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一瞬にして私の心を癒してくれたもの~オオイヌノフグリとの優しく温かな思い出~

絵を描き始めて
ひと月ほど経ちました。

それは
絵を描くことが苦手な私が
かみさまと交わしたやくそく。

庭の草花や鳥を描いています。

スミレ
モミジの葉
ツルニチニチソウ
クレマチス
マーガレット
柏の葉
シジュウカラ

そして
オオイヌノフグリ。
これは
私が好きな花。
そして
初めてスケッチして
挫折した花。

まだ庭に咲いていましたので
再チャレンジしました。

本当に本当に小さな花。

オオイヌノフグリを見ていたら
一人の女の子を思い出しました。


それは
今から20年ほど前
幼稚園で働いていた時のことです。

私が受け持っていた子に
Oちゃんという女の子がいました。

背が高くすらっとしていて、
長い黒髪は
いつもに二つに分けられ
きれいな三つ編みで整えられていました。

Oちゃんは
人見知りで
とても緊張しやすい子でした。

緊張すると
体がふらふらぎこちなく揺れ
目玉は上を向いたり横を向いたり
あちこち泳ぎ出します。

それでも
幼稚園には
仲良しのお友達がたくさんいて
毎日楽しく過ごしていました。

Oちゃんは
絵を描くのが得意でした。

それはお母さんゆずり。

連絡ノートに
ささっと描かれた
イラストを見るたびに
こんな風に描けたら
楽しいだろうなと
いつも思っていました。

Oちゃんはきっと
小さい頃から
お母さんが楽しそうに絵を描く姿を
間近で見てきたのでしょう。

絵を描くことは
Oちゃんにとって
生活の一部のように
自然なことで
絵を描くことそのものが
喜びでもあるように見えました。

そしてそれは
園生活を送るうえで
Oちゃんの心の支え、自信にも
つながっていたように思います。


当時ポケモンが大流行。
幼稚園でも
誰からともなく
ポケモンごっこが始まりました。

ピカチュウのお面があったら
楽しいだろうな…

そうは思ったものの
絵が苦手な私は
さっさと描くことは出来なくて…。

何かの切り抜きを使おう…
そう思っていました。

そ、し、た、ら…
なんと目の前にピカチュウの絵が!

それは
Oちゃんがお絵描き帳に描いたもの。

これだ!

そう思った私は
すぐにOちゃんに
聞いてみました。

「Oちゃん、
 このピカチュウの絵、
 とっても素敵だから
 コピーして
 お面にしてもいい?
 先生こんな風に描けないから」

Oちゃんは
快く承諾してくれました。

早速Oちゃんの絵を
拡大コピーして
ポケモンごっこのお面に
使わせてもらいました。

クラス子どもたちにも大好評。
Oちゃんも喜んでくれました。


さて、ある日のこと。
Oちゃんが
手のひらに何かを
優しく握りしめて
登園してきました。

「せんせい…」
「おはよう、Oちゃん」

Oちゃんが手のひらを広げると
その中には
小さな小さなオオイヌノフグリが。

「せんせいにあげる」
そう言いかけて
「あっ…」
と驚くOちゃん。
見ると、花が茎から取れています。

そう。
オオイヌノフグリの花は
ちょっとしたことですぐに
取れてしまうのですね。

「ありがとう」
そう言いましたが、
Oちゃんは、がっかりして
「取れちゃったから、
 明日また持って来る…」
そう言いました。

それでも私は
そのかわいいお土産が嬉しくて
プリンカップに水を入れ
取れたその花を浮かべました。

翌日
Oちゃんはまた
オオイヌノフグリを
持って登園して来ました。

昨日のことあって
今日は濡れたティッシュに
優しく包まれていました。

見ると
今日はちゃんと
花が茎についていました。

無事に届けられて
Oちゃんもホッとした様子。

「ありがとう。かわいいね」

そう言って
小さな容器に飾りました。

このオオイヌノフグリは
朝、バス停で見つけたのものなのだそう。

小さな小さなオオイヌノフグリを見て
Oちゃんは、
心が躍ったのでしょうね。

それで、それを
私に持って行ってあげたいと
思ったのですね。

前日、
オオイヌノフグリの花は
取れてしまっていたけれど
Oちゃんの気持ちは
私にちゃんと届いていて。
私はその気持ちだけで
十分嬉しかったのです。

もちろんOちゃんとしては、
ちゃんと花が茎に付いたものを
届けたかったのでしょうけれどね。

だから、
翌日にはOちゃんの願いも
ちゃんと叶って
良かったなあと思います。

オオイヌノフグリを描いていたら、
Oちゃんとの
優しく温かな思い出が
甦ってきて
幸せな気持ちになりました。


Oちゃんは
私が受け持った最後の子ども。

私は、
そのクラスを受け持った年の3月に
主人と結婚し
幼稚園を退職しました。

披露宴に
クラスの子どもたちが
サプライズでお祝いに来てくれて…。

驚きと嬉しさで
ポロポロと涙を流す私に
子どもたちが
一人一輪ずつお花をくれました。

その後、
教頭先生から
突然楽譜を手渡されました。

つい先日の修了式で
子どもたちと一緒に歌った歌を
私のピアノ伴奏に合わせて
子どもたちと歌いました。

ウエディングドレス姿で
子どもたちと歌った歌。

今でも忘れられません。

その子どもたちも
今はもう大人になりました。

元気にしているかな…。


Oちゃん、お元気ですか。
先生、今、絵を描いています。
今日は、庭に咲いていた
オオイヌノフグリを描きました。
オオイヌノフグリを見ていたら
Oちゃんのことを思い出して
何だかとっても
幸せな気持ちになりました。


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