深呼吸して、ぺこぱ的作法で「大人」になろう。
口数を制する人は知識をわきまえた人。冷静な人には英知がある。
無知な者も黙っていれば知恵があると思われ
唇を閉じれば聡明だと思われる。
旧約聖書 箴言17章 27－28節 （新共同訳）
こんにちは、くどちんです。キリスト教学校で聖書科教員をしている、牧師です。
私は今年で40歳になったのですが、いまだに「大人になりきれんな～」「大人って大変やな～」と思うことがあります。最近もそんなことを思いました。年末調整書類の提出で……（泣） ダメな大人なので、あの手の事務処理が苦手なままここへ至っております。ぐすん。まあ何とかやりおおせた、はず、だけど（自信無い）。
長田弘さんの詩集『深呼吸の必要』の中に、「あのときかもしれない」という作品が収録されています。
「きみはいつおとなになったんだろう。きみはいまはおとなで、子どもじゃない。子どもじゃないけれども、きみだって、もとは一人の子どもだったのだ。」
こんな書き出しで始まる、長い散文詩です。
子どもの頃を振り返りつつ、「いったいいつおとなになったのか」「いったいいつ子どもじゃなくなったのか」、「あのときかもしれない」「そのときだったんだ」と様々に思い巡らす、そんな内容です。
詩人の語る「そのとき」については作品自体を味わっていただくとして、私も私なりに、全く詩的ではないけれど、「あー、こういう時に『大人になった』って思うなぁ」なんて感じる折々があります。
先日思い当たった「大人の定義」は、「言わなくていいことを、言わずにいることができる」というものでした。
子どもって何でも思い付いたことを口に出してしまったりしませんか？ 私の弟は小さい頃、バスの中で白髪のおじいさんを見かけ、母親に「ねえ、どうして髪の毛が白くなるの～？」と尋ねました。母は声をひそめつつ、「年を取ったら白くなるんだよ」と答えたのですが、それを聞いた弟は「えー、年を取ったら髪の毛が白くなるの？ じゃああの人もうすぐ死ぬのー？」と大声で言ったのでした……。母はすぐさまバスを降りたそうです。
さすがに大人になると、そこまであからさまなことは口にしないとは思うのですが、それでも「言わんでいいことをわざわざ言うなぁ」と思う人もたまにいますし、自分でも「あー、あれは別に言わんでいいことやったなぁ、そのせいであの人の気を悪くさせたかもしれんなぁ」とくよくよしてしまうことがあります。そういう時、「口は禍の元」ということわざが身に沁みます。
聖書の中にも似たような言葉があるのでご紹介します。それが、冒頭に引用した「箴言」の言葉です。「箴言」というのは、戒めとなる格言のことを言いますが、旧約聖書にまさにこういう表題の格言集があるのですね。
紀元前に書かれたこの文章の中にも、「口数を制する」ということの大事さが語られているんですね。ということは、裏を返せば人は何百年もずっと「しまった、いらんこと言うた～！」と後悔し続けてきているということなのでしょう。いじらしいね、人間って。
とはいえ、この数千年の「言わなきゃよかった」中でも、直近の10年程はきっとずいぶんと様相が変わったんだろうなという気がします。ひとえにSNSのためです。
対面で「うっかり言い過ぎた」も問題だけど、その時は相手の顔色が見えたり、それを受けて自分もその後フォローできたりする部分があると思うんですよね。でもSNSだとテキスト中心なので、そういう「あそび」や「余白」の部分が無くなっちゃって、「言葉 対 言葉」というような切迫感が生まれてきてしまっているのかもしれません。
書かれている言葉の向こう側には、書かれていないもっといろんな思いや背景があるかもしれないし、こちらが投げかける言葉も深かったりもやもやと上手く言葉に集約しきれない思いを十分に掬い取っているとは言えない。数十字には収まりきらない「もっといろんな何かがある」ということを、十分想像する必要があるんですよね。
目に入ったテキストメッセージに対して、「そんなのはおかしい！」と思ってとっさに反論のリプライを送ってしまう……ということもあるでしょう。でもそんな時、ひと息置いてみるといいのかもしれない。先に紹介した本のタイトル、「深呼吸の必要」は、そんな時に有効な気がします。ふ～っと息をついて、「そんなのはおかしい！ ……とは言い切れないのかもしれない」と、ちょっと立ち止まってみるのはどうでしょう。
はて、この言い方どこかで聞いたことあるな……と思ったら、「ぺこぱ」ですね。そうか、ぺこぱ的作法でいけばいいのか。
カッとなって反射的にリプライしてお互い言い過ぎてしまうのではなく、深呼吸してぺこぱ的に応対すれば、冷静で英知のある大人な振る舞いができるかも……なんて思ったのでした。
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