でした。
たまに「何社かハウスメーカーを見てみたがどれがいいかわからない」というように検討するなかでご利用いただくお客様もいらっしゃるものの、これから行動する、もしくは行動を起こし始めたばかりのお客様が大半を占めます。
「なるほど、住まいの窓口は家づくり初期の"どうすればいいかわからない"という悩みの解決手段であって、既にその段階をクリアしたユーザーには選ばれないのか」と、顧客アンケートによってあらためて、自身が提供しているサービスの顧客と提供価値に気づきました。
思い返せばWebサイトでも、リーフレットでも、広告でも、「イチから学べます、まずはご相談ください!」と謳っているわけで、お客様はいわば家づくりの最初の一歩、とっかかりの段階で住まいの窓口をご利用いただいているといえます。
この点をあらかじめ認識していれば、
「申込フォームで離脱したユーザーはその後のフェーズに進んでしまったのかもしれない」
「LIFULL HOME'Sのユーザーは自分で資料請求して比較検討したいのかも」
「競合サービスや用語を知っているユーザーは既にある程度、行動を起こしている方だ」
と理解できるはずなのですが、知らず知らずのうちにフレームワークに縛られてユーザー不在の発想になり、サービスとミスマッチになる検討中期~後期のユーザーに必死になってアプローチしていました。
筋の悪い努力を繰り返していたことにショックを受けつつも、ユーザー視点に立ち返るきっかけをつくれたことで、自社プロダクトの位置づけを正しく捉えなおすことができたように思います。
AISASは「ユーザーの悩み」を主語にすると実態に近づける
ユーザーが「家の悩みを解決する」という大きなプロセスのなかで自社プロダクトを利用しているのだと考えると、必ずしも自社プロダクトの認知からプロセスが始まるわけではありません。
また、必ずしも自社プロダクトや競合を利用して解決するわけでもないといえます。
そのため、プロダクト視点で考える前にまずはユーザーの悩みが認知され、解決されるまでのプロセスとしてAISASを考えると、より実態に近い考え方ができるのではないかと思っています。
住まいの窓口が解決する「家の悩み」を主語にAISASを組み立てると、以下のようになるでしょうか。
※購買までのプロセスにフォーカスするためShareのフェーズを省いています。
■Attention「(家の悩みを)認知する」
家に関する何らかの問題・不満・不安を認識する。
家の悩みは結婚・出産・就学などのライフイベントがトリガーとなって発生することが多いようです。
自発的に悩まれる方もいれば、奥様からどうするつもりと詰め寄られて考え始めたという方もいます。
悩みに対して後ろ向きな場合、様々な理由で先延ばしにすることもあり、その場合はInterest、すなわち解決に関心がある状態にならず数年経ったりもするようです。
■Interest「(家の悩みに)関心を持つ」
解決にむけて能動的にアクションを起こしはじめる。
「知り合いに相談する」
「本を読む」
「インフルエンサーをフォローする」
「ひとまず住宅展示場に行ってみる」
「住まいの窓口のような第三者サービスに相談する」
etc...
具体的に行動を起こすフェーズです。
■Search「(家の悩みの解決策を)検索、(他の解決策と)比較検討する」
建てたい家の条件を決め、契約する会社を絞り込む。
関心を持って能動的に調べ始めると、「いつ」「いくらで」「どの地域に」「どんな家を建てたい」というように方針が決まってきます。
その方針をもとにハウスメーカーや住宅展示場をいくつか訪れ、土地、設備、価格、スケジュール、担当者を信頼できるかなど、それぞれが重視したい軸をもとに検討を行い、資料請求や打ち合わせを繰り返して契約先が決まっていきます。
■Action「(家の悩みの解決策を)購買・利用する
契約、施工、完成、住み替えを行い、
理想のマイホームによって家の悩みが解決される。
理想のマイホームを手に入れたことで、家の悩みが解決されます。
前述のとおり、プロダクト視点だけで購買プロセスを考えてしまうと
「どうやって潜在層に認知してもらうのか」
「どうやって認知後に理解してもらうのか」
「競合やポータルサイトではなく自社を選んでもらうには」
とやみくもに全方位での施策を考えがちですが、その前提となるユーザー視点での課題解決プロセスを整理することで、住まいの窓口の施策はその初期段階に集中すべきであることが理解できます。
ユーザーの悩みを主語にしたことでどのように施策を見直したのか
このような経緯で現在、住まいの窓口のマーケ部門では家の悩みのAttention~Interestフェーズのなかで、サービスを知ってもらい、理解してもらい、利用してもらうための施策を実施しています。
以下の図の上段が「家の悩みが解決されるまでのプロセス」、下段が「住まいの窓口が利用されるまでのプロセス」のイメージです。
青の悩みをオレンジの状態にすることが、住まいの窓口のマーケティング部門とサービス部門が協力して実現したいことだといえます。
施策の一部を紹介します。
■Attentionフェーズのユーザーへのアプローチ
・動画コンテンツ×LINE
少し先の将来に家の購入を考えているユーザーにむけた動画コンテンツを作成し、LINEで視聴できるようにすることで、サービス認知・理解を促しながら、その後LINEを用いて継続的な情報提供ができるようにしています。
動画コンテンツについては直近1年の取り組みのなかでも大きな成果をあげた施策となっており、同じチームの"吉田監督"こと吉田が記事にしてくれる予定です。ぜひこちらもご一読ください。
■Interestフェーズのユーザーへのアプローチ
・雑誌への取材協力・出稿
KADOKAWA社の『家を買Walker』に継続的に編集協力しています。
家について調べ始めたユーザーが購読する雑誌に情報提供し、アドバイザーに相談できることのメリットを知っていただけるようにしています。
・SNS/LINEでの情報提供
LINEやInstagram、noteを使って継続的に情報発信することで、本格的に行動を開始する際にご利用いただけるように関係づくりを行っています。
これらの施策を行う一方で、家に関する悩み、すなわちAttention自体を喚起するような施策は行っていません。家の悩みを抱えるユーザーに住宅購入相談サービスという選択肢を知っていただくことに集中しており、悩み自体の喚起や悩み発生前からの認知獲得は今後のチャレンジ領域です。
また、ハウスメーカーの比較フェーズに入ったユーザーについては
ニーズとミスマッチになる可能性もあるため、「LIFULL HOME'S 注文住宅」をご利用いただくことを優先し、住まいの窓口はCRMチャネルで補完サービスとして案内するにとどめています。
限りある予算でROIを最大化すべく、ニーズとサービスがマッチするユーザーに認知~利用いただくことに集中してマーケティング施策を行っています。
まとめ
AISASのフレームワークを使ってコミュニケーションを考えているものの、
どうもしっくり来ていないという場合は、「ユーザーの課題解決プロセスとしてのAISAS」と「プロダクトの購買プロセスとしてのAISAS」をセットで考えると、すっきりと整理ができるかもしれません。
住まいの窓口は悩みの認知~関心段階に施策を集中させていますが、特定のニーズに特化したニッチ商材であれば比較検討段階で見つけてもらう作戦もあると思いますし、逆にトップシェアサービスは悩み自体を喚起して市場を拡大し、全フェーズをカバーすることが定石になるでしょう。
担当されている商品・サービスはユーザーの悩み解決においてはどのような過程で利用されるでしょうか。
少しでも役立つ視点を提供できていれば嬉しく思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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