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才能を開花させるプロジェクトデザイン

新規事業のデザインとリスキリングのトレンドについて最近考えていることを書きました。

新規事業のデザインサポート

ここ数年、企業からの依頼で「新規事業をつくる」という仕事を多く手がけています。「新規事業をつくる」といっても様々で、事業領域がすでに決まった上でサービスを考えたいというケースもあれば、新規事業の部門と人員を用意したので事業案から考えてほしいというものもあります。社内企業のコンペ大会の審査から伴走までしてほしいというのもあり、「新規事業をつくる」といっても本当に幅が広く、都度やり方を考えつつサポートしています。

プロジェクトごとに活動の枠の大きさの違いはあれど、共通して発生するプロセスが「クライアント側メンバーへの新しいスキルのインストール」です。いま流行りの呼称ではリスキリングですね。新規事業は多くの場合、「その組織において、まだチャレンジしたことのない領域」であるため、通常業務で得た知識やスキルがほとんど役に立たなかったり、慣れ親しんだ文化圏じゃなくなったりするので、判断基準が適切じゃなくなってしまいます。BtoBとBtoCじゃ営業スタイルも違うし、電化製品とインターネットサービスでは設計思想が変わるみたいなことです。

プロジェクトメンバーが新しい知識やスキルセットを身につける前提がないまま、新規事業系プロジェクトを進めると、ただ社外パートナーに要求を伝えるだけの業務になり、社内メンバーに新しい成長が発生しにくく、すべてが外注まかせのものになっていきます。

新規事業のデザインサポートは、コンセプトの設計からアプリのデザインや実装、ハードウェアの設計や量産デザイン、店舗やオフィスのデザイン、コミュニケーションドキュメントやイベント設計、組織の制度設計や、組織の文化設計までかなり幅広いジャンルをリードできる経験が必要です。ビジネスフローの設計、セールスやマーケのリード、提携業者とのコーディネートなどもやる必要もあるでしょう。それらに共に取り組んでもらうことで、確実に今まで経験してこなかった知識や経験を得ることになるので、新規事業にチャレンジすること自体が効果的なリスキリングそのものであるとも言えます。

プロジェクトを進める上で心掛けていることは、事業アイデアのために「できること」ではなく、「やらなくてはならないこと」ベースで考えること、
すべてを自分ごとにしてもらうことです。
参加メンバーにはできるだけ新しい役割を振り、かつ完全にサポートするスタンスで取り組みます。

リスキリングという流行

リスキリングとは「主に仕事に役立つ新しいスキルを身につけること」です。ビジネスシーンでのトレンドワードとして流行しているワードです。
DXやイノベーション、デザインシンキングなどの潮流に乗っていくための、「高度なクリエイティブ思考やテクノロジーの知識」がリスキリングの主役として注目されているようです。

ほぼ全ての業種・職種がアプリやウェブなどのデジタルサービスとの連携を必要とするようになってきたため、それらを企画したり推進したりするビジネスパーソンに求められる知識やスキルセットが高度化してきているという現実があります。テクノロジーやデザインの知見がないビジネスパーソンが成果を出せるシーンが減ってきていることから、リスキリングの機運が高まっているのだと思います。

テクノロジーサービスが普及するほどテックわかんないと活躍の場が減っていくの図

新規事業プロジェクトの抱える課題

もう一方のトレンドとして、多少落ち着いてはきたものの今も企業では「新規事業立ち上げプロジェクト」の機運は高いままです。既存の事業だけでは成長が担保できない、もしくは既存の事業がデジタル化で他のものに取って代わられようとしているなど理由は様々ですが、企業は専門の部門やチームを作ったり、外部パートナーと協業するなどして新規事業の創出にチャレンジし続けています。

新規事業のプロジェクトで各社がぶつかる課題は似ています。よく耳にする課題は以下のようなものです。

  • 社内にエンジニアもデザイナーもいないので、企画書から先に進まない。

  • 事業の立ち上げと運営をした経験者がいないので、お金に関する肌感がなく、事業計画が作れない。

  • デジタルサービスを作ったことがないのでできることがわからない。外注の仕方も想像できない。

  • コンセプトや企画の意図が全然まとまらない。やりたいことがすぐに増えたりブレてしまう。

  • プロダクトやブランドのデザインがどう進めるべきなのかわからない。外部パートナーと仕事をしたことはあるけれど、実際に一緒に考えたりをしていなかったので判断基準も持っていない。

  • 実際にプロトタイプを作ってみたいが、予算感も必要とする時間も大まかにすらもわからないので、スタートもできない。

  • メンバーにラフなものを作れる人もいないので、チームの議論が進まず、何もアウトプットがないままプロジェクトが終了した。

などなど。

しかしこの課題は、新規事業プロジェクトを「外部パートナーを迎えたリスキリングの取り組み」として捉え直すことで解決ができるのです。

リスキリングと新規事業の相性の良さ

企業が新規事業プロジェクトについて抱える課題はざっくり言えば

  • 知見がない

  • 技術がない

  • やったことがない

  • やりかたがわからない

  • これらが理由で先に進まなかったり、頓挫したり、ワークショップ止まりで終了する

ということなので、新規事業プロジェクト自体のスタンスを「新しいスキルにチャレンジするためのリスキリングプロジェクト」にしてしまうことでこれらの課題を取り組みながら解決ができます。通常のスタンスと違うのは「知らないところ、難しいところを外注だけにせず、専門家に教えてもらいながら自分たちも一緒に担当する」ということです。

