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ソウルワークとしての同時通訳

2023年1月24日。昨日は神戸ポートピアホテルにて国際防災・人道支援フォーラム2023が開催されました。私はその同時通訳者として、言語の面でサポートをさせて頂きました。この記事では通訳者かつ、阪神大震災の被災者という視点で私の思いを書いていきたいと思います。

本フォーラムはYouTubeで日英同時通訳のライブ配信という贅沢なセッティングで提供されています。

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被災者が通訳する意義

私は神戸で生まれ、7歳の時に阪神大震災を経験し、社会人になってからは関西関東様々な会社で社内通訳者として8年ほど勤務し、その後フリーランス通訳者に転身し、生まれの地神戸に帰ってきました。どこに住んでいても、神戸に帰りたい、神戸の為に何かしたいという気持ちはありました。その思いを自分なりの形で表現してきたのが、神戸通訳ツアーです。

そんな私にとって、阪神大震災そしてその教訓を全世界に発信するという本フォーラムは、ライフワークを飛び越えてソウルワークです。自分の魂がこの仕事を欲していると言っても過言ではないほど、私はこのフォーラムで通訳をすることに意義を感じています。

フォーラムでは基調講演で人と未来防災センター長の河田恵昭氏が話されました。印象に残っているのは、「日本の防災をもっと世界に発信しないといけない」というところです。この言葉は通訳者としての仕事に意味をもたらせてくれました。28年前は被災者として本当にたくさんの人々に助けていただいた。その恩返しがしたい。通訳を通して兵庫の防災を発信することに貢献できることに、胸が熱くなります。

実際、通訳ブースはこんな感じでした。

同時通訳ブースから。

このフォーラムでは通訳が始まる前に、登壇者と打ち合わせができるという嬉しい特典があります。河田さんと打ち合わせをした時に、緊張したのですが「私は震災で被災したものです。その私がここで通訳できることを本当に幸せだと感じています。これだけはお伝えしたかったです」と勇気を出して言ってみました。すると河田さんは「はい」とだけ返事され、打ち合わせは終わりました。果たして本当にメッセージが伝わったのか、よく分かりません・・・。

通訳して印象に残った言葉4つ

フォーラム内で通訳していて特に印象に残った言葉をここでは要約して紹介したいと思います。

1) SDGsの目標1は「貧困をなくそう」というと、我が国は関係ないと思ってしまいますが、そうではない。元々は「災害をなくそう」というのが仙台防災枠組みで話されましたが、災害が多発するのは世界の国の1/3とされています。1/3の国のみのことを全世界の枠組みに反映することができなかった為に、「貧困をなくそう」となった。このことを理解している人は日本でもあまりいない。SDGsの目標1が貧困をなくそうというのは、災害をなくそうということなのです。(河田氏)

2) 文明はいわば科学です。技術も進化していますが、それだけでは防災は完成しません。科学に偏重しているから避難しない人が出てしまうのです。人々が防災を習慣として、日常で行動に起こせる必要があるのです。これが文化です。防災には文明と文化の両方が必要なのです。(河田氏)

3) 国難災害を防ぐことが、実は国際貢献なのです。というのも日本は国際協力を多くしていますから、日本自体が国難災害で壊滅してしまうと、国際協力ができなくなるからです。(林春男氏)

4) 災害の語り継ぎというのは縦軸、つまり時間を超えて語るということです。世代間の語り継ぎです。一方で異なる国々の人々が交流して語り合うというのもあります。これは横軸、つまり場所を超えて語るということです。(小林郁雄氏)

大学英語教育/通訳者教育への活用

このような公開イベントでの通訳は、私にとってメリットがいくつもあります。まず大学での授業で教材に使えるということです。私は4月から関西の私立大学で英語の授業を担当させていただくのですが、そこでSDGsを扱おうと思っています。せっかくSDGsを教えるのなら、自分の経験から話せる教材を使いたいし、作りたい。そんな思いがあります。ですので今回の動画も、SDG 4の教育に必ずや活かされると確信しています。

もう一つのメリットは、通訳者教育にも使えるということです。この動画は公開されていますし、実際に私が行った仕事ですから、通訳現場をほぼそのままレッスンに使うことができます。

通訳訓練をするときの悩みの一つに、教材の現場性があります。現場性には実際に通訳者が通訳できる内容なのか(再現性)、それが時宜を得たものなのか(時宜性)、また通訳させて学習者に教育効果があるのか(効果性)などが含まれます。本フォーラムはそれら全てをカバーしている為、貴重な教材です。

受講生に「この動画を来月の課題とします」とLINEで共有したところ、「3時間半もある・・・」と絶望の声が聞こえてきました(笑)。ですが通訳者はこれくらいするものだ、という感覚を掴んでほしいですし、レッスンまでに数週間あるので、自分の中でどうやって動画の内容を理解し、通訳練習して当日を迎えるのかという学習計画も立てられるようになってほしいと思います。そんなことを考えながら、ブースで通訳していました。

ブースで通訳している様子。

改めて、本フォーラムで通訳させていただいたことを本当に光栄に思います。来年もお力になれることを楽しみにしています!


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