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学級崩壊…それでも、私は、彼らと過ごす幸せな未来を諦めなかった…。

私は
地域コーディネーターという
仕事をしています。

学校とボランティアをつなぐのが
私の役目ですが
ボランティアさんと一緒に
ボランティア活動もしています。

週に3回
3年生の習字支援があります。

2学期になり、
ボランティアさんの都合がつかなくなり
私一人で対応することが
多くなりました。

2か月程前に
習字支援について
こんな記事を投稿しました。

今日取り上げるのは
また別のクラスです。

このクラスは
1学期から
かなり騒がしいクラスでしたが
2学期になり
状況はさらに悪化しました。

担任の先生は
(おそらく1年目の)
若くて優しい男の先生です。

習字の時間は
習字専科の先生が指導していますが
その先生の手にもおえない状態で。

1学期の頃から
そのクラスが騒がしくなると
隣のクラスの年配の男の先生が
よく喝を入れに来ました。

「静かにしなさい!」

その一声で
騒がしかった教室は
一瞬で静かになりました。

でも、しばらくするとまた…。

2学期になると
O先生の言葉に
耳を貸さない子も出てきました。
T君です。

指示に従わないT君に対して
O先生がさらに声を荒げると
T君は

「あぁ、イライラする!」

と怒りを露わにしました。

やがて
適切な行動をとることを
一切やめてしまいました。

副校長先生や
教育指導の先生
色んな先生が
変わるがわる様子を見に来ました。

力で従わせること
それは何の解決にもならなくて。
それどころか
問題はますます
大きくなっていきました。

O先生のしたことは
元々信頼関係のない中で
相手との距離を広げたにすぎませんでした。

とは言え
私自身も、どうしたら良いか
分からなくなっていました。

さて、
つい先日
図書館に行った時のこと。

偶然ある本が目に留まりました。
それは…
『嫌われる勇気』

数年ぶりに再読しました。
正直
私は本の内容を
ほとんど忘れてしまっていました。

『嫌われる勇気』
というタイトルの言葉が
あまりにもインパクトがあり過ぎて
どうやら私の中に
嫌われることを恐れない
という教えだけが
強く残っていたようでした。

