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子育て回想記~卒乳~

私は、3歳まで、
母のおっぱいを
飲んでいたと言う。

平均的に見て、
それが早いのか遅いのか
良く分からないけれど、
家族からは、いつも、
こんなに大きくなるまで
飲んでいたとか
甘えっ子だった
と聞かされていたので、 
普通はもっと早く
卒業するものなのかな
と思いながら、
聞いていた。

私は、結婚後すぐに
仕事を辞め家庭に入った。
その後、息子が産まれ、
10年近くは、どっぷり
子育てに専念した。

息子は、母乳で育てた。
産んですぐは、
母乳の出が悪く、
ミルクと混合にしていたが、
1ヶ月程で、
母乳の出も安定し
それからは母乳1本になった。

初めのうちは、
時間を決めて
おっぱいを与えていたが、
離乳食も始まる頃になると
いつということなく
息子がぐずったり
求めたりすれば飲ませる
というように、
息子が主導権を握る形で
おっぱいを与えるようになった。

言葉をおぼえてからは、
ことあるごとに、
「おっぱい」
とおっぱいを求めてきた。

そんな風に、
息子とおっぱいは
切り離せないものだった。

いつまで飲むのかな…

時々
そんなことを思いながらも
せがまれれば
おっぱいを差し出す
そんな生活を繰り返していた。

息子が3歳の誕生日を
迎える少し前に、
ふと、
卒乳しようかな
と思った。

来年の春から、
幼稚園に通う予定
だったこともあり、
11月の誕生日が
辞めるタイミングとして
ベストのような気がしたのだ。

一方で、自然に任せても
良いのかなぁと
思うところもあった。
どうしても、
辞めなければならない
という理由もないし、
放っておいても
いずれは
辞めることになる
だろうから。

そこで、試しに、
本人に聞いてみた。

「もうすぐ、〇〇の
3歳のお誕生日だね。
また、一つお兄さんになるね。
大きくなるから、
おっぱいも、もう、
おしまいにしてみる?」

「うん。いいよ」

息子は、あっさり答えた。
予想外の答えに驚きつつも、
本人がそう言うのだし、
まぁ、うまくいくかどうかは
別として
とりあえず、やってみよう
そう思った。

そして迎えた卒乳の日。
息子は、
一度もおっぱいを
求めることなく
無事に日中を過ごした。
少し、拍子抜けしたが、
勝負はここからだ。
長い夜を乗り越えられて
初めて本当の卒乳と言える。

私は、起こりうるであろう
様々なことを想定しながら、
眠りについた。

真夜中。

案の定、
息子が寝ぼけて
おっぱいを求めてきた。

そうだよね…
そうなるよね…

予想通りの展開に
ここから何日も
かかるであろう
卒乳への長い道のりを思った。 

求めてきたら、
飲ませてもいい
そう思っていた。

すると、
突然、息子が
部屋の隅っこの方に行って
うずくまった。
寝ぼけているのか、
それとも
お腹でも痛いのか…。

「どうしたの?」

声をかけると
息子は、
静かにすすり泣いていた。
もしかして、
おっぱいを我慢して…
私は思わず、

「おっぱい飲む?」

と聞いた。
息子は、泣きながら
激しく首を横に振った。

部屋の片隅で
静かにすすり泣く息子の姿が
何とも切なくて、
いじらしくて、
私まで
泣いてしまいそうだった。

息子が頑張っている。

「偉いね」

私はぎゅっと
息子を抱きしめた。

やがて泣き疲れた息子は
私の腕の中で
静に眠りについた。

結局、この夜、
息子は、朝まで
おっぱいを飲まなかった。

一日おっぱいを
飲まなかったのは、
この日が初めてだった。

その後、数日は、
同様の夜が続いたが
1週間ほどで、
泣くこともなくなり、
完全に卒乳した。

大きくなりたい

その思いが、
自ら卒乳を決意させ、
自分の力で困難を
乗り越えた。

こんな卒乳があるのかと
私は心底驚いた。


今思い返しても
あの時の息子の姿には
胸が締め付けられる。
と同時に、
3歳の決意に
我が子ながら、
凄いなと感心する。


その息子も、
今は、もう中学生。

今日は、息子のソフトテニスの
練習試合を見に行った。
息子を応援しながら、

あ~いつの間にか
こんなに
大きくなって…

胸がいっぱいになった。



子育ての思い出。
それは、
いつまでも、こうして
私の中で輝き続ける。

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