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子どもには親しかいない。

大学で教えていると、学生の色々な側面に触れることがあります。もちろん、人間のプライバシーを守る観点から、ここに書けないことはたくさんあります。ですのでこの記事では学生の言葉のうち、特に胸に刺さったものについて想いを巡らせる記事を書こうと思います。

先日、学生とZOOM面談をしました。授業内であまり話す時間を取れなかった反省と、学生が精神的な悩みを持っていることを人前で話すのは避けたかったのではないかと考えて、オンライン面談にしました。

その学生の言葉で一番突き刺さったのは、「子どもには親しかいないんです」という一言です。

4歳と6歳の子どもを育てている父親として、この一言はとても重く響きます。いつも楽しそうにしている(と私は思っている)子どもですが、この子達にとっては父親は私しかおらず、母親は妻しかいません。当たり前のように聞こえますが、当たり前ではないのです。

例えば、子どもが食べ物をこぼしたり、動画を長くみていたり、勉強ができなくてイライラしたりすることがあります。そういう時に、親としてどう反応してあげれば良いか常々考えます。

食べ物をこぼしたら掃除しないといけないので、親としてはイラっとしてしまうでしょう。動画を長くみていたら目が悪くなるし、勉強時間もなくなるので、やっぱりやめてほしい。それが親の本音ではないかと思います。

ですがそれをそのまま子どもに、苛立ちと共に伝えるとどうでしょうか。やはり怒りや負の感情は伝染するもので、言われた子どもも嫌な感情になってしまいかねません。

そういう時、私は目的は何かを一度定義するようにしています。そしてその中で感情を整理してから物を言うようにしています。掃除をしなければいけないのは親の都合。だけど目的は子どもが食べ物をこぼさないように行動を変えてくれること。お皿の上で食べれば床にこぼすこともなく、怒られることもない。

そこで「お皿の上で食べてくれたら、食べ物が下に落ちないからお父さんは嬉しいよ」と言います。イライラをぶつけることなく、行動変容に集中する。とはいっても、行動はすぐに変わるわけでもなく、何度となく言わなければならないのが親には負担ですが・・・。

大学でも同じよう接しています。通訳ができなかったからダメ出しするのであれば、誰でもできるんです。特に授業前に教材の英語を聞いておいて、自分の中で訳出をある程度作っている場合、学生の通訳に非があることが余計に目についてしまい、ダメ出しをするのが仕事になっている授業もあったりします。

ですがそれだけでは行動変容はできないように思います。ダメ出しだけでなく、問題を回避するための行動を強化する助言を与える。「今の訳出は良くない」ではなく、「今の訳出では外国人にこう伝わってしまうので、この部分を別の言い方に変えると、誤解されずに通訳できると思います。もう一度やってみましょうか」というように私は授業しています。

学生の面談、子育てから大学の授業まで話が逸れてしまいましたが、この三つに共通するのは「他者理解が第一」だということです。

7つの習慣でもコヴィー博士は"Seek to understand first before being understood"「理解されようとする前に、まず相手を理解しようと努めよ(試訳)」と言います。これは非常にパワフルな言葉ですが、日常で実践できている人は果たしてどれほどいるのでしょうか。

知り合いと世間話をしていても「今の若者はこうだ」「子どもはこうだからダメだ」「あの人は分かっていない」という決めてかかる人がいます。ですがそれは主観であるかも知れません。相手を、つまり若者、子どもや「あの人」のことをまず理解しようとしたのでしょうか?その姿勢を示したのでしょうか?

先ほどの面談に話を戻すと、学生は「ただ話を聞いて欲しかったんです。理解しようとする姿勢を示してくれることで、自殺を思いとどまることもできますし、苦しみを和らげることができます。先生が話を聞いてくださったことに救われました」と話してくれました。

やはり話を聞く、そして相手を先入観なしに理解することが大切なんだと感じます。本当に理解しようとする時、そこには沢山の質問が発せられます。聞かないと分からないからです。そして大事なのは、相手を完全に理解できなくても、少なくとも理解しようとする姿勢を示すその姿が相手に感動を与えうるのだということです。

正直なところ、この面談で結論めいたことは何もありませんでした。解決策も示しませんでした。ですがそれでも良いと思うんです。目的のない対話。解決策を示さない会話。理解することに集中する会話。話を聞くとなった時、何か目に見えて達成できなければいけないと思う男性もいるかも知れません。しかし求められているのはそれでは無い場合もあることを、お伝えしたいのです。



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