アプリの画面の要望を出すだけでなく、デモアプリをプログラミングしてみる、Webサイトのサンプルをツールを使って作ってみる、自ら店頭に立って売ってみる、知人を伝って自社の既存ではない取引先を開拓してみるなど、自分たちで積極的に挑戦するというスタンスを持った上で外部の専門家やパートナーと新規事業立ち上げにチャレンジするのです。

自分たちが実務を担当することでその仕事や領域に関する知識や解像度が上がります。プロジェクトの前提をリスキリングも目的とすれば失敗を恐れずに挑戦や発想が可能になるので、新規事業プロジェクトの成功率は自ずと高まるかと思います。「才能を開花させるためのプロジェクト」として新規事業に関する前提や制度をデザインすることで、企業内にナレッジやノウハウなどの無形の資産を確実に還流することが可能になるでしょう。

実際に経験した事例

私自身が参加したもので、印象的だった、振り返ればこれはリスキリングプロジェクトになっていたというものがいくつかあります。「才能を開花させるプロジェクトデザイン」になってたな!と思うものがあるので、うちもこういうのやりたい!という企業さんは是非お問い合わせください

RICOHのSTAYTHEE

RICOHの起業支援プログラムであるTRIBUS初の新規事業。ハードウェアのエンジニアと営業出身者が中心のチームで、手がけたことのないEC立ち上げやちゃんとデザインされたパッケージ、SNSでの発信など、スタートアップっぽい取り組み方にチャレンジしてもらいました。Good Design賞の BEST100 も受賞。全員にデザインに参加してもらうようなプロセスで進めたのでメンバー全員をデザイナーとしてクレジットしてもらうことができました。

ドコモのバイクシェアサービス

新規事業というより、既存プロダクト全てを作り直すという、ある意味新規事業ともいえるようなプロジェクト。ハードウェアからアプリ、バックエンド、サービス運用まで、全体をリデザインする必要があったため、プロジェクトメンバーが今までの製品に対する考えをリセットし、いちから「ユーザーのための体験」を考え直しました。打ち合わせをしながら目の前でプロトタイプを作っていくプロセスやデザインガイドラインを一緒に作るプロセスを通して、UXをチームで検討するプロセスやUIデザインツールの使い方をメンバーにインストールしました。サービスは黒字化も果たし成長を続けています。

RICOHのTONOME

こちらもRICOHの起業支援プログラムであるTRIBUS初の新規事業。働く人のワークスケジュールを自動で組んでくれたり、タスクの進捗を同僚や上司に公開できるサービスです。まだベータ版ですが、ToDoを自動でGoogleCalender上に分割して配置してくれたり、タスクマネジメント付きには刺さるツールかなと思います。TONOMEのチームも動的なビジネスツールのUIデザイン、プロダクトの詳細な言語化や展示会やウェビナーの開催、積極的な社外へのアプローチなど今までにメンバーが経験したことのない領域のスキルにチャレンジしながら積極的に開発を進めることができています。(絶賛ユーザー募集中です!サイトにアクセスしてみてください)

未発表のアプリサービスプロジェクト

まだ進行中のとある企業のプロジェクトでは、非エンジニアだったチームメンバーにiOSのアプリのプログラミングをハンズオンで教えながらサービスを作っています。コードが全くわからなかったメンバーが実際にアプリを実装しながらUIのデザインもできるスキルを身につけることができています。非エンジニアだった人達がgithubとコードとUIデザインツールを使いこなすようにまでなっています。早くこちらも発表できるといいな。

将来宇宙輸送システム

宇宙領域のビジネスデザインはそもそも前例が少なすぎて、全員がリスキリング中とも言えます。私自身も学ぶことが大量にある進行中プロジェクト。Sci-Fiプロトタイピングを全員がインストールしているような状況かもしれません。かなりのフロンティアにフォーカスして新規事業にチャレンジするというのは最大のリスキリングになるのかもしれません。

パートナーとしての外部デザイナーに求めるもの

新規事業やブランドデザイン、サービスの継続改善などのプロジェクトはやることが多く、2,3ヶ月で終わるものではないため、年単位で外部パートナーとして腰を据えて伴走する必要があります。そのため、お互いに想いや覚悟の度合いはフィットしないとプロジェクトはうまく進みません。リスキリングを目的とした場合であれば会話や相談のしやすさも大きく関連するので、共感できるような外部パートナーかという視点は重要です。

私自身、この記事を通じて共感いただけるような、一緒に新しい何かを生み出すプロジェクトをご一緒できるチームに出会えることを期待しています。


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