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これまでの当たり前を捨てて、新しい扉を開いた。そこで見たもの…。

私は
現在、住宅型老人ホームで
少しだけ働かせてもらっています。

週に2回。
一日ほんの4時間ほど。

他の仕事のこともあって
週2回、
一日3~4時間程度の仕事を
ずっと探していました。

そんな中
資格がなくてもOKという
介護の仕事に目が留まり
応募したところ
半月ほど経って
ある施設を紹介されました。

希望の地域より
遠い場所でしたが
とりあえず
見学させていただくことにしました。

結果、見学のその日に
そのまま採用となり、
あっけなく
新しい仕事がスタートしました。

私はこれまでずっと
子どもと関わる仕事を
してきました。

正直、介護の仕事は
私の選択肢の中には
ありませんでした。

きっかけは
息子の一言でした。

随分前のことになりますが
息子から
「お母さん、
 介護の仕事が合ってると思う」
と言われました。

ただ、その時は
意外な答えに驚いただけで
やってみようとは
思いませんでした。

今年になって
空いた時間に出来る仕事はないかと
探していた時に
また同じことを言われ
初めて心が動きました。

3年前に亡くなった
祖母の介護のことが
頭の片隅にあったのかもしれません。

もちろん
甘い仕事ではないこと、
体力的にもかなり
ハードな職場だということは
noteの記事でも
よく目にしていました。

それに資格のない私に
一体何が出来るのだろうという
不安もありました。

でも
お母さんに合っていると思う
という息子の言葉に
自分のこれまでの当たり前を
捨ててみるのも良いのかなと
思ったのです。

介護の仕事を
視野に入れ始めた矢先に
主人と友人に
同じことを言われました。

死と直面した時に
耐えられなくなるのではと。

私を心配してのことでしたが
同じ答えが返ってきたことに
正直驚きました。

周りから私が
どんな風に見えているのかを
改めて知ったような気がしました。

さて、
見学と思っていた訪問で
思いがけず面接となり、
経歴や
現在の仕事
無資格未経験者であること
3年前の祖母の介護のこと
なぜこの仕事を選んだか
包み隠さず全てお話した私に
施設長さんがこうおっしゃったのです。

「これまで
 お年寄りではないにせよ
 子どもや大人つまり
 命と向き合うお仕事をされてきた
 ということは
 この仕事に生きてくるでしょう。

 そして、
 こんなことを言うのもあれですが
 むしろ介護の仕事の経験がないことは
 自分流がない
 変なプライドがないと言う意味で
 良いことでもあると思います。 
 こちらとしては
 ぜひお力をいただきたいです」と。

全く関係のない職歴と
無資格が
採用理由になるとは
思ってもいませんでした。

しかも
週2回1日4時間という
こちらの条件も
すべて受け入れていただけて。

この展開には
少々驚きはしましたが
ここでの経験、学びは
私の人生に
何らかの意味をもたらしてくれる…
そんな風に思い
ワクワクしました。

そして
いよいよ新しい扉が開かれました。

とは言え…

正直
初日は苦痛でした。

何がって…

職場はとても忙しいのに
私はとても暇だったのです。

あまりにも忙しすぎて
指導する暇がない…。

今出来るささいな仕事を
とりあえず任され、すぐに終わる…。
そんな繰り返しで
時間を持て余してしまったのです。

命に関わる仕事ゆえに
なおさら無資格の私は
自分の判断で
むやみに手を出すことは
許されません。

だからと言って
忙しい皆さんに
何度も何度も指示を仰ぐことは
正直憚られました。

幼稚園の仕事や
地域コーディネーターの仕事では
自分の考えや判断で
ある程度動くことが出来ましたが
知識も経験も全くなく
下手に手出しが出来ない
介護の仕事では
にっちもさっちもいかず
何も出来ない自分が
もどかしく思えました。