改めて読み直し
今の自分に必要な本だと
実感しました。

とは言え…

課題の分離。
叱らない。
しかも褒めない。

果たして出来るのだろうか…
そんな思いにも…。

ただ、本に書かれていることは
頷けることばかりでした。

荒れている子どもたちは
悪いとされることを
あえてしています。

先生や私の目の前で
悪いことをすることで
注目を浴びようとしているのです。

いわばそれは
子どもたちからの挑戦状であって。
こちらがその挑戦状を受ければ
子どもたちの行為は
エスカレートしていくだけでしょう。

たとえ、叱られるという
関わりであっても
自分に目を向けてもらうこと
注目されることが
彼らの目的なのですから。

例えば
ある日のT君とA君。
ずっと流しで水遊びをしています。

ある日のY君。
教室中をうろうろ歩き回っています。

そうすれば
間違いなく誰かが注意するからです。

また、流されやすい子は
この悪い流れにすぐに同調してしまいます。
そうすることで
あっという間に
クラス全体が騒がしくなって…。

もはや
習字の授業どころではありません。


その日も、T君は
習字の授業を完全にボイコット。

習字道具はロッカーに入れっぱなしで、
筆洗い用のペットボトルだけを手に取ると、
中に水を入れて席に着きました。

最近、席替えがあり
T君の席は
窓際の一番後ろの席になりました。

T君は
ペットボトルのキャップを外すと
少しずつ机の上に流し始めました。

やがて
机の上は水びだしになりました。

私はその様子を横目で見ながら
一切口出しをせず
真面目に授業を受けている子どもたちの
支援にあたっていました。

T君のすぐ脇には
雑巾かけがあって
数枚の雑巾がかけてありました。

T君は、
そこから雑巾を取り
机を拭き始めました。
1枚では足りず
2枚、3枚と次々に。

雑巾がびしょびしょになると
そのまま雑巾かけにポンポン放りました。

雑巾はびしょびしょのまま
無残にも床に落ちていきました。

濡れた雑巾を振り回して
周りの子に
水しぶきをかけたりもしていました。

時々T君の視線を感じました。

課題の分離。
叱らない。

その思いで授業に臨んだ私は
正直、途方に暮れていました。

今ここで注意してしまったら
T君はこの方法を
これからも選択し続けるでしょう。

悪いことをすることで
注目してもらうという方法を。

では、どうすれば…

悩みながら
その日は
T君のいたずらには目を向けず
あえて冷静に
他の子のサポートに当たりました。

ただ
ある女の子への
いじめともとれる
行為が見られた時だけは
我慢出来ず叱ってしまいました。

「OOちゃんの気持ちを思うと
 悲しくてたまらない…。
 そういうの、私…嫌い!」

T君は、にやりと笑いました。

後になって気付きました。

私の不安や迷い、思い込みが
このような現実を引き寄せたのだと。

この後、私は、
子どもたちと楽しい時間を過ごすことだけに
意識を向けていきました。

結局、
T君に対して
勇気づけと言えるような援助が
何一つ出来ないまま
片付けの時間となりました。

片付けの時間も
相変わらず
流し一面をびしょびしょにして
遊んでいたT君。

次の人が並んで待っていること
間もなく授業のチャイムが鳴ることだけを伝え
私は、濡れた床を黙々と拭き続けました。

今日はこのまま終わってしまうのかな…

何とも言えない気持ちで
教室に戻りました。

ふと見ると、
筆洗い用のペットボトルが
段ボールの中で
倒れてぐちゃぐちゃになっています。

そこへT君が来て
自分のペットボトルを
ぽんと放り投げました。

「あぁ、ぐちゃぐちゃだね。
 これ、誰かきれいに並べられる人いる?」

私が言うと、

「俺できるよ」

T君が言いました。

えっ?!
一瞬驚きました
すぐに私は言いました。

「ありがとう」

ようやく言えた…。
胸いっぱいに
温かいものが込み上げてきました。

いつもは
ペットボトルを並べるどころか
人の物もでもお構いなしに
投げたり、
つぶしたり
やりたい放題のT君が
みんなのペットボトルを
きれいに並べてくれたのですから。

「ありがとう」
「助かった」

私は笑顔でもう一度言いました。

授業の終わりに
ようやく
T君への勇気づけができました。

私は嬉しくて
すぐに習字の先生にも伝えました。

「T君がペットボトルを並べてくれて
 助かりました」と。

その後のことでした。

T君が席に着きました。

相変わらず落ち着かない子が
数人いる中
T君は彼らに流されることなく
終わりの挨拶まで
席を離れませんでした。

もちろん
この日の勇気づけが
またうまくいくとは限らないでしょう。

ただ、
この日のT君との関わりによって
叱らないこと
褒めないこと
そして勇気づけることについて
深く考えることが出来ました。

「ありがとう」
という言葉に依存することなく
T君の存在そのものを認めてあげられるような
そんな関わりが出来たら…
そう思います。

私がT君と過ごせるのは
1週間に一度の習字の時間だけ。

そう考えると
正直、
私に一体何が出来るのだろう…
そんな思いも湧き上がってきます。

でもそんな私に
もう一人の私がこうささやきます。

「あなたが望む未来を創造していこう」と。

私の望む未来。
それは…
クラスの子どもたちと過ごす楽しい時間。
 
そうだ。
次の時間はそんな楽しい時間にしよう。
どんなことが起こっても
この気持ちさえがあればきっと大丈夫…

また来週にはT君
そしてクラスの子どもたちに会える…

そう思ったら、
私の心は躍りました。

実は
この記事はここで終わりのはずでした。

でも
それから1週間後に起こった出来事を
どうしても記さずにはいられなくて。


その日は清書の日でした。

習字の準備を一向に始めないT君に
「T君、今日は習字する?」
と尋ねてみました。
その時は
「やらない」
という返事が返ってきたので
「うん。分かった」
と答え、他の子の支援に向かいました。

授業の途中で
もう一度
声をかけてみました。

そしたらね、
こう言ったんです。

「やろっかな…」って。

私は嬉しくて仕方ありませんでした。
急いで2人で準備をしました。
久しぶりの習字でしたから
基本も何も全て忘れてしまっていましたが
それでも
なんとか2枚書き上げることが出来ました。

私はT君に言いました。

「今日、久しぶりに
 T君とお習字が出来て、私、嬉しい。
 こうやって一緒に出来るのも
 あと少しだけだからね…」

「なんで?」

T君が驚いたように言いました。

「4年生になったら
 もう、こんな風にお手伝いには来ないの。
 だからね、
 今日、久しぶりに一緒に出来て
 とっても嬉しかったの」

T君は黙って聞いていました。

今日は
流しでの水遊びも早めに切り上げたT君。

そして、なんと、

みんなのお手本がしまってある段ボールを
自ら進んで
用具室に運んでくれたのでした。

私は思わず
T君の後を追って
大声で叫んでしまいました。

「T君、ありがとう!」と。

そしたらね、
他の子も
次々にペットボトルの箱やら何やらを
片付けてくれて。
しかも、手伝ってくれた子は
いつも大騒ぎして
授業を妨害する子ばかりで。
その顔ぶれを見て
思わず笑ってしまいました。

「みんな、ありがとう!
 全員男の子だったね。
 ◯組の男子、なかなかやるね!」

こんなに幸せな気持ちで
授業を終えられたのは
久しぶりのことでした。

授業の後は休み時間。

駐車場に向かう私の所に
クラスの女の子が集まってきて

「先生見て!」

得意の縄跳びや一輪車を
披露してくれました。

空には雲一つない青空が広がっていて。

「気持ちいいね」
そう言いながら
休み時間の終わりまで
私は子どもたちと一緒に過ごしました。

子どもたちと楽しい時間を過ごしたい

私が思い描いていた世界が
目の前に広がっていました。

習字の時間も休み時間も…。

あぁ、世界はこんなにシンプルなんだ…。

この日私は
宇宙の法則を体感したのでした。



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