そんなこんなで
すぐに
仕事を増やせる状況ではなかったため
今出来る事を
丁寧に、
そして楽しむ事から始めました。

洗濯物をたたむ。
始めは速さが勝負と思っていましたが
時間が余ってしまうので
心をを込めて
丁寧にたたむことにしました。

そして
たたみながら
持ち主の名前と部屋の番号を
おぼえることにしました。

日本史の年号や人物の名前を
おぼえた時のように。

語呂合わせにしたり
誕生日や記念日
何かと結び付けて
ストーリー仕立てにしたりして。

そして、
洗濯物を届けに行った際に
顔と名前を一致させて。

そしたら
何だか楽しくなってきました。

それから
他の仕事も丁寧に行う事にしました。

「丁寧にやらなくても大丈夫だからね」
「適当でいいからね」
と言われましたが、
何と言っても
私には時間があるのです。

仕事が無くなったら
する作業も教えてもらいましたが
その仕事も何週間も先の分まで
進んでいるので
それは最終手段に取っておいて
今の仕事を丁寧にすることにしました。

入浴後に着る
衣類の準備を頼まれた時は
コーディネートを考えて
服選びをしました。

普段忙しい介護士さんが
なかなかできないことを
時間がある私が心を込めてやろう。

今、私が出来ることは…

面接の際に言っていただいた
これまでの私の仕事が生きてくる
という言葉をかみしめました。

職種は違えど
これまでの経験は
決して無駄ではない…

これまで
多くの人と関わる中で
いつも大切にてきたことを
ここでも実践しました。

「失礼します」
「お疲れ様です」
「ありがとうございます」
「よろしくお願いします」

どんな時も
笑顔で挨拶をしました。
相手が
微笑んでくれてもくれなくても。

仕事が違うだけで
大切なことは
そう変わらない…。

今の私にも出来る事がある…。

仕事に慣れていけば
新しい喜びや楽しさも
感じられるようになるだろう…。

そう思いながら
2回、3回と出勤を重ねるうちに
私と同じように
資格の無い先輩や
手の空いた介護士さんから
今の私に出来る仕事を
色々と教えていただけるようになり
少しずつ仕事が増えていきました。

簡単な食事の介助や
吸引容器の回収、洗浄も
任されるようになってきました。

さて、
様々な職員さんに
色々なことを教えて頂く中で
職員さんの人となりも
少しずつ分かってきました。

働き始めて早々に
ある年配の職員の方を
怒らせてしまったことがありました。

直接怒鳴られた訳でなくて
「叱りにくるかもしれないけれど
 右から左に聞き流していいからね」
と先回りしてフォローして下さる方がいて。
いつ来るかと
ドキドキしながら待っていたのですが
その日は何事もなく終わりました。

次に出勤した時には
その方はお休みでした。
フォローして下さった方が
「この間、大丈夫だった?」
と心配して声をかけてくださって。
何もなかったことを話したら
「良かったね」と。

他の方も
「〇〇さんはね
 先輩風吹かせたいところがあってね。
 私がその場にいたら
 なんか言ってあげれたんだけどね」
と言ってくださいました。

そんなこんなで
先輩を怒らせてしまったことより
フォローしてくださる方の存在が
嬉しくて有難くて
幸せな気持ちになりました。

とは言え
後日再会した時は
さすがにドキドキしました。
でも、
かなり時間が経っていたこともあって
何事も無かったように
普通に話しかけてくださって、
ほっとしました。

入居者さんのことも
少しずつおぼえてきました。

Kさんという方の部屋に
初めて訪れた日
私が何か気に障ることを
してしまったようで
「もう来るな!」
と怒鳴られてしまいました。

こだわりが強くて
怒りっぽい方だと分かって
次会う時には
その辺を気を付けて
丁寧に関わりました。

そしたら
ご機嫌に過ごしてもらえて。

部屋を出る際に名前を聞かれ
「なおみさん、ありがとう」と
お礼を言って、
手まで振ってくれました。

その時は
やったね!
と思いました。


さて、
この頃は
おむつ交換にも同行させてもらい
介護士さんの補助をしながら
一人一人に応じた
介護の仕方を教えていただいています。

こうして
介護士さんの仕事を
間近で見させていただく度に
私の中に沸々と湧き上がってくるのは
介護士さんへの敬意の念です。

本当に尊い仕事だな…と。

中でも
介護士のAさんとの出会いは
この職場で働くことが出来て
本当に良かった…
そう思えるほど
素晴らしいものでした。

歳は50代半ばぐらいでしょうか。
かなりベテランの方でしたが
私のようなパートに対しても
決して偉ぶることが無く
とても謙虚な方で
その優しい笑顔と穏やかな口調に
初めてお会いした時から
ステキな人だなと思っていました。

先日初めて
Aさんに同行させていただきました。

Aさんの隣にいて
私は涙をこらえるのに必死でした。

Aさんは
おむつを代えさせていただく
そんな気持ちで
おむつ交換をしておられてて…。

目をつむったまま、
ほとんど反応がない方に対しても
おむつを替える前には必ず
顔を見て
「ごめんなさいね。
 おむつの中、みせてもらいますね」
そう一言詫びて、
優しく声をかけながら
丁寧に丁寧に作業をしていきます。

それはまるで
入居者さん
お一人お一人の中におられる
神様とお話されているかのようでした。

このような愛溢れる介護を
見させていただくことが出きたことを
とても幸せに思いました。

初めてこの施設のことを知った時、
住宅型老人ホームと言う名前から
家庭的な部屋をイメージしていましたが
様々な介護が必要なこともあって
部屋の印象は
病院の個室に限りなく近いものでした。

もちろん
デイサービスに出かけることもあり
毎日部屋に籠もり切り
というわけではありませんが
普段は
個室でテレビに向かって
一人で過ごすことが多い入居者さん。
寝たきりの方はなおのこと。

どんな思いで入居されているのだろう
そんな思いが過ります。

体が思い通りにならない…
個室に籠もり切り…
そんなことを思えば
ささいなことに
イライラしてしまうのも
無理もないこと…
そんな風にも思えてきます。

ただそこに
介護士さんへの
感謝の気持ちがあるかないかで
入居者さん自身の苦しみも
随分と軽くなるだろうとも思います。

自宅であっても
施設であっても
大切なのは
介護される人と
介護する人
どちらも人間らしくいられること。
そこに感謝や喜びを見いだせること。

Aさんの介護は
正にそんな介護の姿でした。

3年前
私の実家で
母が祖母を介護していた時
それがとても難しかったのです…。

長年の嫁姑問題が
ただでさえ辛い介護を
より苦しいものにさせていました。

亡くなる半年ほど前から
祖母はすっかり子どもに返り
その時点でようやく
嫁姑関係はなくなりましたが
大半は
母にとっても
祖母にとっても
長く苦しい介護生活でした。

最期に
住み慣れた自宅で
逝かせてあげることが出来た
そのことが
母にとって
せめてもの救いだったようです。

偶然にも
主人も昨年から
職場で福祉関係の担当になりました。

お互い、
介護の実態を知った今
家族のことや
自分たちのこれからについて
話す機会が増えました。

自宅での介護
施設での介護

どちらの現状も知った今
改めて
健康であることの有難さ、
尊さを感じました。

そして
お互い健康で、
自分らしく生きていけるよう
心も体も
大切に過ごしていきたいねと
話しました。

願わくば
ピンピンコロリだね…と。

こればっかりは
どうなるか分かりませんけれどね。

息子の提案から
突然開いた新しい扉。

まだまだ
分からないことだらけですが
施設長さんが
面接でおっしゃってくださった

命と向き合うお仕事をされてきた
ということは
この仕事に生きてくるでしょう

この言葉を胸に
今私の出来る事を
一つ一つ丁寧に
やっていきたいと思います。

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